窪美澄『夜に星を放つ』
『ふがいない僕は空を見た』以来に手に取った窪美澄さんです。第167回直木賞受賞作品で、星座(や月)を織り込みながら、人間関係において何らかの喪失を抱えている人物たちの5編の短編集でした。
それぞれの「作品」に出てくる【主人公】と〈星〉は次の通りです。
「真夜中のアボカド」
双子の妹を亡くした、「目に見えて育っていくかもしれない命の元」であるアボガドの種を育てている婚活中の三十代の女性
〈双子座カストルとポルックス〉
「銀紙色のアンタレス」
夏休み、一人暮らし祖母の家を訪れ、泣いているような表情の女性に思いを寄せる十六歳の高校生男子
〈わし座のアルタイル・蠍座のアンタイル〉
「真珠星スピカ」
交通事故で亡くなった母親の幽霊との奇妙な同居生活を送る学校でいじめを受けている女子中学生
〈乙女座のスピカ〉
「湿りの海」
妻の浮気から離婚しながらも、アメリカに渡った娘と妻が忘れられず、隣に引っ越してきたシングルマザーと娘との交流をはじめる男性
〈月の「湿りの海」のイラスト・(こと座のベガ)〉
「星の随に」
父の再婚相手との間にできた弟を可愛いと思いながらも、新しいお母さんとの微妙な溝を埋められない小学生の男の子
〈白鳥座のデネブ・織り姫座のベガ・彦星のアルタイル〉
最初と最後の作品は、コロナ禍を反映した作品でもあり、5編全てが明るい未来を描ききるというような小説ではありませんでした。しかし、どの物語にも、主人公が立ち向かわねばならない相手(現実)とは別の所に、主人公を肯定してくれるような(精神的な支えとも言える)存在が書き込まれているのが印象的でした。また、それぞれの物語に出てきた星々が、主人公達が自己存在を認識することに一役買っているのも特徴的で、明確な未来を見せる結末ではないながらも、星々の静かながらも確かな輝きが、それぞれが先に進んでいくことを保証しているように感じました。
「夜に星を放つ」とは、夜のような世の中に、星である自分を放ち、自分自身として輝こうとする主人公たちそれぞれを示しているのかもしれません。