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窪美澄『ふがいない僕は空を見た』

この記事は、日本俳句教育研究会のJUGEMブログ(2020.08.16 Sunday)に掲載された内容を転載しています。by 事務局長・八塚秀美
参照元:http://info.e-nhkk.net/

以前から気になっていた窪美澄さんの一冊を。『ふがいない僕は空を見た』は、第24回山本周五郎賞、本の雑誌が選ぶ2010年度ベスト10の1位、2011年本屋大賞2位、女による女のためのR-18文学賞大賞受賞し、映画化もされた話題作です。

5編からなる連作長編で、助産師の息子・高校生の斎藤卓巳をはじめとして、彼を取り巻く別々の人物が主人公に据えられているので、各作品の中で同じ登場人物たちが違った視点から描き出されていくことになります。一作目の「ミクマリ」がR-18文学受賞作ということもあり、女性が書く「性」をメインにしている感じで読み始めましたが、編を重ねていくうちに、何の救いも用意されていないような生きづらい世の中を生きる人々の「生」が浮き彫りになっていくような作品だな、と印象が変わっていきました。行き場のない人生に翻弄される登場人物たちのオンパレードなのですが、全編を通して「出産」という「生」を真ん中に据えているところに、この物語を支える希望があるようにも思いました。

と言いながら、生まれることが必ずしも幸福とは言えない現実はあまりにも残酷です……。

その最たるものが、全登場人物の中で、最も追い詰められたところにいる高校生の福田と言えるかもしれません。父は自殺、母に見捨てられ、認知症で他者に迷惑をかけ続ける祖母の面倒を見ながら、貧困の中食べるものすらままならない福田。にもかかわらず、そんな彼が、極限状態にいる自分をそっちのけに、他人のために「いじわるな神さま」に祈る現実を、切なくまた哀しく受け止め、作者の人間への信頼を見たように感じました。

同時に映画も鑑賞。本と同様、やはり、窪田正孝さん演じる福田良太が気になって仕方がありませんでした。