君の髪を撫でる僕。
僕はまた嘘をついた。
君は今日も疲れ切ってワンルームに帰宅する。
僕は「お疲れ様。お帰りなさい。」と言い、君の髪を優しく撫でる。
君はきつくひとつ結びにしていた髪を繊細な手でゆっくりと解く。
君が僕に言う。
「ありがとう。ただいま。」
その一言だけで、僕の心にあった寂しさのわだかまりが溶けていく。
君の声が僕を包み込んでくれる。
だから、僕の方が君にいつも救われているんだよ。
でもそんなことには君は気づかない。
だけどそれでいい。気づかれないままでいい。
そのままで僕は居たいから。このままで。
しかし、哀しいことに朝になってしまえば、君はまたこのワンルームから出て行ってしまう。
僕は一人きりになる。
また24時間の孤独と鬱と葛藤しなければいけない。
君を出迎える為に僕はその闘いに勝たなければいけない。
君と僕の世界を守る為に。
僕は今日も生き抜くよ。
そんなことを思いながら眠れぬ夜を過ごす僕。
隣ですやすやと眠りにつく君。
僕はまた君の髪を撫でる。愛でる。
愛しているから。
朝を迎えるのも怖くない。
今は二人共にシングルベッドで温もりを分かち合っているから怖くない。
僕は思う。
『本当は、このまま朝が来なければいいのに。君とずっと二人で居たいのに。』
だが解っている。そんなの僕のエゴだということに。
だから僕も眠りにつくふりをする。
それもまた君は気づいてない。