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コロナで分かった「会社生活の小さな事が貴重」だった件 <シリコンバレーは今日も晴れ>

先日、仲のいい同僚Mのお別れ会に出席した。彼女は7年の勤務を経て、GAFAの一つに転職する。お別れ会は、新型コロナの影響で、Zoomミーティング形式で開かれた。時間になると、彼女のチームメートや仲良くしていた人々が次々に画面に現れた。皆手に手にワイングラスやビールを持っていて、コーヒー入りカップを持った私はちょっと恥ずかしかった。

控え目ながら明るいMの感謝の言葉と共に、会は始まった。アメリカ人が多いので、会話は途切れない。「新しい仕事はいつ始まるの?」「休みの間は何をするの?どこかに行く?」というおきまりの質問にMは「次の仕事が始まるまで約2週間あるけど、(新型コロナの影響で)旅行ができないから残念。でもハイキングに行ったり、近所の人の御宅に招かれたりしてる。まぁ、この機会にゆっくりするわ」と笑顔で答えた。

会話は彼女を中心としながらも、世間話にも花が咲く。出席者の住んでいる所が、SF、ロンドン、NY、LAと多岐にわたっているので、各地でのコロナ対応やBLMデモの様子にも違いがあり興味深い。

「コロナの期間に、実は不要なモノが分かった」という話にもなった。「家で料理することが増えて、今まで大して美味しくもない物に、どれだけ大枚叩いていたか分かったわ」というNY在住の同僚。「NYのレストラン特に高いもんね〜」と一同うなづく。

「スポーツクラブに行かなくても、結構家でエクササイズできるって分かった」という同僚もいた。彼女はモデル体型の女性で、今までスポーツクラブで筋トレを欠かさずやっていたという。「家では、ダンベル使ってるの?」という質問に彼女は、「ちょっと待って」と言って部屋を出て、何か黒くて分厚い陶器を持ってきた。豚の顔がついたワカモレボウルだ(直径30センチの厚みのあるすり鉢で、アボガドをその中で潰してメキシコ料理のワカモレを作る)。「これを上げ下げするのよ」と彼女がやって見せると、一同爆笑。(美女が豚の顔の陶器を必死で振り回している図は、笑える)。

ここで私が他の参加者に質問した。「外出禁止になって、会社での何が懐かしい?」。一人の同僚が言う。「うーん、会社の無料ランチ、それと休憩室にあった豊富なお菓子類とドリンク!」「同じ同じ」の声しきり。「お昼になると”ランチ来たよ~”っていう一斉メールが来たでしょ?それで仕事を一旦切り上げてたけど、今はなんだかダラダラ仕事して、一日のリズムがイマイチ...」「そうそう」の声多数。「やたらお菓子とか食べまくってる。コロナのストレスかな」と私。「私も僕も〜」の反応で少しほっとした(コロナ太りは共通の課題らしい)。

別の同僚(男性)がポツリと言った。「会社で何気なく皆で世間話したり、バカ話ししたりしたことが懐かしいよ。」「誰が辞めるとかいう情報も入りにくくなって、先日もW君が辞めるってこと、当日に知って結構ショックだった。」「本当にそうだよね。そういう何気ないことが如何に貴重だったかってことに気づくよねぇ...」皆の顔から笑いが一瞬消えて、一同悲しげに頷くばかり。

新型コロナ禍での外出禁止令が数ヶ月に及び、シリコンバレーの大手企業が軒並み「コロナ後も在宅勤務を許可する」と発表した。Twitterのように「希望者は全員、在宅勤務可」にした所もある。筆者の勤務する会社でも、その方向に向かいそうだ(勿論本社オフィスは残すが、出勤は週一など自由になる見込み)。一方、Googleの現CEO、ピーチャイ氏は「自宅勤務の機会は拡大するが、オフィスへの(交代制の)勤務は残す」と表明。「多様なチームが集まってブレーンストーミングをする、創造的なプロセスで、私たちは素晴らしい生産性を発揮できる」と理由づけている。

一理も二理もあるが、これは、自社保有ビルと資金を潤沢に持つGoogleの余裕の発言と見ることもできる。多数の企業は、コロナで在宅勤務でも案外仕事は回ると分かってしまった今、「在宅勤務者の増加、イコール事務所賃貸費の節約」なのだ。(例えば、Pinterestは、SFダウンタウンにあるオフィスのリースを一時金約90億円(!)を支払ってキャンセルした。) 今後、どんな勤務スタイルが企業にとって「最適」なのか...試行錯誤がしばらく続くだろう。

一時間余り経ち、皆が最後の挨拶をしてZoomの画面から去っていった。以前のようにハグのない別れは、何か物足りなく寂しくなった。Mの笑顔も、気のせいか少し寂しそうだった。

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