分析だけでは解決できない、そんな時どうする? ー社会課題解決 と シンセシスー 鷲田祐一氏 講演
自身の専門性をデザインの力で磨き上げ、キャリアの可能性を広げる
DXDキャンプ オープンセミナーシリーズ【第1回】
デザイン経営の「いま」を知るー
ビジネスに「デザイン」を活かすとは?
「デザイン」に関する国内トップクラスの専門家やビジネスパーソンが、デザイン経営、広義のデザインの有用性を独自の視点で語る、「DXDキャンプ」提供のオープンセミナーシリーズ。第一回目は、未来洞察手法の研究や著書「デザイン経営」で知られる鷲田祐一氏に登壇いただきました。
「デザイン」が扱うべき“やっかいな問題”を解決するには、いままでとは違うやり方=「オルタナティブ・アプローチ」が重要です。課題への向き合い方として、まず「現状の分析」という、これまで当たり前としてきたアプローチに、鷲田氏はゆさぶりをかけてくれます。
アイデアが既存から抜け出せない、原因追及で力尽きてしまい思考が未来に向けられない。そんな時にこそ生かされるべき「デザイン」のあり方を考えるきっかけとなったお話でした。
※本記事は、2024年7月に開催されたDXDキャンプオープンセミナーでの講演内容を一部抜粋しご紹介するものです。
「分析」の対極アプローチ、「シンセシス」とは。
皆さん、こんにちは。一橋大学の鷲田です。今日のセミナーでは、「社会課題解決×シンセシス」というテーマでお話します。
企業活動において、社会課題の解決に取り組むことが非常に重要視されているのはご存知の通りです。例えば、SDGsもその一つ。持続可能な開発目標の達成に向けて、どのように取り組むかが問われています。
「課題の解決」と聞いて最初に思いつくフレームワークといえば、それは「分析(アナリシス)」ではないでしょうか。たしかにこれは非常に強力なフレームワークで、科学的思考の根幹をなす部分です。しかし、現実を見渡したとき、私たちの社会にはこの「分析」アプローチだけは解決できない課題が多いといういことも事実です。
その時、私たちはどうしたらいいのか。これまでの「分析」だけでなくオルタナティブ(もう一つの)アプローチの方法を、自分のなかに持っておくということ。それが、これからお話しする「シンセシス」というアプローチです。
私が「synthesis(シンセシス)」という言葉を知ったのは、いまから15年くらい前のこと。英語では「Analysis(分析/アナリシス)」の反対語として「シンセシス」という考え方があるというのです。
「シンセシス」、あまり聞き慣れない言葉かもしれません。日本語では「構造、構成」と訳されます。元々、化学分野で用いられており(「合成」というとイメージがつきやすいでしょうか)、異なる物質を組み合わせて新しい物質を生み出すことを指しますが、これを問題解決の思考方式に応用しています。簡単に言えば、「シンセシス」は既存の要素を統合して新しい価値を創出する方法です。
今より良い状態の未来を「シンセサス」する
もう少し詳しく見ていきましょう。これまでの典型的な課題解決法は、原因を解明しそれを取り除く「分析」でした。例えば、現在の社会課題Xに対して分析的アプローチを取るなら、過去に遡り、何で事象Xが起きてしまっているのだろうと、過子に一旦立ち戻り、原因を分解して特定し、細かく、わかりやすくしてから原因を取り除いていくことで解決しようとします。
しかし、シンセシス的アプローチでは、現在の問題をそのまま受け入れ、新たな要素QやRを付け加えて、未来に向けた新たな解決策Yを見出すことを目指します。この方法は過去に遡るのではなく未来を見据える点で、分析とは異なります。例えば、公害問題が起きて環境問題が破壊されているとした場合、原因は何かを過去に遡って細かく究明していき、一つひとつ潰していくことで解決していくことができるでしょう。
「分析」は、確かに強力なフレームワークですが、過去に一旦立ち戻った時点で、遠回りであると同時に、そこにハマってしまい本来向かうべき未来の方向へ、思考がなかなかむかなくなってしまうという弱点があります。実際、世の中で行われている研究のなかには、分析だけで終わっていて、現実の解決につながっていないものも数多く存在します。
一方で、「シンセシス」は、いま起きている事象を分解することなく、まるごと未来を構成する要素の一つと捉え、そこに別の要素をQ、Rと加えていくことによりできあがる事象Yが、現在の事象Xよりも少しでもよい状態になることが予測できるのであれば、解決方法の一つを見つけたことになるということです。
例えば、コロナの例で見てみましょう。あの時、コロナの原因を取り除いていくためには、菌に触れない、人と触れない、外を出歩かない、ことが求められましたが、人間生活を維持していくには不可能なことです。それでもいまよりも少しでもよく生きていくために、「Withコロナ」という不思議な言葉が現れたわけです。これは、ある種の「シンセシス」が働いたと理解することができます。どうやってコロナと共存しながら、少しでも快適に生きるかということを考えよう、ということです。
「構成」を用いた解決策の創造
特に日本人は、学校教育の段階から「分析」フレームをトレーニングされていることもあり、なかなかしっくりこないかもしれません。
しかし、このアプローチで導かれたアイデアが採用されている事例は、意外と身近にあります。実際の事例を元にクイズを作ってみました。実際に採用されたアイデアはどれか、一緒に考えてみてください。
※気になる答えは、こちらのアーカイブ動画でどうぞ(期間限定)。採用された「構成」アイデアへの、市民からの支持率の高さにも注目です。
「分析(アナリシス)」と「構造(シンセシス)」、
未来を描くための“もうひとつ”の思考法を持つ意味。
繰り返しになりますが、今日のお話は「シンセシス」が優れているとか、これからの唯一の方法だということでは決してありません。
何かを理解しようとする時に、我々はどうしてもそれを個別要素に分解して、原因を推論することだけが「理解」と思いがちです。なぜなら、「分析」は過去を扱うので、検証がしやすく、結果「分析」のみが正しい解決につながると誤解をしやすいのです。
そこに「シンセシス」というもうひとつの「理解」の姿があるということが、お分かりいただけたかと思います。しかし「シンセシス」には大きな弱点もあり、未来に対して要素の組み合わせにルールはなく、とても開放的なことから、“単なる個人の思いつき”と誤解されやすい側面も持っています。
しかし、研究からわかってきたことが一つ。「シンセシス」なアイデアを受け入れられる、もしくはアイデアを生み出せる人は、「社会的な課題に強い関心を持っている」という特徴があることがわかってきています。頭のなかだけで考えたり、知識だけで処理しようとすると「分析」のみに偏りやすくなりますが、社会の課題に関心を持ち、自分ごととして捉えることで、「シンセシス」な発想も上手く活用できるようになる、受け入れられるようになるということです。
生活者を見る、社会を見つめる「デザイン」の視点と、「シンセサス」というもう一つのフレームワークのつながりが見えてきましたでしょうか。皆さんの気づきのヒントになれば幸いです。
参加者からの感想・コメント
次回のテーマは、『なぜ「いま」、エンジニアがデザイン思考を学ぶのか』と題し、東京理科大学教授の飯島淳一氏にお話いただきます。ご興味のある方、ぜひお気軽にご参加ください。
もちろん、こちらの「note」でも引き続きレポートしていきます!
次回予告!
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