信州とアイルランド
はじめまして、noteはじめて、きゃんです。
【はじめに:この文章の目的】
これを読んでくださった方が信州に関心を持ち、いつかここでお会いできることを願ってこの文を書きます。また、日本におけるアイルランド文化受容の一つの例として、参考となれば幸いです。
【はじめてのアイルランドは何でしたか?】
あなたとアイルランドとの出会いは、どんなものでしたか?
皆様によるディープなオタク話(最大の賛辞です!)の後に大変恐縮ではありますが、あえてこのタイミングにこの記事があるのかもしれません。
様々な角度から愛を確かめたところで、初心に帰って、なぜアイルランドに出会ったか?どんなところに魅力を感じてきたのか?皆様もご自身のことを思い出していただけたらと思います。どうぞ思い出の曲など聴きながら、優しい気持ちで読んでくださいね…。
遠くの方にも知っていただけるまたとない機会、これ幸いと広く皆様に向け、また私たち自身の振り返りを兼ねて、信州大学のサークル「S-Celts」を足掛かりに、大きなテーマ「コミュニティの発達」をキーワードに据えて、信州のアイルランド物語をお話してみようと思います。
(The Green Mountain 松本市美ヶ原高原王ヶ鼻からの展望)
この記事は、あくまで一OG・一長野県民の主観に基づくものであることをご容赦ください。私はあくまで流れの一端の存在に過ぎません。どんなに願っても、知らないことは知り得ません。人には人の物語、です…。
あるコミュニティの記録、という点では、京都のアイリッシュパブfieldさんの記事に通ずるものがありますね。長い歴史の一片を垣間見ることが出来ます。軽快で飾らない感じがすてき。習って私も自然体でいってみたいと思います!
【出会いはあの春、あの学び舎だった】
アイルランドとの出会いについて、皆様の物語をぜひお聞きしたいところですが、ここでは近年多くの若者にアイルランドとの出会いをもたらしている「サークル」についてお話します。
日本でアイルランド音楽が享受されるようになり数十年…。近年では多くの若者が、大学等のクラブ活動を通してアイルランド音楽に触れるようになりました。
お馴染み「ケルトの笛屋さん」が全国のサークル情報をまとめてくださっています。これらに未掲載や現在の活動の様子が明らかでないものも含めると、全国に10から20ほどの学生による団体があるようです。
この10年は、ICF(Intercollegiate Celtic Festival)という、演奏やダンスについての技術、知識を教わったり他地域の学生と交流したりできる場も生まれ、学生組織の盛り上がりが見て取れます。
その流れの中に「信州大学ケルト音楽研究会(愛称をS-Celtsといいます)」があります。
【信州大学ケルト音楽研究会 S-Celtsとは】
信州大学生を中心とする団体で、主にアイルランドの伝統音楽やダンスを楽しむサークル。「信州にケルトを」
2013年11月設立、2020年7年目現在約100名在籍
公式facebook @scelts / twitter @scelts_official
(7周年記念の様子、ごちゃごちゃです。でも全員ではありません。)
ただし、この例は大学サークルの発達の一例として語るには極めて特異な例であることを、あらかじめお伝えしておきます。
一地方大学で生まれたケルト音楽研究会が、5年目には国内最多120名以上の会員を擁するようになり、年間100以上もの活動機会を得て、卒業後も活動を続けるOB・OGを輩出するようになりました。
※数字で測るのは避けたいところですが、事態をお伝えするため参考まで。
信州で起きたこの不思議な事象に関心を持ってくださる方は多く、その要因について何度も尋ねられました。それは私たち自身にも不可解で、ずっと考え続けてきたことでした。
(自己紹介が遅れましたが私自身について)
2016年信州大学入学、この春に卒業し長野県で働いています。
S-Celtsへは設立3年目(4回目の春)に加入し、2016年秋から2017年秋まで副代表、2018年秋まで代表を務めました。黎明期の先輩方から次世代に繋がりつつある過渡期に在籍していました。
「大学サークルでアイルランド音楽」
想像もつかない方もいらっしゃるかもしれません。S-Celtsのお話の前に、学生ケルト系サークルについて考えましょう。
【なんで、私がケルト音楽研究会に?】
大概の新入生は、その音楽を知っていることはあっても、自身が演奏したり踊ったりするものと認識して入学してはきません。多くが入学前後に当該団体の活動を見聞きし、その門を叩きます。賛否両論ありますが、「サークル」が日本におけるアイルランド音楽受容の裾野を広げたことは確かです。
毎年やって来る新入生は「何か音楽をやりたかったから」「楽しそうだったから」と口を揃えて言ってくれます。ようこそ楽しい底なし沼へ。
ここで「学生ケルト系サークル」に共通するいくつかの問題を取り上げます。
①自由がゆえの孤独
この集まりが他の音楽団体と異なる点のひとつは、確固とした共通目標がない点です。コンサートやコンクールなど、con(=ともに)の付く目標に一丸となって向かうことはありません。
会員同士は同じ方向を向いていませんし、基本的に「いつ来ても、来なくてもいい」ふわっとした集まりのため、当人の意思で活動にやって来ます。
バンド活動を主としない団体にとっては、基本的に「パート」のような役割によって存在が必要とされることもありません。この状況で、他にも様々な興味を持つ若者が、個人の意思・モチベーションを保つのは難しいのです。
実力は音楽経験や練習量によって差が付きます。比べる必要はまったくないのですが、一緒にスタートを切った者同士、曲覚えの早さや曲数、そして技術の差が気になるのは自然なことではないでしょうか…。
また、誰かを特別扱いすることが、他の誰かや当事者を傷つけやしないか?どちらの立場にあっても、きっとどこかで自分の在り方を考えずにいられません。
また、セッションやケーリーを通して共有する一体感が、誰かに疎外感を感じさせることもあります。「好きな時に来ればいい」から、気付いたら置いてきぼりになっていた…。そんな心挫けそうな時に、一体何が繋ぎ止めてくれるのでしょうか。
②まっさら手探り
この文化に出会ってたった数年間の学生の身で得られる知識や技術はあまりに貧弱です。いかに継承していくか以前の問題で、指導者と呼べるような先人の不在は、伝統音楽を研究する集団として致命的であります。近くに学べる場所があればいいのですが…。
もちろん、メディアの発達した現代、学ぶ手段は昔と比べてかなり便利になりました。それでも、音源や動画、書籍から自分が知りたい情報をピンポイントに探すのはなかなか難しいものです。最初からそれが自力で出来る人であれば、サークルに所属する必要はないのかもしれません。(それでもなお所属し続けるのはなぜか。新たな問いが生まれてしまいますね。)
※今は数年前よりも更にまとまった情報が手に入りやすい環境になっています!後述します。
③ずっとここにはいられない
そして、学生サークル運営上の永遠の課題、「ずっとそこにいるわけではない若者の集まりであること」。
学生はずっと学生ではないので、数年経てば総入れ替えとなります。試行錯誤の成果を引き継ぎつつも、常にその世代に即したやり方を模索する必要があります。それはマニュアルに残せない部分がほとんどかもしれません。
また、世代によって実力や熱意に波があるのは、避けようがない現実です。
【それでも】
ここまで、「サークルでアイルランド音楽をすること」の困難ばかり取り上げることとなりました…。
「いちいち気にしていたらサークルなんてできない」そんな議論は毎年起こりました。でも、潔く割り切ることを選んでいたら、皆さんがいいねと言ってくださるようなS-Celtsにはならなかったと思うのです。
どのサークルにも困難があるはずですが、この場は確かに多くの人に契機を与える、始まりの場所でした。
(例年4月、サークルガイダンスはこのように行われるはずでしたが…。)
【後輩はすぐ仲間になる】
周囲を見ていてつくづく思うのは「その時点だけを見て判断できない、先を見据える必要がある」ことでした。このたった数年間でも、化けていく様をいくつも見てきました。
原石だらけ、どんな子がやって来てくれるかと、そしてどんな風になっていくのかと、毎年楽しみにしていました。多くの若者を誘引出来るのは学生サークルならではかもしれません。パブやケーリー、河原などで待っているだけではなかなか難しそうです。(でもそんな出会いは憧れます...!)
数年の差は、当人の素質や努力によって覆ります。楽器を初めて触る、またはアイルランド音楽に初めて触れる新入生に対して、最初こそ「先輩だから教える、後輩だから教わる」という構図がありますが、今のところ誰も「アイルランド人」ではないので、誰もが模索中で、だからこそ互いの知見を学び見て、他に習うのですよね。
そもそもこんな沼は、短い学生生活に修まるるわけがないのです。
比較的時間に余裕がある学生時代だからこそ、思う存分に楽しめる、とも。この時期にそんな夢中になれるものに出会えたことは幸運です。
【n人寄れば文殊の知恵】
自力で冒険するには人の生はあまりに短く、個の経験には限りがあるから、言葉を覚えて誰かが見聞きしたことを吸収するんですね。この連載がまさにそうです!例えば5月の連載は
・みぞやすさんの記事では、「音源の探し方」を紹介してくださいました。(まさに果てしない旅ですね。すべては単独で存在していない…)
・Akiさんはアイリッシュ音楽のピアノの奥深さをたくさんの動画とともに教えてくれましたね。(こちらもびっくり、密の密な記事です。私もピアノ大好きです…!)
探求熱心な皆様のことを尊敬しています…!愛に溢れている!その成果を無料で拝見して、よいのでしょうか...。
こんな状況になったことで、城さん発のこの「#土曜夜にアイルランドを語る」のように、オンラインで広く皆様の見聞を拝見する機会が生まれましたが、それまでは各地で密やかに共有していましたよね。
パブやケーリーの場と同じように、サークルもそんな交流の場の一つでした。日常的に「これこうらしいよ」「これ好きでしょ」って共有できるって、超楽しくないですか?
・また、アイルランドを多角的に愛するほなみちゃんの記事、5月はケーリー文化についてでしたね。(文学を取り上げた4月の記事もぜひ!)
ケーリーって、サークルみたいで、そこに集う人たちに定期的に会って、お話をして、一緒に踊って、楽しんで、「よしまた一週間がんばろう」と思えるような、
そんなコミュニティとしての機能もばっちり果たしていた印象です。
「相互尊重」「愛」「尊敬」をキーワードにした記事、共感する部分が多くありました。ケーリーにもサークルにも、こんな風な「コミュニティとしての機能」が大切と思うのです。
【ここが素敵ねS-Celts】
ここからはS-Celtsに着目して「いかにして栄えたか」考えてまいります。
おそらく、そこにあるものを活かしてきたという点に尽きます。利点を活用し、不自由と共存してきました。
ここ長野県は、知識や技術を得るにあたって機会や距離的にハンデがあります。CCÉ Japanさんの活動や関東のケーリーにも行きたいと思えど、時間も金銭も無限にあるわけではありません。(もちろん都市部の方々だって現地に行きたい!という思いがあるかと思いますが、現実的な範囲で)
身近に定期的なセッションもなかったので、毎週毎日のようにパブセッションが開催される土地を何度羨ましいと思ったことでしょう…。
でも、手を伸ばしてみたら、その可能性は私たちのすぐそばにもありました。
S-Celtsの特徴的な点として、会員数の多さがよく指摘されます。
その理由について、「学生数が多いのか?」「他にサークルがないのでは?」と様々な推察をいただきますが、信州大学は全学合計で約1万名、1学年2000名程の総合大学で、都内大学と比較するとむしろこじんまりとした規模です。また、同じく数こそ多くありませんが、交響楽団や軽音楽サークルなど一般的なサークルは網羅しているはずです。そのため、上記二つのような理由によって会員数が多いとは考えにくいと思われます。
では、この会員数の多さは一体なぜ...?考えられる理由を挙げてみますね。
①どこでもセッション
私たちの生活には、楽器を弾きたくなる&弾ける環境があります。手頃な河原、手頃な古墳、手頃な公園。広い自然の中では誰も咎めません。
ここで、いくつかの写真と動画をご覧ください。ここぞとばかりに、これまで出会った美しい信州と、うちの子自慢をします。私にはこの人々も風景も愛しくて仕方ないのです。多くの新入生も、こんな日々に魅力を感じてくれたのではないかと思います。
この数年間の記録は、画像映像ともに膨大です。S-Celtsにはカメラを趣味とする人が多いのですが、こんな光景が目の前にあったら残さずにいられないのは自然なことかもしれません。
②「土地柄に基づく人柄」
信州に集まる方たちは生来、自然が好き!そこに馴染む音楽が好き!という場合も多いのだとも思います。学内でも稀な地元の子として愛を込めて述べますが、何もないこの地にはチャンスがそこかしこにありました。
信州大は「大学の地域貢献度調査」で4年連続総合1位に輝くほど地域に根差した大学です。そして、活動拠点の松本市は「楽都松本」として、音楽が根付く土壌がありました。
全国一の数を誇る公民館は、練習場所として利用させていただくほか、夏祭りや敬老会などのイベントで演奏する機会をくださいました。
発表することはサークル活動の主目的ではありませんが、人前に出る機会があると、練習にも身が入ります。好きな曲を持ち寄り集まって遅くまで練習してドキドキのデビュー、絆が深まらないわけがない…。
活動は学内でも注目されていて、昨年行われた「信州大学創立70周年旧制松本高等学校創立100周年祝賀会」でも、設立6年目の団体ながらに演奏の依頼をいただきました。
各地へ出掛けるたびに、先に結びつく新しい出会いがありました。綺麗事で片したくはありませんが、やっぱり「ご縁」を抜きしてアイルランドを語る方が難しいのではないでしょうか…。
③遠くない120㎞
(国宝松本城、「クラフトビールフェスティバル in松本2019」にて)
信州大学の特徴のひとつとして、県内5箇所に分散する「タコ足キャンパス」であることが挙げられます。全学部1年生は松本キャンパスで学び、2年生以降は学部によりキャンパスが分かれます。
そしてその間、距離は端から端まで約120kmというインパクト。「それめっちゃ不便なんじゃ…」「同じ大学じゃない」と思った方、仰る通りです。
120㎞は遠いのです。それでも、時間と労力を掛けてでも松本に集まりたくなる人たち。他にやることがないわけではないのです。ある種の使命感はあるかと思いますが、一応、義務ではない。それにも関わらず、多くの選択肢の中から松本に行くのを選ぶのは、なぜでしょうね。
余談ですが、その距離によって生まれる「違い」が、この信州の中に小さなアイルランドを見つけたようで、私には愛しくも感じられたのです。(最近では個人差の方を強く感じますが、「伊那チューン」なんてものがあったり)現地でも、好まれるリズムや多く弾かれる曲・踊られるセット、それらのスタイルも、地域や集団ごとに個性がありますよね。
反対に、「信州の子たちの演奏/ダンスは似ている」と言われたこともあります。それを聞いた当時とても嬉しくなりました。一緒に過ごした時間と互いへのリスペクトを感じたからです…。
④ずっと一緒だった
距離が遠いながらに、他の団体と比較した時、S-Celtsの者たちはきっとふとした交流の機会が多いのです。県外出身者が約7割を占め、多くが各キャンパスの近くに住んでいて、気軽に部室や広場に集まりました。一人暮らしや寮暮らしの寂しさのせいもあるのかもしれません。約束がなくても、誰かいるかな、と期待しながらひょっこり会いに行ってしまうのです。そんな時間が、自然と切磋琢磨、おすすめ音源や動画の共有につながっていました。
【あなたがいてくれたから】
ここまで環境的な要因を連ねてきましたが、この現象は結局人に因る部分も多いのだと思っています。自然が豊かで穏やか、地域に根差していて環境に恵まれたことがS-Celtsが特別栄えた要因であるなら、他の場所でも似た状況になっていてもおかしくないでしょう。でもきっと、これまで挙げた条件を揃えてもS-Celtsにはなりません。
傾向を見て工夫する練習形態、年間予定、すべてに意図がありました。生まれたばかりだからこそ、様々な試みを取り入れて変化しました。
「広めよう」、はじめに教えてくれたのは先輩でした。自身が楽しむだけだったら、サークルに教えようなんて思わずに、外に元々あるコミュニティへ出かけて行けばいいのです。でも、わざわざ信州で広めようとした。
なんだか、今オンラインで活動されている方々の姿に重なります。独り占めしてもよいものを、惜しみなく教えてくれる...。なぜでしょうね。
それはきっと、自分のためでもあるのです。
好きなもののこと、誰かに話したい。そして相手も好きになって一緒に楽しんでもらえたら嬉しい、一緒にもっと楽しくなれるって、皆様はどこか奥底で感じているのではないでしょうか。
【多様性が生む楽しさ】
「いろんな楽しみ方」これはこの連載においても、大切にされていると感じられますよね。
その点で、S-Celtsはいい循環を招くことが出来ました。人数の多さに支えられた多様性は、更に多くの人を巻き込み幅を広げていきました。皆でいたから出来たこと、です。
ここに「サークルでアイルランド音楽」をする意義を見つけられます。
楽器の種類一つとっても、数年の間に充実しました。いろんな笛、ボタンアコブーム、パイパー爆誕、ハンマーダルシマーに、立ち並ぶハープ...
聞く、弾く、踊る、歌う、読む、飲む、そして話す、尊敬に基づくどんな楽しみ方も受け入れる懐の深さ(楽器研究会のほか、お料理研究会や映画研究会なるものを開催したこともありました。まだまだ出来ると思います。)…
どうして信州に広めたいのか?私の答えは、もっと最高になりたいからです。どんなに望んでも、私は私を通してしか世界を見られないから、他の誰かを通して変化するものを知りたいし、いろんな世界を見たいのです。
別々の私たちが、一緒に同じことをしようとして、でも同じにならなくて、というところが愛しい。
先輩は「セッションは会話」と常々言っていました。曰く、どちらにもルールはないが「空気」はある、礼やその場にいる人に寄り添った思いやりが必要である、と。
ここにいた私の好きな人たちは、自分の好きを大切にしつつ、人に足並みを合わせられる優しい人たちです。人数の多さ故に収拾のつかない状況を指して「えすけるつ幼稚園」なんて呼んだこともありましたが、あやされていたのは私の方でした。私はここでずっと育まれてきました。
そんな優しい空気を嗅ぎ取った人々が集まった結果が、S-Celtsだったのだと思います。
【言葉と音楽:人をつなぐもの】
アイリッシュのコミュニティ以外の方とお話する時、話の流れで「楽器を弾くこと」を話すと、すごいねと言ってくださる方が多いです。でも私はそれに違和感を覚えるのです。
きっと母語の言語能力と同じように捉えているのだと思います。例えば、こうして日本語を理解して、書いたり話したりすること、「特別なこと」とはあまり思わないですよね?でも、そこに確かに巧拙があることは知っています。話術や表現力などに長けた方のことを羨ましくなることもあります。
音楽も、私にとってはそうなのです。得意じゃないけど、とりあえず、コミュニケーションを取るに困らない程度には馴染んだもの。チューンが言葉で、セッションは会話、それがしっくりくるようになりました。
小説家とそうではない人、みたいな感じです。私は小説家にならないけど、皆様と会って一緒にお話するのは大好きです。
セッションの録音を渋る奏者のことも分かる気がします。酔っ払っている時の会話を、後々にその場を離れて聞かれたら恥ずかしいですよね。
S-Celtsの人々が120㎞を乗り越えて大事にしてきたのは、その時そこにいた者同志だけが共有できる、聞いたり話したりの相互関係でした。
【卒業したら、終わりにする?】
冒頭で学生時代が永遠でないことに触れましたが、サークルはあくまできっかけ、と思ってきました。「信州にアイルランドを広める」ための一歩としての「信州大学にアイルランドを広める」だったのです。
その結果に実ってきたものが、少しずつ見え始めました。これからここ信州でアイルランドがいかに享受されるようになっていくのか、まだまだ発展途上のこのコミュニティを、ぜひ見守っていてほしいのです。今は休止していますが、ここ数年間の動きをご紹介します。
・パブやカフェでのセッションが行われるようになってきました。
(長野市のパブThe Red Dragonさんにて)
(松本市のStoryhouse Cafe & Barさんにて)
・「セントパトリックスデーパレード松本 実行委員会」が立ち上がり、2017年からパレードが開催されるようになりました。
(初回の様子、全国から参加してくださいました!)
(ちょうど一年前の2019.5.30、アイルランド大使官邸で行われた「セントパトリックデーパレードのレセプションパーティー」にて)
・若いアーティストたちも、どんどん活躍し始めています。
(信州生まれの新進気鋭のフルート演奏者、瀧澤晴美さん!そして同じくFionaの名古屋から来てくださった大橋志麻さん)
(ここ信州で野望を抱き、トラベリングダンシングマスターを目指す飯井大智さん! )
・そして、ダンサーを愛し、ダンサーに愛される「BB Ceili Band」!
(FisdaNで信州に全国のダンサーが集まる!)
・また、国内外多くのミュージシャンが訪れるようになりました。Cormac Begley、The Chieftains、記憶に新しい昨年には、ケルティック・クリスマスのためにShannon Shannon、We Banjo3、Taliskが長野市に、またSylvain Barou & Ronan Pellenのライブが松本市でも開催されました。主催の方が信州の様子を聞きつけ、一地方都市をツアーの開催地に選んでくださる、身近な場所で生の音楽に触れられる機会は大変有難いことです。
【他の世界との交錯に気づく】
遠く離れた信州で、アイルランドの音楽やダンスが広まって、多くの縁を運んでくれました。また、私たちから縁遠いように思えて、文化的にも音楽的にも、「アイルランド」は案外身近なところにあったことに気が付きました。(noteの記事を見ていても)皆様もそうではないでしょうか。
テレビを見ていてアイルランドを見つけると、思わず誰かに教えたくなりますよね。
ハロウィンもギネスも、アランニットも「イニシュマン島のビリー」も、こぶとりじいさんも、You raise me upも、自分の名前にすら、アイルランドは実は私のすぐそこにありました。
【どこに行っても】
アイルランドの人々が移民として世界各国に移住した背景から、世界中でアイリッシュパブを見つけられます。
一時期のマイブームは、「地名+アイリッシュパブ」で検索することでした。どの都市を見ても大概数件ヒットします。なんだか私は世界中どこへ行っても怖くないような気がしました。
学生生活は続かないことを知っていたので、いつか巣立つあなたにも、心強い糧と術を授けたいと思いました。別々の場所から集まって、ずっとここにはいられない私たちだからこそ、卒業後どこへ行っても受け入れられて、寂しくないようにしたかった。そしてこの日々を振り返る時、いつも一緒にあった音楽を聞いてほっとして、ここにいたことを誇りに思えるような時を一緒に過ごしたいと思っていました。
【信州とアイルランド】
私はここが誰にとっても最良であるとは思いません。ただ、何の縁かここに辿り着いた人たちには、不自由と同じかそれ以上に素敵なところも知ってほしかった。S-Celtsは、信州だからこその素敵なことの数々が叶う場所でした。
自身が与えられたものを他に還元しようという意思によって発展したこの場は、確かに唯一無二でした。信州は、ここにいた人たちにとって大切な居場所だったのです。皆といる時には、人のことも自分のことも結構好きでいられたのではないかな、と思っています。
【この世界の片隅で】
この文章をここまで読んでくれるようなあなたにとって、遠い緑の島の文化は、今ではとてもワクワクするもの、それを知るまでのご自身はどうしていたのか思い出せないような特別なものであるはずです。
そして、そんなあなたには、かつての日常が戻るのならすぐに会いたい人や帰りたいコミュニティがあるのではないかと思います。無事を願って止まない「推し」もいるかもしれない。信州がそうであるように、世界中あちこちに存在する、誰かにとっての大切な居場所に想いを馳せます。
【ここにいること】
県域を越える移動の制限がある今、そしてこれから、どこを拠点にするか、考えさせられます。あなたはどこにいたいですか?
ましてや私たちが愛するのは「一緒にいること」が大切で、オンラインでその魅力を充分に楽しむことが難しいアイルランド音楽です。気軽に行き来できない状況下、文化が土地に根付いていることの意義が増しました。
オンラインで繋がっても、そこにいることには敵わない
大変です、この連載を全否定するような一言になってしまいました!違います…!
でも皆様も、この想いは多かれ少なかれ同じだと思うのです。窮屈な自粛期間に立ち向かう皆様の口から出るのは「この状況を少しでも楽しむ」とか「次に会える日を楽しみに」といったお言葉でした。そう言うしかないですもの…。私たちは会いたい、でも会えないから、なんとかして繋がろうとする。オンラインは代替手段にしか過ぎないのです。
思いもよらぬ災難によって強制的に作られたおうち時間は、自分の好きなものだけを見て聴いて研究できる、贅沢な時間になりました。それも幸せですね。
また、こんな機会のおかげで、遠くに住む皆様からいろんなお話をしていただけました。遠くのライブが配信されるようになったりも。これらに関しては、新型コロナウイルスが収束しても続くといいな。
しかし、そんな取り組みも、いつかまた自由に会えることを前提にしたことだったと思います。これから来る「新たな日常」に誰しも戸惑っています。
それでも、私はこの記事を単なるあの日々の懐古に留めたくありません。離れている時にこそ、これまで誰かと共有した経験や、これから共有したいものが人を強くするのではないでしょうか。
何より、信州の今までの物語だって、「ここにある状況でなんとかやる、ここにないから自分たちがやる」そんなど根性に基づいていたはずです。
オンラインの流れは地方勢にとっては追い風でもあるし、互いに近い場所に住んでいるから、山と川と湖と広い大地がある信州だから出来ることがあると思います。
当記事と比べて、この整理された文章を今一度ぜひ読んでください。(本当にこんなにもの情報、無料でいいのですか?愛、愛なのでしょうか...。)
あなたが「アイルランド」に惹かれるのはなぜですか?きっかけは些細なものだったはずです。でも今は、どうでしょうか。これほど好きになれた、好きとか嫌いとか思う対象にないくらい当たり前の存在になるほど時間を費やすこととなったのは、なぜですか?
文化を愛する、場を愛する、人を愛すること
たくさんある好きなものの内の一つで、これがなくても生命維持には差し障りはないはず。でも生活の中にそれがないと、そしてそこには好きな人たちがいないと、やっぱり私は嫌なのです。
若輩者が偉そうに、大変失礼いたしました。抽象的な想いまで、こんなに好き勝手喚いてしまって、一体どう思われるだろうと震えています。伝えるのはいつも怖いです。私には分からない、すべてを記述できない、同じ温度で伝えられない...。
それでも、ここまで読んでくださったあなたには、心当たりの一つや二つ、きっとあったのではないでしょうか。あるといいな...。
この文章を通してそんな心当たりを「共有」していただけたこと、そして、いつかまた信州でお会いできることを願っています。最後までお付き合いいただき、ありがとうございました。
次回予告!「言葉は力〜アイルランドの歌文化〜」
そして、次週の#土曜夜にアイルランドを語る、は、ごっぴさんによる「言葉は力〜アイルランドの歌文化〜」です!
ごっぴさんは昨年の末に信州にも来てくださいました。広い世界をご存じで数多く好きなものがある中、アイルランドも大切にされていて、周りをつなげたり、いろんなものを見せてくれたりする、勝手に「伝道師」のような存在と思っています。
「言葉は力」私も、言葉と音楽の力をずっと信じています。歌も大好きです!静かになってしまった世の中で、ごっぴさんのように伝えようとしてくださる方がいるから、私たちは楽しくなれるし、自分も勇気を出してみようと思えます。人間の相互作用、楽しみは尽きない…。だから絶対、元気でいましょうね。それではまたお会いしましょう!
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