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なんか

 私は好きな漫画はくどいほど再読するのだけれど、昨日「違国日記」を読んでいて、

①「なんでも器用にこなせる人に私なんかの気持ちはわからない」

 という科白にひっかかった。これ、「なんか」の位置によって微妙に意味が変わってくるだろうし、著者の意図する意味と、読者が受け取る意味にはずれが起きやすいんじゃないだろうかと思ったのである。

 そもそも、「なんか」とはどういう意味だろうか。

なんか
[副助]《代名詞「なに」に副助詞「か」の付いた「なにか」の音変化から》名詞、名詞に準じる語、活用語の連用形、一部の助詞などに付く。

1 一例を挙げて示す。…など。「この着物なんかお似合いです」「映画なんかよく行く」

2 ある事物を例示し、それを軽んじていう意を表す。…など。「彼の言うことなんか聞くな」「君になんかわからない」


 原文の「なんでも器用にこなせる人に私なんかの気持ちはわからない」という科白は、発達障害傾向のある小説家が、何でもそつなくこなす恋人に向けた言葉である。「私に代表されるような(発達障害傾向のある人の)気持ちは分からない」とも、「私(のような不器用な人間の)気持ちは分からない」、どちらとも取れるのである。

 それでは、「なんか」の位置を変えてみる。

②「なんでも器用にこなせる人なんかに私の気持ちはわからない」

 これは、なんでも器用にこなせる人を一旦は持ち上げつつも、「なんか」を挿入することによって、「そんな人には私のことはわかりっこない」と見下しているようなニュアンスが生まれる。

 もう一か所、「なんか」を動かすとしたらここだろうか。

③「なんでも器用にこなせる人に私の気持ちなんかわからない」

 原文とほぼ同じではあるが、「なんか」が「私の気持ち」にかかっているので、仮に2の意味で著者が書いたなら、原文が私全部を卑下する表現だったのが、「気持ち」だけを軽んじる表現になっており、少しマイルドになっているなあと思う。

 しかし、こんな風に言葉だけをとらえて考察してみたところで、著者が本当に伝えたかったニュアンスは十分伝わらないのだと思う。というのは、著者自身が「なんか」の意味や使い方を勘違いしている可能性があるからだ。また、読者の側でも、「なんか」の意味を把握していなかったり、この文脈では、二つある意味のうちどちらなのかが分からなかったりする可能性がある。この位置に「なんか」があるにも関わらず、しっかり読まずに、自分の言葉のクセを脳内変換して②や③で捉えていることだってあるかもしれない。

 今回たまたまこのようなことを考えただけで、私も、普段単語の位置を慎重に選んで話したり書いたりしているか自信がない。神をちゃんと細部に宿らせてあげないとなあと思った次第である。

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紅茶と蜂蜜
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