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阪田知樹 ピアノ・リサイタル 2024 横浜みなとみらいホール

新年最初のコンサートは阪田知樹さんのリサイタル。昨年も同じ1月7日に横浜でリサイタルだったのは特に狙ったわけではないのだとか(笑)昨年は令和5年度(第72回)神奈川文化賞未来賞を受賞された阪田さん、毎年横浜でお年賀リサイタルが恒例になったらおもしろいですね。

今回のプログラムは複数の曲がシリーズになっている作品で統一されていました。後から気づくのですが、なんとアンコールまでも!レパートリーの多い阪田さんならではかもしれませんね。

この記事はクラシック音楽初心者が、勉強がてらコンサートの余韻を味わう目的で残す、備忘録に近いコンサートレポートです。

プログラム


ベリオ:水のクラヴィーア(1965)
ショパン:24の前奏曲 Op.28
シューマン:クライスレリアーナ Op.16
バルトーク:戸外にて Sz.81/BB89
<アンコール>バルトーク:3つのチーク県の民謡
<アンコール>ガーシュウィン/ワイルド:I Got Rhythm

公演日:2024年1月7日 (日)横浜みなとみらいホール 大ホール

チラシ(両面)

ベリオ:水のクラヴィーア(1965)

まずは作曲家と作品について、阪田さんと同じレコードレーベルから発売しているCDの紹介文を拝借。

第2次大戦後のイタリア前衛音楽を代表する作曲家、ルチアーノ・ベリオは、ダッラピッコラについて12音技法を学び、1955年のミラノの電子音楽スタジオを開設とともに、そこを中心に精力的に活動しました。6つのアンコールは本来単独に書かれましたが、その後「地・水・大気・火」のクラヴィアを4部作とし、さらに「芽」、「葉」を加えてピアノ曲集として出版された作品です。

アンドレア・ルケシーニのCDのライナーノーツより

瑞々しいメロディと音の美しさに加えて、その想起させる情景がとても美しく、静かで洗練された美術館でモダンアートの絵画を見ている気持ちになりました。公演のチラシやプログラムの作品名に発表年が記載されているのも、違うバージョンがあるのかと少し気になりますね。

当日配られたプログラムによると、ベリオ(1925-2003)の初期の作品はバルトーク(1881-1945)やストラヴィンスキーの影響を感じさせる、そんな作曲家なのだとか。今日のプログラムのつながりがここにもありました。

筆者は昨年8月に阪田さんの軽井沢公演ではじめて聴いて以来これで2度目だったのですが(筆者のnote記事)阪田さんの美音で聴いて、現代音楽の魅力に目覚めそうな予感です。

ショパン:24の前奏曲 Op.28

この日の阪田さんは何か癒しの周波数を発していませんでしたか(笑)。年始の痛ましいニュースを想うような、優しさと包容力に溢れた演奏に聴こえました。
音楽とは不思議なもので、プログラムはそれよりずっと前から決まっているものなのに、その日その時に必要な人に必要なメッセージをやりとりできるものというような感覚がしました。

つい注目してしまう最後のドーンという2音、筆者の思い違いかもしれませんが、左手で。確か軽井沢でも左手だった記憶ですが、そういえば前回の見比べシリーズで左手(指)の奏法は入れていなかったことに気づき、見つけました。巨匠・アシュケナージさんが左手でした!(サムネイルが出ずにすみません!「YouTubeで見る」をクリックしてみてください)

阪田さんは人差し指が添えられたような奏法でしたが、素人目にはあの最強フォルテは利き手が弾きやすいと想像するのですが、そういえば阪田さんの利き手はどちらなんでしょうね。そして、その手のかたちがどこか見覚えのあるような…と思い出せずに一晩寝かせてようやくわかりました。影絵のキツネ!(阪田さんとファンの皆様すみません)

シューマン:クライスレリアーナ Op.16

こちらも8曲で構成された作品。ショパンと交流があったシューマンが、その敬愛の証にこの作品をショパンに献呈していることでもプログラムの良い流れがありますね。(お礼にショパンからバラード第2番が贈られたというのも胸熱エピソード)

クララとの結婚を反対されていた頃に書かれたこの作品は、切なさや葛藤、情熱が感じられるドラマティックな曲。阪田さんの程よく歌う演奏を心地よく聴いていましたが、意外にも穏やかな部分が印象に残りました。クララと過ごす温かく平穏な日々を願うシューマンの気持ちが、なんだかリアルに感じられた気がします。

クライスレリアーナは小学生の頃に感激した作品だとおっしゃっていた阪田さん。どえらい感性をもった小学生だったのですね(笑)

動画は最近10年ぶりの来日コンサートで話題になったブーニンさん(音源のみ)


バルトーク:戸外にて Sz.81/BB89

  1. 太鼓と笛

  2. 舟歌

  3. ミュゼット

  4. 夜の音楽

民族音楽研究者でもあったバルトークが描く屋外で聞こえる音といえば、動物の鳴き声やどこかの家などで演奏される土着の音楽。夜をテーマにした作品はロマンティックだったり神秘的なものが多いですが、バルトークはそのあやしい空気感、不安を煽るような野生動物などを想起させます。

筆者は先月、明治安田ヴィレッジ クラシックコンサートで「夜の音楽」と「狩」をお聴きしましたが(筆者のX (旧Twitter) の感想)、暗く静かで何が起こっているのか知れない夜にカーン!とキレよく響く得体のしれない動物の声など、リアルで秀逸。また、この日は阪田さんが忠実に表現するハンガリー民謡の独特で難しいリズム、その凄さに震える思いでした。昨年はブダペストでも演奏された阪田さん、ハンガリーでどんなインスピレーションを受けたのでしょうね。

動画は前回2018年の第10回浜松国際ピアノコンクールの覇者、ジャン・チャクムルさん。


<アンコール>バルトーク:3つのチーク県の民謡

阪田さんが昨年11月のN響定期公演のハンガリープログラムでもアンコールに演奏された作品。短い曲ですが、こちらは1分ほどの3曲から成る作品集で、バルトークが民族音楽を編曲したはじめてのピアノ作品のようです。「チーク県」とは現ルーマニアなのだとか。

ノスタルジックでキャッチーなメロディが耳に残り、どこか本能的な心地よさのようなものがあります。やっぱりバルトークいいなと、こうして素晴らしい演奏を聴くようになって、バルトークがどんどん好きになっていきます。

動画は本家ハンガリーのゾルターン・コチシュさん(音源のみ)


<アンコール>ガーシュウィン/ワイルド:I Got Rhythm

正式な曲名は「ガーシュウィンの主題による7つのエチュード 1. アイ・ガット・リズム」ということで、こちらも作品集。阪田さんが度々アンコールで演奏される「魅惑のリズム」もそのうちの1曲です。
そして超絶技巧練習曲であることに気づくのですが、ものすごい音数は阪田さんらしいアレンジだなと思ってしまったところ、こういう曲なんですね(笑)オリジナルのジャズ曲に馴染みがあるだけに、この超絶アレンジを弾くことができるピアニストはどのくらいいるのかと想像してしまうほどですが、編曲したワイルド自身、ヴィルトゥオーゾ・ピアニストとして有名な方だったようです。
最後の1音は肘!肘なのになぜあんなに上品で澄んだ音が出るのかに驚愕。阪田さんの音はどこまでも綺麗なのですよね。

動画はワイルドご本人の演奏(音のみ)


出典

アンドレア・ルケシーニ「スカルラッティ●ベリオ | シューベルト●ヴィトマン」 キング・インターナショナル

バルトーク :3つのチーク県の民謡 BB 45b Sz 35a ピティナ・ピアノ曲辞典

Earl Wild Michael Rolland Davis Productions

当日配られたプログラム


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