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【電力小説】第3章 第2話 緊急車両の試練

スズは緊張していた。事務所で森重主任から声をかけられる。
「スズ、今日はこの緊急車両で現場に行け。」

配属されてまだ数カ月、スズにとって初めての緊急車両の運転だった。主任が鍵を渡しながら付け加える。
「この車にはスピーカーがついてる。使うことは滅多にないが、非常時に備えて覚えておけ。」

主任が指さした運転席の操作パネルには、いくつものスイッチが並んでいた。その一つに「スピーカー出力」と書かれたボタンがあるのが見えた。

「普段は触らないでいい。間違えてオンにすると、外にラジオや車内の音が流れるからな。」

「了解です!」スズは返事をしながらも、「使わないなら大丈夫かな」と気を抜いてしまっていた。


ラジオの誤操作

現場に向かう道中、スズは緊張を和らげるため、主任の言葉を思い出してラジオをつけた。軽快な音楽が流れ始め、気持ちが少しほぐれる。

「この曲、いい感じ。」スズは自然と口ずさみながら、運転に集中していた。

ところが次の瞬間、彼女は街中の人々がこちらを振り返っていることに気づいた。

「え?なんでみんな見てるの?」

ふと操作パネルに目をやると、スピーカー出力のボタンが光っている。

「まさか……!」

スズは驚愕した。ラジオの音声が車上スピーカーを通じて外に漏れ、街中に響き渡っていたのだ。慌ててパネルを操作するが、どれを押していいのかわからずパニックに陥る。


パトカーに呼び止められる

さらに悪いことに、後方からサイレン音が聞こえてきた。振り返ると、パトカーがスズの車の後ろについている。「前の車両、停車してください!」

スズは路肩に車を寄せ、窓を下ろした。警察官が近づいてくる。
「すみません!スピーカーを間違えてオンにしてしまいました!」

警察官は状況を聞きながら呆れたように笑みを浮かべた。
「なるほど、確かに街中に音楽が響いていた。次から気をつけるんだな。」

スズは平謝りしながら、「もっと車両の操作をちゃんと覚えておくべきだった」と自分を責めた。


事務所での教訓

事務所に戻ったスズは、先輩たちにこの出来事を打ち明けた。先輩たちは大笑いしながら口々に言った。
「お前、DJ電力マンになったのか?」
「緊急車両が本当に緊急の放送を始めるとはな!」

森重主任は軽く笑いながらも、一瞬真剣な顔をしてスズに声をかける。
「スズ、いいか。緊急車両ってのは道具が多いからこそ、操作に慎重になるべきだ。覚えたつもりでも、焦るとミスをする。次は落ち着いてやれよ。」

スズは顔を赤らめながら、「次は絶対にミスしないようにします」と力強く答えた。


その後の成長

数日後、再び緊急車両を運転することになったスズは、出発前に操作パネルをじっくり確認していた。手順を頭の中で復習し、余計なスイッチに触れないよう意識を高める。

助手席に座る先輩が何気なく言った。「なんか操作が落ち着いてきたな。」

スズは少し微笑みながら答えた。「失敗は二度としないって決めたんです。」

車内に軽快なラジオが流れる中、スズの手は確実にハンドルを握り、進むべき道を選んでいた。


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天乃零(あまの れい)
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