ウィリアム・モリス「世界のかなたの森」を読む
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ふとした時に、そうだウィリアム・モリスの作品を読んでみようと思い立った。ネットで小説を書き始めて、ふとそういえばファンタジーの古典って?と思い検索。
今は検索というものがあって便利でいいですね。(玉石混交とはいえ)知りたい情報を得やすい。例えば数十年前だったら、私はウィリアム・モリスに辿り着けていたかな。無理かも。
ファンタジーの指輪物語→そのトールキンに影響を与えた作家が→デザイナー?アーツ&クラフト運動のウィリアム・モリス?
すこし読む。そのあと訳者解説を読んだら色々面白かった
主人公が舟に乗ったあたりで、巻末の解説を。
1894年、モリスが60歳の時。さまざまな(本業?)仕事のかたわら、忙しい中で作品を書いていたのではないか…だそうで。
《これらのロマンス群が書かれた晩年、モリスは朝早く起きて織機に向かい、社会主義運動機関誌の仕事、芸術論から社会主義論の講義、講演の原稿づくり、政治集会、全国講演旅行、新しく開いた出版会社のための文字デザイン、などなど信じ難いほどの精力的な繁忙の日々であったのです。この隙間を縫って書かれた…》
忙しすぎです。
訳者解説についてはまた後で触れます。
1894年、日本は何してたかというと日清戦争。第一次伊藤博文内閣。
あらすじを追っていく
さてあらすじを追っていくこととします。ある意味部分的なネタバレになりますので「これから読む予定だよ!」「知りたくない」という方は避けて下さい。
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主人公はラングトン・オン・ホルムという街に住む美しい若者ゴールデン・ウォルター(名前が後にきてるのには理由アリ)。父親は市長。名門の当主。要するに「ええとこのボン」的な主人公。
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美人の妻と結婚したけれど、その妻は自宅に男を連れ込んで浮気三昧
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落ち込むウオルター。
父親のバーソロミュウににこぼす「もう家もこの街もいやになりました。今港にいる船(キャサリン号)で他国に行きたい」
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父「2日後の水曜日に出港するから乗れ」
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出航前、船に挨拶に行ったウオルター、不思議な3人を見かける。小人、若い娘、貴婦人。
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その中のひとり、貴婦人がめっちゃ美人
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自分の家に帰ったウオルター、さっき別の船の船室に入っていった筈の不思議な3人が自分の家から出てくるのを見るが、いつのまにか消える
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父親に見送られウオルター旅立つ
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ウオルター、船の交易の業務や船長を手伝いながら船はいくつも街を進む
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7ヶ月経って、交易最後の街に到着
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船の者たち、その地に10ヶ月滞在
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皆、現地で遊ぶ。現地の女性も愛したウオルター
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ふるさとの服装をした3人の船乗りに会う。一人は父親の書記をしていたアーノルドだった
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「故郷の皆は元気か?」
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アーノルド「実はお父上が亡くなりました。ウオルターの妻を家から追い出したら、妻の実家と争いになって組合会議所(ギルドホール)で切ったり突いたりの戦いに発展。お父上は傷を受けてそれが原因で亡くなられました」
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アーノルド「ウオルター様、故郷に戻って下さい」
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アーノルドが話しているのに、ウオルター、またあの不思議な3人に気を取られる
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ウオルターもアーノルドも見とれる。乙女のくるぶしに足輪があるから奴隷じゃないか、と推察。
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ウオルター「故郷のラングトンに帰ろう」
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アーノルド達とバーソロミュウ号に乗って故郷へ向かう
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嵐で海が荒れる。ウオルターの内心(実は故郷に帰りたくないなーこのままどっか違うとこへ行きたいかも)←敵討ちに全然乗り気じゃなかった
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陸地発見
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河口から入りそこで船が停まる
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背の高い老人登場「お困りのようだから食料品や物資をどうぞ」船の皆「ありがとう」
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ウオルター「あなたは何者?」
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老人「ワシは昔勇敢な騎士じゃった、外から来た」
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土地の裂け目に行くウオルターと老人。その場所が妙に気になるウオルター。
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「あの場所に行ったんですか?」
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老人「危ないから行かないほうがいい」
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※ ここまで、熊族や異種族について老人が語るがウオルターは心の中で「野蛮人」と評する
※狩に夢中で、若主人たるウオルターをあまり気にしていないバーソロミュウの部下たちの姿が描写される
ウオルター、結局好奇心に抗えずに裂け目から荒野へ入っていく
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なかなかのガレた道。野宿。
荒野で出会った鳥獣=山狐、異様な形をした野兎、烏、長翼の鷹、鷲など
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平らで、美しい景観のところにやっと出た!
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例の不思議な3人の中のひとり、黄色い衣を着た小人に出会う。ゾッとするような笑いを浮かべていた
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小人は、女王(レディ)に命じられてウオルターにパンを持ってきたのだ
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パンを多めに置いて行ってしまう小人。自分は女王に「惑わされた」と発言。
熊族、惨め族、物族、などのワードが出現。
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登場人物まとめ
●小人 →女王の手先、監視役
●侍女(メイド)→「とにかく可愛い」描写=女王の奴隷=乙女
●女王(レィデイ)→美貌の貴婦人の正体。邪悪な女主人=黄金の館(ゴールデンハウス)に住む=悪魔と後に表現される=魅惑の技が使える=魔女っぽい描かれ方。高圧的、支配的。
●王の子(キングズ・サン)→女王が魅力の技で異界につれてきた美貌の青年。高慢。悪辣な人物。登場時には既に女王に飽きており、侍女を口説きにかかっている。
●熊族の国。皆ウオルター達より体格が大きい。→キリスト教でない国
中盤、美しい奴隷の侍女に出会う
会って間もないのに、ふたりは小川を挟んで好意を伝え合いお互いに「最愛の人」と呼び合う。早すぎでは?と思うものの、これがないと話が進まない。ロマンス作品ですし。
さて。読み終わりました。うーん、これって結局
『この女王って故郷で主人公を愛さなかった妻のことなんじゃないの?』疑惑
ウオルターの家の名はゴールディング。異界の荒野で、この女王が住むのは黄金の館(ゴールデン・ハウス)。分かりやすい。
美しい男を誘惑して館で愛し合うという描写も、故郷の妻の振る舞いに合致します。
最終的に、引き込んだ二人目の男だったという王の子(キングズサン)を誤って殺してしまい、女王は自害して果てます。
主人公からしたら、許せない存在だったであろう妻のような存在=女王の死。
そして主人公ウオルターは、色々途中を省くと
侍女と『幸せに暮らしました』エンドを迎えるのです。
あれっ…ウオルター、父親の敵討ちどうした?と思いましたが、確か妻の実家と戦った末の死亡だったので、妻的存在である女王が、物語の中で成敗されたことで、その悲願は果たされたのかもしれません。
ウオルターは、女王と「快楽のあずまや」に行き身も心も投げ出して愛し合います。
過去の寄港地でも女性との遊びには貪欲。
一方侍女は、王の子からどんなに言い寄られても身体を許さず、純潔を守る。
このあたり、作者の都合のいい願望を感じますね。まあ女性観やら国家観やらが気になってしまう2021年です。
黄金の館での四画関係
侍女は実は悪女ではないか?と思いながら、女王や王の子(キングズサン)や侍女達の罠や作戦や攻防の中で、ウオルターが素直過ぎて逆に大丈夫か?と言いたくなる。
でも、ウオルターは、故郷の妻とこんなふうに仲良くしたかったのかもしれません。
そして妻以上に愛らしい乙女、侍女と婚姻することが出来る。
男の夢が詰まったロマンス作品、と言うと身も蓋もないですが。
女王と王の子(キングズ・サン=女王と関係を持つ男)が毎夜、真っ裸と薄着で月の下を歩くのを見て嫉妬にかられる主人公は、果たして魅了の魔法をかけられていたのか、美貌の女王に魔法なしで籠絡されていたのか。
サクサク読める作品ではないし、詩に比べて散文のほうは当時も読者は少なく人気は出なかったようだ、と後書きにもある。が、読んでいくとモリス独特の表現にも段々慣れる。
そんな中
なかなかグッときたシーン。
黄金の館の中で、侍女とウオルターの対面シーン。女王が、侍女の服を半分脱がせ、ウオルターを試す。悪い女王様ですね~ 。
神話化する強引さ
作者が行きたかった「故郷ではないどこか」の、異界の俗っぽさは、終盤の「堅固城」(スターク・ウオル)の人々に王として祭り上げられるあたりで強引に神話のような聖書のような展開を見せます。
再び訳者後書きを読むと…
『純然たる空想世界です。雰囲気としては、むしろ中世のロマンスを思わせます。アーサー王伝説の一エピソードに、北欧神話の恐ろしくもきびしい光が一条、矢のように差し込み、思いがけないところに、フェアリーテイルの魔法のランタンが明滅するといった趣きがないわけでもありません。ヒロイックファンタジーなどと呼ぶ人もいます』
訳者後書きが、当時の文学者の作品などを多数引用して非常に面白いので、後は本書をお読みいただきたい。
最後に、女王の言葉から。
《そなたはこういう諺を知っているか、人の敵は己れ自身の家の中のものという諺を。もしも誰がこういうことをしたか真実が明るみに出た時は、その敵はつらい目にあうことになろう》
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