負けないようにできてるからな の事
「適切かどうかは分からないが、君が入院して闘病すると聞いた時、思い出したのはヘミングウェイの『老人と海』だった。特にこの言葉だね。
負けるようには造られていないんだ」
「負けないようにできてるからな!」
「それに似た文が大宰の『津軽』にあったのも連想した。なぜかはわからない。それでも君は負けないじゃないか」
「負けないようにできてるからな!」
「どっちが先に書いたのかはわからないけど。調べてみたら、『老人と海』が1951年。『津軽』が1944年に書かれている。ヘミングウェイが『津軽』を読んでいるとはとても思えない。すると、闘ってどんな形であれ、負けないと言う思想?は人類の普遍的な共通認識なんだろうね。じゃあ、負けないという認識はどういうことなんだろう? そう考えた時、それは人間が抱く希望ということなんだろうな、と思った。打ちのめされてもたとえ死んでも負けない、それは希望なんだと。希望がないとは人間は本当の意味での死と同義なんだろうな、と思ったりしたよ。希望こそが救いなのだと」
「負けないようにできてるからな!」
「そんな大きな希望なんていらないと思うぞ。大業な希望を持つのはかえって難しい。日々の日常の中で小さな希望をその都度認知することが生きてるってことなのかな、とか思ったりしたが。ともかくも、君の元気な声が聞けて良かったよ!」
「負けないようにできてるからな! 君はすでにこの話を僕にとっくにしてくれていたはずだよ。『津軽』には雪の描写があったはずだ」
「ヘミングウェイの見た海は広かったな。コヒマルに実際に行ってみると。また一緒にハバナを一服やろう! まだ残してあるんだよ! ハバナの葉巻!」
「昨晩リンパに激痛で、急遽今日CTになった。負けないようにできてるからな!」