坂口安吾『桜の森の満開の下・白痴』『堕落論』
花盛りの日本です。桜はなぜにこんなにも美しいのでしょう。この時期だけ人を別世界に連れて行ってしまう桜を思うとき、確かに桜には人を狂わせるような魔力があるのではないか……。ふと安吾の『桜の森の満開の下』を思う時期でもあります。
ということで坂口安吾。高等学校の教科書にも収録されている「日本文化私観」は、生徒達の評判も良い作品ですが、無頼派の好きな私としてはどっぷり安吾節の強いものを……。
安吾の評論では「堕落論」が有名ですが、堕ちきることによって自己を発見&救済するという発想は、ある意味究極のプラス思考なのかもしれないなあと。古い習慣や道徳に嫌悪を示し、道徳的価値判断をしない無頼的作品が、なぜか読者を惹きつけてしまうのは、人間の欲望こそが生活の真実であり、人間の真実だというところに軸足を置いているからなのでしょう。そして、人間は、悲しく、孤独で、苦しいものなのだ、と……。安吾の小説の女性達が凄惨の極みであっても、なぜか嫌悪しきれないのも、そこに究極の人間の自然があるからなのかもしれません。