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小説 もう献立に悩まない
今日は一月七日。七草粥の日ですね。ご存じ、お節で贅沢な料理続きだった胃に優しいものを食べるという習慣ですが、皆さんはもう召し上がられたでしょうか?
さて、毎日の献立があらかじめ決められるようになって半年が経ったわけですが、生産現場ではこの大変革をどう受け取っているのでしょうか。今日は県内の養鶏場にお邪魔しています! 養鶏場の経営者の横田さんです。おはようございまーす!
――おはようございます。
ここでは約一万羽の鶏を飼育しているということです。従来、養鶏といいますと鶏たちは狭いケージに入れられ、大変不健康・不衛生な環境で育てられているというイメージでしたが、こちらの養鶏場ではほら、見て下さい。鶏はおがくずの敷かれた養鶏場内を自由に動くことができるんですよー。週に三回、交替で外の農場での半放し飼いも行っているそうです。
横田さん、国民統一献立法、いわゆる献立法が制定された影響というものはどうでしょうか。
――最初は養鶏場を経営している仲間で、鶏の消費量が減るのではないかと心配しておりましたが、却って助かっています。
と言いますと?
――これまでは、たとえばクリスマス時期にはローストチキンの需要が増えるといったように、需要の増える時期にはかなり無理をして飼育しなければなりませんでした。また、そういうシーズンが終わると逆に需要が減って、安く肉を売らなければなりませんでしたが、そういうことがなくなったのが助かっています。献立表を見越して、余裕を持った計画的な飼育ができるようになりました。
ということなんだそうです。導入当初は、献立を国によって決められることへの反発も大きかったわけなんですが、家庭でも、日々の献立に悩まなくなり、効率的な栄養補給ができるようになりましたし、生産者としても、ひいては食料の安定供給という面でもかなりメリットが大きかった、というわけなんですね。
このビニールカーテンの奥はどうなってるんでしょう? ちょっと覗いてみましょう。
――あっ、そこは……!
ビニールカーテンの奥は、大規模な工場になっていた。大小のステンレス製の棒が交互に上下していたり、透明なプラスチックの管にどろどろとした緑色の液体が流れていたりした。レーンの一番終点と見られる場所からは、明日の献立になっている、鶏南蛮が等間隔に並んで排出されていた。
「生放送でなくて良かった」朴訥な農業人風だった横田さんの顔は、別人のように険しかった。なにかまずいことをしでかしたことだけは分かったが、貼り付けた笑顔を取るべきかどうか決めかねて、レポーターは青ざめた顔で笑ったままだ。横田さんは彼女が身に付けていたパーカーの肩に縫い付けられた、ふざけた顔のぬいぐるみと彼女を、射るような目つきで交互に見た。
「これだけ種の絶滅や異常気象が起こっているのに、本物の鶏肉なんて供給できるわけがないでしょう。表にいる鶏はデモンストレーションですよ。国民が本当は何を食べているのか、政府が公表するのは国民統一献立法がもっと浸透してからなんですから、絶対に放映しないでくださいね」
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