しゃべるゴミ箱
昔、しゃべるゴミ箱を見た。どこかのテーマパークだったか。何をしゃべっていたのか、思い出せないが、たしかにいた。
作業机の隅に置く小さなゴミ箱を買ったら、そのゴミ箱がしゃべりだした。
いわく、あの、ゴミ箱だという。生まれ変わってこのサイズになった。君を覚えているよ、なんてリップサービスまでする。こちらはその存在以外てんで覚えていないし、もう夢を与える仕事は卒業したのだから少し楽にしたらどうか、と声をかける。するとゴミ箱の下のあたりがロウソクのようにゆるんで広がった。あぐらでもかいたらしい。
楽にしたらどうかとは言ったが、以来ゴミ箱のゆるみ方はなかなかのものだった。消しゴムのかすや不要になった付箋を入れれば、前はもっと良いものを抱えていたのに、なんてボヤきだす。
ゴミはゴミだろうと言っても、子どもたちは捨てたがらなかった大事なものだ、とか、自分と話したい子が持ってきた”お近づきのしるし”だと譲らない。
そんなに言うなら、と昔の恋人とお揃いだった指輪を渡した。もうつけることもないがそれなりの価値はあるだろうし、満足したのかフンと鼻(?)を鳴らして落ち着いた。
最近静かだなと机の隅に目をやると、ゴミ箱はしゃんと立っており、中は空だった。