英国のガーデンのある生活
イギリスの家には庭がつきものです。
住宅の前にはフロントガーデン(前庭)とバックガーデン(裏庭)があります。
フロントがーデンは今はドライブと呼ばれる駐車場を兼ねているところが多くあります。
お家に入る導入になる、お客様をお迎えするお庭です。
バックガーデンは洗濯物を干したり、日向ぼっこしたり、お茶を飲んだり食事をしたりするプライベートな空間です。
私はマナーハウスと呼ばれる貴族やお金持ちのお屋敷のガーデナーをしていた時代があります。ロスチャイルドのお屋敷でスチューデント・ガーデナーとして研修をし、その後しばらく英国でガーデナーと教会建築家アシスタントをしていました。
お庭やガーデニングの話は色々語りたいことがあるのですが、「英国庭師修行日記」に書いているのでそちらで読んでいただくことにして、ここではガーデンと人の関係について書きたいと思います。
友達がヘッドガーデナーとして働くお庭のデンマンズに連れて行ってもらいました。
おとぎの国とか秘密の花園とかそんな言葉がよく似合うのがイングリッシュ・ガーデンです。
ここデンマンズはガーデンデザイナーのジョン・ブルーク氏が昔の姿を再現しながらモダンでもある庭づくりをしたところ。
流れるようなフットバス(歩道)を進むと少しずつ変化する風景に魅了されました。
こんなところに私も住んでみたいと思うような美しい風景が続きます。
歩いたり、立ち止まったり、振り返ったり。
流れてくる風を感じると、風に乗ってどこからかやってくる香りをふわっと、時には強く感じます。
グラベルと呼ばれる砂利の上を歩くときの音や足裏から伝わる感覚や、芝生を歩く時のふんわりとした感覚。
一部プライベートとして入ることはできないところもありますが、庭園のほとんどは一般の方も見学ができ、カフェやギフトショップもあります
庭園を歩いていると、どこでもみられるのがベンチです。
座って庭や植物を楽しんだり、のんびり本を読んだりするだけでなく、目の前の花に負けないお話の花が咲くことも。
庭は自然との、そして人同士のコミュニケーションでもあるのです。
椅子に座って、あなたならどんな時間を過ごしたいですか?
私はあるベンチでは五感を働かせて今ココを感じながらぼーっとしたり、太陽の下のまったりできるチェアーではこのお庭の歴史の本をお借りしたので読んでみたり、他の場所ではお庭を見ながら持ってきたおやつを食べたりしました。
長い時間庭で過ごすと、同じ場所にいても、太陽の傾きや雲の流れで遮られる光、風の揺らぎなどによって一瞬一瞬が二度と見られない大切な風景に思えます。
ガーデナーをしていた時は、植物と会話しながら毎日を過ごしていました。
そうすると、虫や鳥や動物もいつのまにか加わってきます。
私は1人ではない、みんないっしょに生きているんだなと、その時自然療法の基礎を自然から習ったように思います。
その人の夕方は、もう1人のお友達が働くナショナル・トラスト(*)のウールビーディングというお庭へ。
お屋敷の周りのフォーマルガーデンとキッチンガーデン、ヒツジの暮らすフィールドを越えるとその先にはウォーターガーデンがあります。
様々な庭のスタイルがあり、長くなってしまうのでここでは詳しくお届けしませんが、なんとなくこんなのもあるのねーと写真を見ながら一緒にお散歩を楽しんでもらえたら嬉しいです。
その翌日は、元私のボス夫婦がヘッドガーデナーを引退して暮らしている家を訪問しました。
家の周りのお庭もとても素敵だったのですが、アロットメントという貸し農園を利用し、野菜や切り花を育てたり、生態系のためにビオトープを作ったりしていました。
1日のうちの太陽の位置に合わせて、また気分によって過ごせるように、家の周りには異なる場所に椅子やテーブルが置いてありました。
でも、この日の午後、結局私たちはラグを家の前に引いて、ゴロゴロしながら雑誌を読んだりおしゃべりをしたりして過ごしました。
その翌日、アイテム・モートにいきました。
ここは中世から増築されながら今に至る歴史的な建造物として、ナショナル・トラストが管理しているところです。
歴史好きな人、庭好きな人、様々な人が入園料を払って訪れる庭です。
私が今まで働いていたお屋敷にも必ずキッチンガーデンがありました。
屋敷内で食べられる食物の生産でもある畑仕事や邸宅に飾る花々もガーデナーの仕事でもあります。必ず見られるキッチンガーデンは、家庭菜園の大きなものと思ってもらうといいかもしれません。
季節ごとの私たちの体に必要な食べ物が、私たちが立っている大地の延長で作られます。
まさに身土不二!
最後に訪れたのは、また違う友達がヘッドガーデナーをするコビット・ホールでした。
ここは個人のお屋敷なので一般公開はされていません。
どうしても会いたかった友達と時間を過ごす一つの手段は、ボランティアで庭の手伝いをすることでした。
私も久々に庭仕事もでき、友達ともおしゃべりができ、とても有意義な時間が過ごせました。
ここでもお屋敷のオーナーさんたちのお食事のための食べ物を作るための庭、キッチンガーデンがあり、様々な野菜が育てられています。
育てるのも、収穫するのも喜びがいっぱいの仕事です。
たくさんの持ち主や用途の違う庭を見てきましたが、庭と人との関係のイメージが出てきましたか?
庭は癒やしの場所であり、景色や花々を楽しむところであり、リビングルームであり、動植物が喜ぶ場を人工的に作った楽園であり、食という栄養源であり、人々の暮らしに欠かせないところです。
英国では、小さなお家で庭のないところに住む人のために、庭を開放する活動が19世紀から始まっていたことからも、心と体の健康のために庭やスペースを重要視していたことがわかります。
たとえ日本の都市部に住んでいたとしても心や体が喜ぶ空間に身を置くことを忘れずに、心休まる庭や自然の中へ行ける環境を整えていきたいですね。
そう言えば、イギリスに滞在した10日の間、室内で食事したのは数えるほど。ほとんど毎日、お昼も夜も、そしてお茶もお庭で食べていました!
*ナショナル・トラスト みんなで募金運動などをして土地を買い取り、後世まで歴史的、自然的環境を永久的に残し、活用し、後悔していくイギリス発祥の運動。日本にも知床100平方メートル運動や鎌倉の鶴岡八幡宮の裏山の保存から始まり、今ではトトロの里山を育てる会など市民団体が各地にあり、筆者は日本ナショナル・トラスト教会事務局で働いていたのをきっかけに2001年に渡英し、8年半の英国生活を送った。