見出し画像

経営こそクリエイティブに ー新たなインクルーシブ・ブランディングへの挑戦ー 長屋 明浩氏 講演

自身の専門性をデザインの力で磨き上げ、キャリアの可能性を広げる
DXDキャンプ オープンセミナーシリーズ【第3回】
『なぜ「いま」、ビジネスエリートはデザイン思考を学ぶのか』

「デザイン」に関する国内トップクラスの専門家やビジネスパーソンが、デザイン経営、広義のデザインの有用性を独自の視点で語る、「DXDキャンプ」提供のオープンセミナーシリーズ。第3回目は、ヤンマーホールディングスで チーフブランディングオフィサー(CBO)として活躍する長屋明浩氏に登壇いただきました。

トヨタで、レクサスやプリウスなどのブランディングを成功させた後、ヤマハ、そしてヤンマーへ。文化も課題も違うそれぞれの企業で、デザインと経営をつなぎ、常に新しい方法で会社、ステークホルダー全体を動かしてきた長屋氏。ヤンマーでの事例を通して、長屋氏が描く「インクルーシブ・ブランディング」の一端が見えてきます。

社内で「デザイン経営」への理解が進まず悩んでいる方、対照的に社内で「デザイン」への期待度が高まっているものの、どう応えていくべきか迷っているという方にも、ヒントが詰まったお話です。

▶︎動画アーカイブ公開中!

※本記事は、2024年9月に開催されたDXDキャンプオープンセミナーでの講演内容を一部抜粋しご紹介するものです。

長屋明浩氏 
ヤンマーホールディングス(株)取締役/
チーフブランディングオフィサー/ブランド部長(CBO)
トヨタ自動車にてレクサスブランド企画室長、デザイン部長を歴任。その後ヤマハ発動機に移り、デザイン統括とグローバルブランディングを担当。2022年ヤンマーホールディングス入社、現職。


重労働から人を救いたい、その想いから始まった「ヤンマー」

最初に、ヤンマーという会社について少しご紹介しましょう。ヤンマーというと、農機具の会社というイメージが強いかと思いますが、今から110年以上前に、世界で初めてディーゼルエンジンを小型化したことからスタートした会社です。現在はホールディングスの形態で、アグリ事業をはじめ、マリン関連、建機、コンポーネントなどさまざまな事業を展開しています。

最近ではエネルギーシステム部門が急成長を遂げているなど、まだまだ知られていない顔を持っています。3~4年前からは「食」事業もスタートさせ、私はホールディングス全体のブランド戦略のほか、この食事業の会社の取締役も兼務しています。

注目すべきは、会社の成り立ちが農機具を作ろうということからスタートしたのではなく、小型化したエンジンをさまざまな事業に転用、展開していったということ。その根底には「労力をコンパクトにして、人を救いたい、豊かにしたい」という人への想いがあり、その向かうべき方向の一つが重労働であった農作業であり、そのほかの幅広い事業へと広がっていったという歴史的背景があるということです。

この、「人を大切にする」という文化が、ヤンマーのユニークなところであり、現在のブランディングにもつながる大切な価値になっています。

※長屋氏のトヨタ、ヤマハでのヒストリーは、動画でどうぞ!


すべての人を巻き込み成長させていく「インクルーシブブランディング」へ

ブランディングを考えるにあたっては、まず現地・現場で皆さんの声を聞くというところから始めました。1年半ほどかけて世界中にあるオフィスや工場、お客さまの元を回ったなかで見えてきたのは、ヤンマーが「人」に対して強い想いを持っているブランドであるということです。会社の成り立ちも紹介しましたが、根底には「人」への想いがあり、それは社外だけでなく社員にも向けられていることを改めて認識することができました。

一方で、新しいものが出てこない、現場と経営が描く理想とのギャップなどの課題も。人が輝いている一方で、ブランドとしての統制が取れていない、まさにそこを埋めていくことが仕事だと考え、これからヤンマーで実践していくブランディングを「インクルーシブ・ブランディング」と定義づけました。

ブランディングというと、どうしてもお客様を重視したものと捉えがちですが、「インクルーシブ・ブランディング」は、社内・外を問わずあらゆるステークホルダーを巻き込んでブランドを醸成していく新しいスタイルです。

経営が指針を立て、それに沿って社内がモノをつくり、社外へと発信するという、“ライン”状の流れではなく、会社の内と外、お客様と開発者、これらがすべて混然一体となり、共に価値を創造していくというあり方。今は「共創」の時代です。経営の考え方も、いわゆる“中で作って外に出す”という発想を転換していかないと、この先付加価値を創造していくことはできないと考えました。

「HANASAKA」ロゴがあしらわれた「YANMAR TOKYO」外観
(2023年開業時の期間限定ラッピング)

インクルーシブ・ブランディングを支える「測・攻・揚・創」

「インクルーシブ・ブランディング」を進めるにあたっては、「測・攻・揚・創」という4つの要素が軸になると考えています。「測」は測ること、「攻」はアクションし続けること、「揚」はいかに巻き込むか、そして「創」はいまあるものに収まらず新たなコンテンツを創ること、を示しており、中でも特に大切なのは、「測」と「揚」であると考えています。

「測」
自社の立ち位置をしっかりと測定する。この基本を実施していない企業は意外に多いです。自社が今どこにいて、どれ程の知名度があるのかを知らずに進めても効果は期待できません。ヤンマーでは外部団体が発表しているブランドランキングなども、社外からどう見えているかを知る意味で活用しています。

「揚」
盛りあげる、つまりエンゲージメントを高めるということ。経営や上層部だけが盛りあがり、あれこれ命令だけを社員に押し付けても盛りあがりは得られません。

例えば、当社では、人の可能性を信じ、挑戦を後押しするヤンマーの価値観「HANASAKA(ハナサカ)」をしっかりと根付かせることに注力しています。その一つが、昨年新しくなったヤンマーの東京支社(八重洲)を、「HANASAKA」を内外に発信していく場、インクルーシブ・ブランディングの象徴としてデザインしました。このビルのなかには、吹き抜けの天井をいかした桜のアートワークなど開放的な空間を楽しめる「HANASAKA SQUARE(ハナサカスクエア)」というパブリックスペースがあります。「HANASAKA」の価値観のもと、人々に感謝し、自分が受けた恩恵を世の中に返していくことにより次の世代をしっかりと育てていくという活動を、外にも内にも行っていくという意思表明です。

「YANMAR TOKYO」内、「HANASAKA SQUARE」

グローバルでのワークショップ、キャラクター投票、アニメ製作の挑戦

前述の通り、社内の盛りあがりも重要です。指標の一つに社員のエンゲージメントスコアがありますが、グローバル企業の場合、海外に比べて国内のスコアが相対的に低い傾向にあるのですが、ヤンマーも同様でこれを変えていかなければならないと考えました。そこで全国の支店支社を対象に社員一人ひとりに「HANASAKA」とは何かを定義してもらうというワークショップを展開しました。会社として定義したものを下すのではなく、ワークショップを通じて、ヤンマーの価値を自ら考えてもらったのです。

国内でのワークショップが成功したため、ヨーロッパ、アメリカ、シンガポール、中国と海外各地でも実施し、いま2周目に突入したところです。

企業マスコットキャラクターである「ヤン坊マー坊」デザインリニューアルの一般投票も実施。グローバルで我々の商材やサービスも含めてコミュニケーションを行えるキャラクターとして、一新を図りました。これを社員も一般の方も同時に投票するというイベントにしたところ、話題となり大きな盛りあがりをみせることができました。

そして現在は、オリジナルの商業アニメを製作しています。PR用のアニメではなく、本格的な商業アニメとして製作しており、社内のプロダクトデザイナーと外部のアニメのプロフェッショナルが、まさにインクルーシブに、インタラクティブに創りあげています。
あからさまにヤンマーを押し出すのではなく、私たちが大切にしている価値観、つまり自然の豊かさと人の豊かさを両立させ、未来を切り開いていくという、人にフォーカスしたアニメです。 


2025年春放映予定 オリジナルアニメ『未ル わたしのみらい』
ロボットのデザインスケッチは、ヤンマーのデザイナーが行った。
武器を備える従来のロボット像ではなく人間の役にたつもの(インプリメント)を装着している。
5つのスタジオによるオムニバス形式のストーリー。
アニメ界での「HANASAKA」(人や未来を育てる)を目指したという。
公式サイト:https://www.miru-anime.com/


モノゴトの「総和」で豊かさを創っていくーインクルーシブな時代へー

時間軸でモノを作り、社内から社外へと順番に驚いてもらえばよかったこれまでとは一変し、すべての「総和」で豊かさの重みを創っていく時代へ。デザインや経営に期待されていることへの変化を感じながら、手作業も含め、デザイン経営を進めてきました。

今日皆さんにお話してきた「インクルーシブ・ブランディング」という考え方は、まだ誰も取り組んだことのない私独自の考え方です。AIの時代になり、クリエイティブなんて不要だ、すべてAIがやってくれるだろうと言う人がいますが、それは違います。AIという存在があるこそ、人間はもっとクリエイティブになり、AIが困るようなことを考え出すような存在にならなければならない。それができるのが、人間の価値だと思います。

経営も同じです。まず“思いつく”、“クリエイティブな発想をする”というのがますます重要になります。思いついたものが合ってるかどうか、成功するかどうかは、実験すればいいのです。これこそが「デザイン思考」なのではないでしょうか。

スタート地点で、いかにこれまでになかったアイデアを発想できるか、新しい着眼点を持てるかが、ますます問われる時代。まずは、やってみてください!これが私からのメッセージです。

以上、3回にわたりお届けしてきた『自身の専門性をデザインの力で磨き上げ、キャリアの可能性を広げるDXDキャンプ オープンセミナーシリーズ』は、いかがだったでしょうか。先駆者ならではの試行錯誤ストーリーから、デザインの持つ可能性を、感じていただければ幸いです。

DXDキャンプを見学してみませんか。

オンラインレクチャーの学びの様子を見学いただけます。
ご希望の方はお問合せからご連絡ください。


参加者からの感想・コメント
“デザイン・ブランディングの考え方を普段の仕事にも活かしてみたい、と感じました。”

“デザイン活動の一環として社員自らアニメキャラクターをデザインされたのはすごい!”

“ブランドポリスをしてはダメというお話、 その通り!と感じました。”

“デザイン経営やブランディングに対してまだまだ表層的に考えているトップが日本は多いように思います。経営トップとの視点の違いや葛藤、そして乗り越え方などもっとお聞きしたいです。”

「広義のデザイン」専門スクール 
DXDキャンプ
自分の専門性に「広義のデザイン力」を掛け合わせ、
高度デザイン人材に成長するための社会人向けスクール。
10月からは第8期がスタートします。
Webサイトでは、修了生インタビューも掲載しています。
https://dxdcamp.com/




いいなと思ったら応援しよう!