山口百恵1978年「いい日旅立ち」(お題「#思い出の曲」より)
「いい日旅立ち」は山口百恵の24枚めのシングルレコードとして 1978年11月21日に発売されています。2021年5月6日放送のNHK総合テレビ「日本人のおなまえ(「ヒット曲の真相直撃SP・第4弾!)」で紹介されるなど、世代を超えて歌いつがれている名曲です。
私はリアルタイムでこの曲を聴いていた世代ですが、初めてこの曲を聴いたとき「ああ、いい曲だなぁ」と感動したものです。この曲は国鉄のキャンペーンソングですので、その後しばらく時刻表の表紙に「いい日旅立ち」のロゴマークがついていました。ちょうど私が時刻表片手に鉄道旅行を楽しむようになった時期と重なりますので、私にとっては「青春応援ソング」の一曲です。
ちょうど国鉄の大規模なダイヤ改正が「いい日旅立ち」発売前の1978年10月にあり、キャンペーンソングならダイヤ改正に合わせてを発売すればいいのに・・と、当時は思いました。このダイヤ改正によって、8時ちょうどの「あずさ2号」で信濃路へ行けなくなった(甲府7時35分発の新宿行となった)ことが話題になったことを同世代の方なら覚えておられるかもしれません。
それはともかく、私はこの「いい日旅立ち」を何度も聴くにつけ、雪どけ間近の北の空に思いを馳せたものです。
この当時はまだ上野駅から東北、上信越方面へ向かう夜行列車が多く運転されていましたから、首都圏在住の私にとって北国への旅はワイド・ミニ周遊券一枚あれば(お金もあれば)自在でした。まさに子供のころに歌った歌を道づれに、「いい日旅立ち」の気分にひたるような旅をしてみたいものだと思ったものです。
【この先、東日本大震災の津波被害にふれた内容があります。】
けれども、私はこの「いい日旅立ち」でヒロインが旅した町を、雪国であると想像することができませんでした。少年が魚釣りをする夕日がきれいな岬、枯れ木で文字を書けるような季節はずれの砂浜・・と、どちらかと言えば北国でも雪が少ない太平洋沿岸の町をイメージしたのです。そして「いい日旅立ち」のヒロインはまだ若い(楽曲発売時の山口百恵は19歳。)が宿泊する宿はユースホステル、ワイド・ミニ周遊券で乗るのであれば急行列車の自由席を想像しました。そこで私の頭の中での「いい日旅立ち」の舞台は松島海岸あたりと想定し、架空の旅にふけっていたものです。
架空の旅に必要なきっぷは仙台・松島ミニ周遊券。北の空へ向かう列車は上野6時38分発の急行「まつしま1号」で仙台11時57分着。この日は松島周辺を見物し、宿は松島ユースホテルに泊まります。
そんな旅を思い描きながらも実現することなく、時は流れに流れました。
そして東日本大震災です。ご存じの方もいらっしゃると思いますが、このあたりは津波被害がすさまじく、多くの犠牲者を出しました。JR仙石線の線路も被害が激しかった地域では路盤ごと流されてしまい、被災区間の線路は山手の高台に移設されています。
松島ユースホステルは「パイラ松島・奥松島ユースホステル」として存続していたようですが、被災して閉館したまま再開することはありませんでした。こうしたことからとても物見遊山な旅などできませんでしたが、発災後8年経過した2019年10月、意を決してユースホステルがあった野蒜(のびる)駅のひと駅仙台方にある東名(とうな)まで行ってきました。ここは堤防から見る夕日がきれいだということです。
時間の制約もあり、野蒜駅で下車することはできませんでした。いつの日にか、野蒜海岸にも行きたいものです。
タイトル画像はそのときに撮影したものです。実際の風景はこの写真の何倍もきれいで、まさに息をのむようでした。これがまさに「いい日旅立ち」に歌われた夕焼け・・それは感傷旅行におもむいたヒロインをやわらかく包みこむかのような、あるいはそんな夕焼けを探し求めていたヒロインの期待を裏切ることがない風景のように思えました。
こうして私は「いい日旅立ち」の発売以来約40年の時を経て、ようやくこの曲の舞台をめぐる旅の片鱗にふれることができたのです。
現在平原がひろがっているあたりは、昔の航空写真を見ると集落があります。それほど津波の被害が甚大だったということでしょう。
津波は野蒜海岸に上陸し、東名の集落を経て松島湾に及んだとのことですので、あの息をのむような夕日に輝く松島湾で命を落とされた方も多かったに違いありません。
遠くに見える墓地に向かい、手を合わせずにはいられませんでした。改めて東日本大震災で犠牲となられた方々のご冥福を心よりお祈り申し上げます。
※時刻表は、表紙を除き全て「交通公社の時刻表1978年10月号」より
※ユースホステルの概要は「ユースホステルハンドブック1981年版」より
※現在の野蒜駅からは遠くに海をのぞめました。
※その下2枚は現在の東名駅で撮影しました。
この記事が参加している募集
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?