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その8 僕だけのMOTHER

この本の感想を書いてくださった創作オタク仲間であり遠くにいるお友達である七峰らいがさんも言う通り、

“特にFCソフト「MOTHER」のメインストーリーをありのまま書いてしまうという挑戦的なくだりでは、読者である自分もまた和室で友人のゲームプレイを眺めるひとりとなったかのようであり、長年多くの人に愛され続けるというそのゲームを自分でも遊びたくてたまらなくなった”

タクシー運転手のヨシダさんの作中には、とあるテレビゲームが出てくる。オマージュや影響を受けた作り方も沢山している。
そう、糸井重里さんのMOTHERシリーズ。特に2は私の心の拠り所だった。

子供の頃、随分とつらい時期が長く続いた。
学校にも行けず、家庭にも居場所を失くした私が逃げ込んだのが近所の団地に住む父方の祖父母の家で、そこに置いてあったスーパーファミコンが繋いでくれたのがMOTHER 2の世界だった。

私はそこに「おまえだけのばしょ」を見た。
自分だけの聖域、精神のサンクチュアリ、心の不可侵宙域。

その想いの丈を綴ったエッセイを糸井さんご本人がご覧下さったこともあって。

↑コレです。
あんなひっくり返るぐらい嬉しかったこともない。

で、今回の出版にあたって。
別にヨシダさんシリーズは元々、ミクシィでマイミク相手に書いて読んでもらってた頃から小説家になろうに移っても、結局ひっそり続けていた趣味のお話づくりであって。
まあ何しろ私、お話づくりと子作りが大好きで。
あとダム作りね。木の枝とか拾ってきて(ビーバー?)。

で、このお話が段々と家族のお話になってきて。
ぶっ壊されて、干からびて、ばらばらになって変わり果てた家族が、この世の片隅で巡り合った。ヨシダさんが探していたのも、お母さんだった。

そう、MOTHERだったんだ。

だから、このお話の最終回はMOTHERだったし、Web版ではさらに細かく章立てがなされている(単に書くのに時間がかかったからそれだけ小分けになったんだけれど)ので、ホントの最終回はMOTHER 2となっていた。

この件、トーーゼン担当編集Fさんにお伺いを立てた。
大丈夫でしょうか…?
と。
まんま、だからである。
ただまあ、言ってしまえば「君たちが夢中だったドラゴンなんとか(ほんとにこんな文章が公式のどっかにあった)」であるとか、明らかに固有名詞なわけではなく。いいんじゃないか、ということになり。
最後の最終回の「MOTHER 2」も本当は章立てのうちに含めたかった(Fさんからも、そんなに思い入れのあるタイトルならば残しましょうと言ってもらえていた)のだけれど、これはもう
MOTHER
で最後、終わったほうがきれいだなと思って。
全部ニホンゴのタイトルなのに最後がMOTHERってのも違和感あっていいなって。
絶対そこ何かあるじゃん。なんか、そんなふうにも思った。
ただ、どこまで計算して作ったかって言えば大したことは考えてなかった。
コイツ(佐野和哉)のオツムなんぞ知れているからだ。

誰だ、いま言ったのは!!?
……私か。

Web版では十数回に及んだ完結編(二十一世紀の聖域から最終回までのお話)も、ページ数や文字数の都合で結構バッサリ行きつつ半分ぐらいの章立てに組み直しまして。
その代わりカズヤ君が能面を持ち込むところからお話に含めることに。
そっからのお話と、それまでの意外と明るく賑やかで騒がしいホラー小説が、あの小さな暗い部屋に集約していく様に、
MOTHER
と名付けたというわけでした。

なんつーかなあ。
垂直落下式ブレーンバスターのあとでまだパワーボム、顔面キック、バックドロップ、パワーボム…でやっと決着が付く熱戦もいいけど、やっぱ
左腕のサポーターを直してウエスタンラリアートでぶっ飛ばして終わり!
のほうが、スカっとするでしょ。
(全日本プロレス大好き)

レトロゲームを取り入れた書き下ろし作品、日本橋徘徊少年。
そして物語の終盤に出現する、かつて母だった魂の成れの果て。
この二つは特に影響が強く。
…怒られる前に謝ってしまえ!と思いあまりに好きすぎて、
僕だけのMOTHERを作ってしまいました。
と白状したくて、実は糸井重里さんの事務所にファンレターとしてお送りしてしまった。
パラっとでもめくってくださっていたらいいなあ…。

MOTHERのオマージュなんか、今までも腐る程あっただろう。
私ぐらいのトシのクリエイター様どもが今からどんどんオエラクなるから、これからもっと増えるだろう。
アイツラが良くて、コッチがダメってこたぁねえだろ。
寂しいコト言うなよ減るもんじゃなし。
オレにもやらせろ!!
…なんか語弊のある表現だな(ダメ絶対!!)

ゴヘイもミタラシもあるかってんだ。
だって本当に、あの辛く長い、本当ならどんなに明るく楽しかったであろう、かけがえのない子供の頃の日々をどす黒く塩辛い血で塗りたくったような生活からの逃げ場が
MOTHER2
だったんだ私は。
私にだって、MOTHERが生きてる。
私にとっての母なる聖域。それがMOTHERシリーズの世界だった。
3の要素が殆ど無いのは意図的に止めた部分もあるけど、あれはある程度トシいってから遊んだので…。
なんかもっと自然と、しかし強烈に刷り込まれたものが、やはり強く出たんだと思う。

細かいことを言えば、この本の全体的な印象にも影響がある。
MOTHER2って最初のオネットで夜明けを迎えると草木の色が鮮やかで。
ツーソン、解放後のスリークでは落ち着いたトーン
ぎらつく砂漠、大都会、悪夢の街、海の向こう、雪国、霊峰の王国と続いて。
サターンバレーも含めて賑やかで明るくて、地球の危機が迫ってるとは思えないぐらいのんびりしているし娯楽や無駄話や生活感に溢れている。
それが、砂漠の川を渡って魔境に入ると一変する。
薄暗い毒の沼地を超え、洞窟に住む忘れられた民族に会い、地下の秘密基地を経て地底世界、そして故郷に舞い戻れば宇宙人に陥落寸前。
最後はモノトーンの最低国。
ここまで賑やかで明るく楽しかった現代劇RPGが徐々にその彩りを失って、冷たくて生命の息吹を感じない灰色の世界へと変わってゆく。
そして最後の最後は逆に、生々しく粘膜質な生命維持装置のようなものと対峙することになる。

ヨシダさんシリーズも意外と明るく賑やかなホラー小説を標榜しているけれど、それが段々と寂しくて暗い場所に向かっていって、最終的に忘れられた小部屋に行き着く。
最後そこから脱出するところに関しては完全に小橋建太さんとかアントニオ猪木さんのプロレスなんだけど、MOTHER2からは物語の構成にも大きな影響を受けておりました。

行ったこと無いところ、特に普段よりちょっと遠いとこ行くとさ。
途中でふと我に返るじゃん。
ああ結構、遠くまで来たなあ。
みたいな。
昔、車で愛知から新潟まで走ったことがあって。夜通し走ってどこぞのSAで寝たんだけど…朝起きて自分が何処にいるんだかわからなくって。
ああ、えらい遠くまで来たなあ…。
と思った。あの感覚が、MOTHERにもあるんだよね。旅情とも郷愁ともつかない、遠くへ来たことで胸に去来する、冷たいそよ風みたいな気持ち。
そよかぜうんどう、じゃないザマスよ?ランラランララン♪

お買い上げ下さった方々の感想を拝見すると、概ね
こんなハズじゃなかった
気がつくと遠くへ連れて行かれていた
と書いて下さっていて。
どっかで我に返ると、もう取り返しのつかないところまで来ている。
MOTHERシリーズもそうじゃん。
たぶん初代ならイースター、2ならピラミッドに入り込もうとしてるあたりか。
ああえらいことになったな…。
という不安と後悔と期待が綯い交ぜになった、あのイソイソする気持ち。

あれが心のなかにきっとあって。気が付いたときに、じゃあもっとギャップでもって明るく楽しく賑やかな場面を…!
と思ったのもあって、日本橋徘徊少年ではオタロードを歩いたりメイドさんが出てきたり、大阪の賑やかなオモテの日常も書いてみた。
メイドさんは全員モデルになってくれた人が居て、別の作品で同じキャラを作っていた。だから動きや声が自分の中で出来ていて、書いてて楽しかった。
特に店長さんのあぶくちゃんはモデルさんもすごく素敵で、可愛い人なんだ。
話すとまた面白いし、突拍子もないことも色々あって楽しい。また話がしたいなと心から思える人だから、自分の物語にも居てもらえてうれしいんだ。

で、その賑やかさが際立った後で二十一世紀の聖域に向かうようにした。
あれはヨシダさんの過去の象徴であり、母が最期に見た景色だった。
あそこで家族の過去が明らかになって、母が確かに其処に居た。
だから、この物語の最期のサブタイトルは(結びの章は別として)
MOTHER
で良かったと自分では思っているし、
この本が「僕だけのMOTHER」だった。

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