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糖尿病という病気

 どうもえあです。しがない糖尿病内分泌内科医です。ちなみに、私自身は糖尿病です。
 私はツイ廃なのですが、この病気について140字で語るのはちょっと無理かなと思って、noteに書いてみるをやってみようと思います。
 そんだらめちゃくちゃ長くなりました…

 私は4歳から1型糖尿病で、病歴は25年くらい?年齢を考えるのはやめてください。
 今はインスリンポンプで治療しています。ちなみに持効型インスリンは打ったことがありません。
 物心ついた頃にはインスリン分泌は途絶えていて、注射なしでは生きていけない体でした。実は私には糖尿病じゃなかった頃の記憶が全くなく、注射なしで食べれた経験がほぼないので、その差異で苦しむことがなかったのはある意味幸いだったのかもしれません。
 とはいえその頃は、今のように優れたインスリン製剤はなかったので、打ってから30分待たないと食べれずフラストレーションで発狂したりはしていたんですけど。

 まあそんな話は置いておいて。

 1型糖尿病というのは、注射なしでは生きられないし、どうして発症するのかもよくわからない自己免疫疾患であり、理不尽かつ治療が難しい、という結構なしんどさを誇る疾患です。
 突然具合が悪くなって緊急入院して、「あなたは1型糖尿病です。これから先一生、注射をしないと生きていくことができません。がんばりましょう。」なんて言われちゃう、それはそれは苦しい病気なのです。
 その上、ですよ。「糖尿病」という病名は言われない差別を受けやすいです。
 糖尿病は「生活習慣病」として知られ、「だらしない」「食べたくても食べられない」なんて言われちゃう。
 なりたくてなったわけでもない、理不尽な病気なのに。

 ここで「糖尿病」の話をしましょう。色んな説明がありますが、私なりに。

 糖尿病は、尿に糖が混じりがちな病気です。

ってのが名前の由来。そして腎性糖尿病(腎臓が糖を漏らしちゃう)を除いた遍く糖尿病においては、高血糖が原因になります。
 なので一般的に言う糖尿病は、(尿糖が出るレベルに至らずとも)血糖値があがりやすくなる病気のことです。そして冒頭からちょいちょい出ている「インスリン」は、体の中で積極的に血糖値を下げる、ほぼ「唯一のホルモン」です。
 実際の働きは血糖値を細胞内に取り入れるためのホルモン、つまり細胞に栄養を届けてくれるホルモンなので、これがないと全身の細胞が飢えて死にます。
 1型糖尿病の多くは、自己免疫によりこのインスリンを分泌する膵臓の1部が壊れてしまい、インスリンを出す能力(インスリン分泌能)がなくなってしまいます。
 残念ながらインスリンは注射でしか補充できないので、1型糖尿病患者さんや、膵臓を失った患者さんは注射なしでは生きていくことができません。
 じゃあ栄養を細胞に届ける分だけのインスリンを補充すればいいのかと言えば、それだけでは不十分です。
 必要最低限の栄養を細胞に届けたとして、余った糖は血液に残ります。この分が過剰になった状態を「高血糖」といい、高血糖状態が頻繁にみられたり、長く続くと、血管が傷んだり、様々な細胞(体を守ってくれる免疫細胞や、修復してくれる細胞など)が動きにくくなって、風邪をひいたりこじらせやすくなったり、傷が治りにくくなったりします。
 またひどい高血糖が続けば、インスリン自体が出にくくなるという悪循環に陥ってしまいます。
 高血糖がちな糖尿病患者さんは、どうしても風邪をこじらせて入院したり、手術をすぐ受けられなかったり、様々な合併症に至ったりしてしまいやすいのです。

 これを防ぐためには、血糖値を適正に保たなければいけません。
 そして困ったことに、血糖値は高すぎても低すぎても体に毒になります。

 先程、血糖値を積極的に下げるほぼ唯一のホルモンはインスリンだ、と言いました。じゃあ上げるのはなにか。
 基本的に体は栄養を求めます。血糖というのは体中に必要な栄養素を安定して届けるために必要なものであって、これを維持するためのホルモンはたくさんあります。
 そして血糖値を維持するためのホルモンがたくさんありすぎると、高血糖の原因になります。これはこれで治療が必要。
 でもホルモンはあくまで体の中に溜め込まれている栄養を、血中に持ち出すだけです。
 ちなみにこの「溜め込む」のにもインスリンが必要です。

 やっぱり、いちばん血糖値を上げるのは、外からやってくる栄養です。

 外からやってくる栄養の量が、体が出せるインスリンで処理できる能力を上回ると血糖値が上がります。
 つまり、栄養が多すぎても、インスリンが少なすぎても血糖値が上がります。
 1型糖尿病はわかりやすいですよね。インスリンが全く出ない、だから何を食べても高血糖になる。

 少し話が逸れますが、人にはそれぞれ個性があります。
 その個性の中には、「インスリンの出しやすさ」だったり、「インスリンの必要量」だったり、「食欲」だったり、色んなものが含まれます。そして、出せるインスリンの量を、必要な量が上回れば誰しも高血糖になるわけです。
 ちなみに日本人はそもそも、インスリンを出す能力が低い人が多いです。
 インスリンを出せる量が少なければ、そりゃ糖尿病にもなりやすくて当たり前でしょう。でもこのへんのことをわかってる人はあまり多くありません。
 多くの人は未だに、「栄養を摂りすぎると糖尿病になる」という偏見だけ持っているのだと思います。

 現代は飽食の時代と呼ばれ、低栄養で調子を崩すひとは随分減りました。
 逆に、必要以上に栄養を摂ってしまう、結果として血糖値があがってしまう人が多いです。
 でも実は、十分なインスリンを出す能力さえあれば血糖値は上がりません。無限にインスリンが出れば、無限に食べても血糖値は上がらないのです。
 でもそうはいかない。体には限界があるし、体脂肪が増えたり筋肉が少なかったりすると、体にインスリンが効きにくくなって、インスリンの必要量が増えます。
 同じ量を食べ続けていても、過剰が続けばどんどん血糖値はあがりやすくなります。そもそもインスリンが効きにくい体質の人もいます。
 ちなみに、インスリン分泌能が低い人はそもそも栄養を「溜め込む」ことができないので、めちゃくちゃ痩せてても糖尿病になる人もいます。

 そして歳をとれば誰しも、インスリンを出す能力も衰えていくものです。
 要するに体質の問題が背景にあるんです。

 もちろんインスリン分泌能が低くてもあんまり食べない、たくさん動く、たくさん筋肉がある、みたいな人は糖尿病になりにくい(ならないわけじゃない)。
 インスリン分泌能があっても、インスリンが効きにくい体質の人は糖尿病になりやすい。インスリン分泌能があって、インスリンが効きにくいわけじゃなくても、無限に食べ続けていればいつかは糖尿病になるかもしれない。
 そんな感じ。
 そしてどれだけ気をつけていたって、なる人はなるしなる時にはなるし、なりやすい人は一生なりやすいままなのです。

 とはいえ糖尿病と生活習慣は切っても切れない関係です。栄養も運動も(ちなみに運動はインスリン関係なく血糖値を下げてくれますし、筋肉量が増えればインスリンが効きやすくなります)、いわゆる「生活習慣」ですもの。

 じゃあ、「生活習慣が『悪いから』糖尿病になる」のか?と言えば、答えは否だと思います。
 同じ生活をしてても糖尿病になる人ならない人がいるのに、それだけを原因としてしまうのは早計ですよね。
 まあ、同じ体質でも生活習慣によって、糖尿病になる人ならない人がいるのも真なのですが。

 ところがこの、「栄養が多すぎたり、運動してない『せいで』糖尿病になる」という認識だけが、哀しいかな多くの人間の頭にはあります。
 もっとたくさんの理由があって病気になるのに、そこは認知されていない。人によっては「努力で糖尿病は治せる!糖尿病であり続けるのは甘えだ!」とか言うことも。
 ……そういう人に対しては、えーと、治せてよかったですね。って思います。
 でもその人だって、元通りの生活習慣に戻れば元通りの糖尿病になるでしょう。体質はそうそう変えられませんから。

 多くの糖尿病患者さんたちは、この認識に苦しめられています。

 1型糖尿病患者さんは、この点強い。なぜなら、「生活習慣とは関係なく発症した」ことが自明だから。
 これは、他人に対して振るわなくとも、自分の心を守るために強固な盾となります。心を守ることは大切なので、この認識自体はそれほど責めるべきものではないと私は思ってます。
 治療自体も難しいですし。
 問題は、そういった患者さんの中に「特別な私たちが言われなき偏見を受けるのは、2型糖尿病患者のせいだ」と信じ込み、攻撃する方がいることです。

 いやどう考えても悪いのは社会の認識だろ。それが間違ってるんやぞ。2型糖尿病患者さんはむしろ共通の被害者なわけで。
 あと「私たちの方がしんどい!」は多分真なんだけど(病態として)、君らがいくらしんどくても、2型含めた他の糖尿病患者さんたちが「しんどくない」わけじゃないじゃん。
 病態としてより苦しんでいることは、他者を傷つける免罪符にはなりませんから。

 高血糖になる糖尿病なんて、ひとまとめに説明できるんですよ。

 「生活習慣と体質が合わない」

 んです。これは1型も2型も、その他の糖尿病もみんなそう。

 1型糖尿病患者さんがインスリン打たずにおやつ食べたら超高血糖になる、不十分でもなる、そういう体質だから、不足分を注射で補充して、体質を補う。更に食べる量に気をつけたり運動したりして、合わせやすくする。
 2型糖尿病患者さんが薬を使ってインスリンの出をよくしたり、薬や減量で体質を改善したり、生活習慣を変えてインスリン必要量を減らしたりする。
 ホルモン過剰によるなら手術したり薬を減らしたり。
あとは、なんにせよどうにもインスリンが足りなきゃ注射するしかないです。どの糖尿病でも。

 「生活習慣」も「体質」も、千差万別です。
 糖尿病にはこの薬をこれだけ使えばどんなのでもうまくいく!はない。
 生活習慣をこうすれば、どんなのでもうまくいく!もない。
 だからたまたまうまくいった自分の経験を全般化して語るのも浅はか。
 合う薬も、合う生活習慣も、できること(内服や注射も含め)も、それぞれ違うわけだし、やれることしかできませんもん。

 また少し話が変わるんですが、多くの、治療中の糖尿病患者さんは、大抵の人より「健康的な生活」をしていると思います。
 現代人なんてみんな運動不足だし、惣菜も外食も全量摂れば大抵エネルギー過剰だもの。
 なにも考えず生活してたらいわゆる「健康的な生活」なんて到底できないと思います。
 自分は気を付けてるよ!って人がたくさん居るのもわかっていますが、自分の生活に絶対の自信が持てない人の方が多いでしょう。
 だから、例えば糖尿病患者さんの、月1回のお食事会、唯一の楽しみであるそれを「やめろ」と責められるほどの人はどれだけいるのでしょうか。というかそこまで責められる人生はつらすぎませんか?

 あと、1型だからいくら食べてもたくさんインスリン打てばいいんや!なんてことはありません。
 食べたら食べただけ太るし、インスリンは効きにくくなって、コントロールは悪化します。1型と、インスリンが効きにくいタイプの糖尿病が合併する、とでも言いましょうか。
 これは割とよくある話です。そもそも1型糖尿病患者さんでも、効きやすいひと効きにくい人がいるわけですし。

 脱線しました。本筋に戻ります。
 これはいつも言っていることなんですが、病気になりたくてなる人なんて居ないのに、自己責任で病気になったんだ!なんて言うのはひどい話じゃないですか?
 自分なりの生活をしていたら、突然糖尿病と言われた。
 あれがよくなかったのかな、これがよくなかったのかなと思いを巡らせるでしょうが、ほんとに、他の人と比べて、とんでもない生活してる人なんてごく稀ですよ。
 発症したら粛々とそれぞれの体質にあわせて、体質を変える治療や体質に合った生活習慣を手に入れる、なんてのは、別に1型も2型も他の糖尿病もみんな一緒です。
 というか極論、そうした方がいいのは糖尿病の人も糖尿病じゃない人も一緒じゃないですか?

  誰だって食事には気を使った方がいいし運動はした方がいいんですよ。
 いいじゃないですか、みんなでおいしい低糖質スイーツの話するとか、健康的なレストランの話するとか、別に糖尿病だから〜なんて枕詞なくたっていいじゃん。
 だめなのかなあ。

 なんてことを考えながら日々過ごしています。長くなりましたね。え、本当に全部読んだんですか?!すごい。。

 私はもちろん、1型糖尿病じゃなかった方が楽だったなあと思ってますけど、今ここから見える景色は病気だったからこそ見えているものです。
 うまく付き合いながら、長くやっていけたらいいなと思ってます。
 特技はインスリンポンプとカーボカウントなので、もしご興味があれば、いやなくても、ここまで読んだ人は全員Twitterで@eajoydm をフォローしてくれていいですからね、お待ちしてますわよ。ふふん。

 それではそれでは、またどこかでお会いしましょう。どうも、えあでした。

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