06_コースデザイン 【山の日本語学校物語】
これは、とある町に開校した「山の日本語学校(仮名)」の物語です。ITエンジニアの専門日本語教育、プロジェクト型のカリキュラム、地域との連携などなど、新たな言語教育の実践とその可能性について、当時の記録をもとに綴っていきます。最後までお付き合いください。
この連載を始めるに至った経緯については、「00_はじめに」をお読みください。
01〜05までは、学校の全体について書いてきました。今回は、もう少し具体的な「コースデザイン」 について書きたいと思います。
「山の日本語学校」のコースの特徴
01や02では「山の日本語学校」で、PBL(Project-Based Learning:プロジェクト型学習)を採用した経緯について説明しました。何か特別な授業をしているように感じたかもしれませんが、PBLを取り入れている教育機関というのは、今ではそれほど珍しくありません。PBLという言葉を使っていなくても、プロジェクトを取り入れた授業は、日本語教育という文脈でも古くから行われています。「山の日本語学校」のカリキュラムは、これまで先人が行ってきた様々な取り組みで得られた知見の上に成り立っていると思っています。
それでも「山の日本語学校」のコースデザインには、2つの大きなチャレンジがありました。このチャレンジが、「山の日本語学校」の特徴でもあると思っています。その特徴が、以下の2点です。
1. コース全体をPBLで構成している
2. 初学者(いわゆる初級段階)から、プロジェクトに取り組んでいる
この2つの特徴についてもう少し詳しく説明します。
まず、1つ目の特徴ですが、プロジェクト型の授業を教育機関で取り入れる場合、教育機関の中の一部のコースでのみ扱われていたり、または、特定の学年やクラスだけで行われている(この場合、志のある一部の教師の働きかけによるものが多い)、あるいは、ある一定の期間に限定して行われるというケースが多いのではないかと思います。
しかし、「山の日本語学校」では、プロジェクトしか行っていませんでした。入学から卒業まで、コース全体を一貫してプロジェクトで構成しました。「読書会」とか「LT会」のようなこともやっていましたが、それはあくまでも、コースの中の活動の一つであって、基本的にプロジェクトをベースにコース全体をデザインしていました。小さな学校だからこそできた取り組みだとは思いますが、このような教育機関は意外と少ないのではないかと思います。
もう一つの特徴は、初級段階からプロジェクトを行っていたということです。言語教育におけるプロジェクト型学習というと、ある程度、日本語が理解できる「中級」や「上級」になってからという考え方が、まだまだ主流ではないかと思います。これを、入学して間もない、まだ日常会話もままならない初学者がプロジェクトに取り組んだというのが、大きな特徴であり、またチャレンジでもありました。
初級レベルの学生に、どのような実践を行ったのかについては、具体的に実践例を見せたほうがわかりやすいと思いますので、今後の連載に譲りたいと思います。
以下、「コースデザイン」に焦点を絞り、学校全体について説明したいと思います。
共感していただけてうれしいです。未来の言語教育のために、何ができるかを考え、行動していきたいと思います。ありがとうございます!