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百五銀行、現場主導のDXの舞台裏 (「デジタルバンキング展 DBX2024」登壇イベントレポート)

2024年3月14日〜15日に開催された、日本金融通信社(ニッキン)主催の金融DXに特化したイベント「デジタルバンキング展 DBX2024」に、百五銀行 経営企画部 IT戦略課 課長代理 角賢二氏と、ダイナトレック 取締役 佐伯慎也が登壇しました。

百五銀行 経営企画部 IT戦略課 課長代理 角 賢二氏

データ仮想統合ソリューション「DYNATREK」でDXとデータ活用人材育成を加速

三重県津市に本店を置く株式会社百五銀行(以下、百五銀行)は、データ仮想統合ソリューション「DYNATREK」を導入し、営業支援からCX(顧客体験)の向上まで、データ活用の領域を拡大しています。そんな同行が明かす、DX成功の秘訣とは。その舞台裏を語ります。

DYNATREKを導入した経緯

百五銀行は、2019年、20年以上使い続けたCRMの全面刷新を機に、CRMの情報還元機能などを補完するツールとしてDYNATREKを導入しました。

従来のCRMは、長年のカスタマイズで構造が複雑化し、ベンダーの支援なしには営業店のニーズに応えるのが難しくなっていました。コストを理由に機能追加や改修を諦めざるを得ないケースも出てきました。その点、DYNATREKなら、ベンダーに頼らず内製で帳票開発や機能拡張が可能となります。

例えば、外為関連業務のツール。外為関連の画面では独特の表示方法が求められ、CRMでゼロから開発するとなると多大なコストがかかります。ですが、DYNATREKを活用すれば、開発コストは最大10分の1にまで削減が見込めます。これはあくまで一例であり、ダイナトレックは百五銀行における標準的なBI・データ還元画面の開発ツールとして位置づけられています。
 
導入から5年が経過した今、百五銀行では大小50種類以上の帳票を開発するなど、DYNATREKが根付きつつあります。

データ活用つまずきがちな要素

ダイナトレックの佐伯は、約30行に及ぶ銀行DXプロジェクトの経験から、金融機関がデータ活用を推進する上で直面する課題を2つ挙げました。1つ目は「データの統合」、2つ目は「業務の統合」。

システム部門から見れば、多種多様なシステムに散在する膨大なデータを統合したいのに、業務側の利用用途が多種多様なので、どのデータを統合するのが最適なのか分かりません。一方で、業務部門は、部門ごとに分かれたデータを統合しないとこれ以上の効率化は進みません。このように、どこから着手すればいいのか分からないようなジレンマに陥りがちです。
 
DYNATREKなら、たとえシステムがバラバラに存在していても、アプリケーション上で仮想的にデータを統合できます。つまり、データと業務の統合を業務主導で一気に進められるのです。

続けて佐伯は、導入、拡大、継承というデータ活用のフェーズごとに、つまずきやすい要素を挙げました。
 
導入期は、社内の理解促進が最大の障壁となります。「BIツールを導入したものの、どんな分析をしたら業務に役立つのかイメージが湧かない」といった状況に陥りやすいのです。データ活用の手前で、データ統合の要件が広がりすぎて、そこから前に進めないケースも見られます。
 
次に拡大期。データ活用が軌道に乗ると、次は「データの民主化」が課題となります。誰もが簡単に扱えるようになると、同じような帳票が乱立したり、使わなくなった帳票が残り続けたりと、ムダや非効率が生じかねません。攻めと守りのバランスが重要になってきます。
 
最後に継承期。データ活用の過程で蓄積されたノウハウやメンテナンス手法などを、次世代に着実に継承できるかも大きな課題となります。特に熱意の継承は難しい。データ活用をさらに進展させるには、熱意を持った推進リーダーの継続的な育成が肝心となります。

ダイナトレック 取締役 佐伯 慎也

百五銀行流のDX成功の秘訣5選

これらのデータ活用の”峠”に対し、百五銀行はどのように取り組んでいるのか。角氏は、同行がDXに成功した秘訣を5つ紹介しました。 

①データリテラシーを備えた人材の育成

データ活用を組織に根付かせるには、データリテラシーを備えた人材の育成が不可欠です。百五銀行は、意欲の高い若手を対象に、「データ利活用トレーニー」と銘打った研修プログラムを立ち上げました。約半年にわたるカリキュラムで、受講生は本業の傍ら、経営企画部 IT戦略課の一員としてデータ活用業務に従事。座学に加え、行内の生きたデータを使った分析や独自のリスト作成、営業活動での実践まで幅広く経験してきました。これまで約16人が参加し、回を追うごとに募集定員を大きく上回る人気研修となっています。

②データ利活用トレーニー修了生が「出島」となり、データ活用を組織に浸透

研修終了後、それぞれの拠点に戻った修了生は「出島」となって本部と現場をつなぎ、データドリブンな意識の定着とデータ活用の裾野拡大に努めています。角氏らIT戦略課は、修了生たちとのパイプを生かし、現場のデータのニーズを迅速に把握できるようになりました。新規メニューの開発や改善に、現場の声を活かしやすくなったという声も出てきています。 

③業務部門へのきめ細やかなサポートを徹底 業務主導でデータの一元化を実現

多くの業務部門は、データの取り扱いに不慣れです。そこで角氏らIT戦略課が、ヒアリングからメニュー画面の設計までサポートしているのですが、これが現場の業務を深く理解することにつながっているといいます。

一度作ったメニューは、他業務にも転用可能です。角氏は、「業務理解とメニューの転用を繰り返すことで、いつの間にか業務の統合基盤ができあがり、データの一元化ができていた」と語ります。「特に私たち経営企画部は、銀行全体のデータが必要なことが多く、これまで都度各部門に依頼してデータを準備してもらっていました。データの一元化ができた今は、自分たちの好きなタイミングでデータを収集できるようになり、かなりの効率化につながっています」(角氏)

④DX部門とシステム部門の協調で、機動性とガバナンスを両立

DXの潮流の中で、金融機関にはDX専門部門の新設が相次いでいます。一方で既存のシステム部門も存在し、両者の連携がDX推進における重要な課題となっています。百五銀行では、DX部門と従来のシステム部門が協調することで、アジリティとガバナンスの両立を図っています。

例えば、DYNATREKで新規メニューを開発する際には、事前にシステム部門に相談し、リリース前に負荷テストを実施しています。データを仮想統合し、アジャイル的に活用できるのがDYNATREKの強みですが、大量のデータ処理がともなうケースでは、パフォーマンスへの懸念が避けて通れません。システム部門の知見によってリスクを抑制しているのです。 

⑤優秀な営業経験者から人材を選抜 越境や交流でDX人材に育成

DXを成功に導くには、外部の知見やノウハウ、異なる発想の取り込みが不可欠です。角氏は、「DYNATREKを使う最大のメリットは、ユーザー会議などを通して金融機関ユーザー同士の情報交換ができることだ」と語ります。

いわゆる越境にも力を入れています。2023年には、同じくDYNATREKユーザーの千葉銀行から出向者を受け入れ、新規メニューの開発・改善に加わっていただきました。2024年からは、百五銀行からDYNATREKに出向者を派遣し、当社取引先の金融機関や、地域企業、自治体などと協働し、DXやデータ活用の実務経験を積んでいく予定です。

出向者は、営業経験者から希望者を募っています。現場から改善意欲の高い人材を発掘し、システムやデータに関するスキルを身に付けることで業務改革人員を育成しています。さらに行外の人脈形成にも役立てたい考えです。

今夏出向開始予定の中條氏も法人営業出身です。「行外からさまざまな知識やアイデア得て戻ってきたら、営業個人の能力やセンスに関係なく、全員が高いレベルで顧客の期待に応えられるようなツールを作りたい」と抱負を語りました。

百五銀行 経営企画部 IT戦略課 中條 航平氏

佐伯は、「データ活用の成否を分かつのは、基盤やツール以上に、それを活用する人材だ」と強調しました。2024年4月には、人材育成を目的とした社団法人を立ち上げ、外部のDX専門家の協力のもと、数多くの実践の場を提供していく予定です。