【電力小説】雪山の発電所での緊急対応
第4話「雪山の発電所での緊急対応」
突然の呼び出し
「スズ、山奥の星見川第三発電所で整流器が故障だ。お前も行くぞ。」
大狗電力センターの保守課で、先輩の加藤が短く言い放った。スズは一瞬言葉を失った。この発電所は冬になると完全に雪に閉ざされ、ヘリコプターでしか行けないと聞いていた。
「ヘリコプターで……ですか?」
「そうだ。現場を見て整流器盤を交換することになる。気を引き締めろ。」
未知の環境への不安と「私に役に立てるだろうか」という緊張がスズを襲う。それでも、スズは自分に言い聞かせた。「現場で学ぶしかない。」
ヘリコプターで雪山へ
ヘリポートから飛び立つヘリコプターの中、スズは眼下に広がる真っ白な山々を見下ろしていた。空気は澄んでいるが、景色には人の気配がなく、ただ雪に覆われた山々が広がるばかりだ。
「これが冬の発電所か……。」
ぽつりと呟いたスズの目に、雪に埋もれた星見川第三発電所の建物が映る。整然とした設計の古いコンクリート建屋が、雪の中でひっそりと佇んでいた。
ヘリコプターが発電所付近のヘリポートに着陸。ドアが開いた瞬間、冷たい風が吹きつけ、スズは体を縮こませた。耳を刺すような寒さの中、先輩たちが無言でカンジキを取り出す。
「スズ、これを履け。」
カンジキを初めて手にしたスズは、紐の結び方がわからず手間取る。加藤が手際よく教えてくれたが、いざ歩いてみると雪に足を取られ、バランスを崩しそうになる。
「もっと足を大きく上げろ。でないと埋まるぞ。」
「は、はい……!」
発電所の入口での試練
星見川第三発電所にたどり着いた一行を待っていたのは、凍りついた南京錠だった。加藤が鍵に手をかけるが、回らない。
「またか……毎回これだ。」
加藤はポケットからジッポライターを取り出し、鍵をあぶり始める。
火で氷が溶け、鍵がカチリと外れる音が響いた。その手際にスズは感心する。
「こういう技術も現場ならではなんだ……。」
発電所の中はさらに冷たく、機器が静かに佇む音のない空間が広がる。壁や床には歴史を感じさせる傷や汚れがあり、戦前から稼働しているという雰囲気を色濃く残していた。
整流器の初期確認
「整流器盤のところに行くぞ。」
加藤の案内で、スズは慣れない手つきで計器の記録を取る。緊張しながら数値を書き写していくが、途中で記録ミスが発覚。加藤が眉をひそめた。
「これ、違うだろ。」
「す、すみません!」
「焦るな。もう一度確認しろ。」
スズは冷や汗をかきながら再確認し、正しい記録を取り直した。計器が示すのは明らかな整流器の故障。先輩たちはすぐに「現場では直せない。整流器盤を交換するしかない」と判断し、事務所に戻り緊急発注することになった。
整流器盤の運搬作業
発注した新しい整流器盤が到着し、再びヘリで現地に搬入された。高さ約1m、重さ約50kgの整流器盤を、ヘリポートから発電所まで約50mの距離を雪中で運ぶ。
「スズはついてこい。荷物は俺たちがやる。」
加藤ともう一人の先輩が整流器盤を横にして雪上に置き、左右からそれぞれ持ち上げる形で運搬を開始した。雪に足を取られながらも一歩一歩進む先輩たちの息遣いが聞こえる。
「これ、絶対落とすなよ……。」
「わかってる!」
スズもカンジキを履きながら懸命についていくが、運搬作業の過酷さを目の当たりにし、「私にはできない……」と痛感する。
整流器盤の交換と試験
発電所に到着し、故障した整流器盤を取り外し、新しいものと交換する作業が始まった。スズは計器の記録を任され、慎重に数値を書き込む。
「次、電圧確認!」
指示を受けながら手を冷たくしつつ記録を続けるスズ。最終試験が進む中、計器が正常値を示し始める。
「よし、これで正常だな。」
「整流器、復旧!」
発電所が無事に再稼働を始めた瞬間、スズは胸を撫で下ろした。先輩たちの顔にも安堵の表情が浮かび、スズは「自分も少しだけ役に立てた」と思えた。
帰り道での学び
帰りのヘリの中、スズは現場作業を振り返っていた。初めての雪山作業で、記録ミスや運搬の苦労を目の当たりにし、「まだまだ私には学ぶことが多い」と痛感する。
加藤がポツリとつぶやく。
「雪山の現場は大変だが、こういう経験が一番力になる。今日はよくやったよ。」
その言葉にスズは勇気づけられ、「次はもっと役に立てるようになりたい」と心に誓った。
真っ白な雪山が遠ざかる中、スズの中に新たな決意が芽生えていた。