個人の尊厳の歴史
あんたも尊厳死のニュースを見ていたりするかい?
あの類のニュースを見るたびに本当にいたたまれない思いが俺の中を駆け巡るわけだけれども、どこまで行ってもこの問題は明確な共通意識に至ることは出来ない問題だとも思う。
だって、それって「何のために生きるのか」ってヒトが生き物としてこの世に生まれてからずっと抱えてきている問題そのものだもんな。
今回は、この尊厳ってものの歴史を振り返ってみる回だ。
答えはではしないだろうけれど、歴史から学べることってあると思うもんな。
ちっと付き合ってくれよ。
個人の尊厳という言葉
そもそもこの「個人の尊厳」って言葉は何者なのか。
そっから調べてみることから始めてみよう。
個人の尊厳(こじんのそんげん)あるいは、個人の尊重(こじんのそんちょう)とは、すべての個人が互いを人間として尊重する法原理をいう
出典:Wikipedia
困ったときのWikipedia先生だ。
個人の尊厳というのは法律用語なんだね。
この表現で俺が最初に感じたことは「互いを」という単語が意味する内容だった。
つまり、俺たちの尊厳は俺たち単体では成立しない。
誰か相手がいて初めて成立するものだってことなんだね。
言い換えれば、俺の尊厳はあんたあってこそ成り立つってわけだ。
で、この個人の尊厳ってやつは歴史用語である市民革命が起きることで成立した比較的新しい法原理なんだそうだ。
ヒトという生き物が個人の尊厳を必要とした理由
市民革命以降にしか個人の尊厳という考え方がなかったわけだから、俺たちのご先祖様はこの個人の尊厳ってものを保証されていなかったってことだよな。
って言うか、ヒトという生き物が世界に生まれた後、大半の期間を俺たちは個人の尊厳なんてものを持たずに暮らしてきたってのが歴史らしい。
今となっては違和感がでっかいけれども、個人を尊重せずに組織を重んじる社会構造ってのは、歴史ものの物語とかを見ても、まあ本当なんだろうなぁと想像がつくところだよな。
じゃあ、なんで俺たちヒトは市民革命を経て個人の尊厳ってやつを手に入れる必要があったのかって話になるよな。
だってそれまではその考え方そのものが無かったんだぜ?
そこでまず思いが至るのが市民革命が起きた時期だ。
代表的な市民革命に挙げられるフランス革命。
この時期が1789年~1799年だ。
この時期、世界では何が起きていたのか。
産業革命だ。
産業革命が1760年~1830年にかけて起きている。
何がいいたいのかって?
産業革命によって、ヒトは大量のマンパワーを消費する目的を手に入れたってことだ。
産業革命により、ヒトは高度成長期のベースとなる大量生産という手段を手に入れた。
大量生産はマンパワーを突っ込んだだけ富を生み出せるっていう魔法のような手段だった。
そのためにヒトはヒトの生産性を最大化する必要があった。
何しろマンパワーに比例して儲かるわけだから、マンパワーの最大化ってのは避けて通ることの出来ない課題だったってわけだ。
マンパワーを最大化するために必要だったもの。
それが個人の尊厳ってわけだ。
ヒトの生産性は「あーしろこーしろ」と指示をされたときよりも、「ああかな?こうかな?」と自発的に動くほうが上がるってことは、資本主義と共産主義の対立が資本主義に軍配が上がったって歴史が証明している。
つまり、俺たちヒトは俺たちが効率的に働くために個人の尊厳って虚構を手に入れたってわけだ。
個人の尊厳がヒトにとって必要なくなる世界
なるほど、大量生産が俺たちヒトに個人の尊厳ってやつをもたらしたってのは筋が通りそうだよな。
だが待てよ?
それって今の時代を考えるとちっとおっかない結論に向かってかないか?
さっきも書いた通り大量生産は俺たちのマンパワーをインプットに成果を出す仕組だ。
ところが、現在の世界は大量生産による利益確保って産業構造は今の世界では通用していないよな。
インターネットの出現によって、俺たちのニーズは極限にまで細分化され続けている。
そのニーズに答えるためには大量生産ではなく細かなニーズに対応していくというどぶ板なやり方になりつつあるってのはあんたも感じているだろう?
そして、そのどぶ板な作業ってやつがAIとビッグデータの解析に依存する様になるってのはここ最近のニュースでさんざんパラ言われ続けていることだよな。
つまり、俺たちのニーズに対応するために俺たちのマンパワーが必要なくなった時、俺たちはヒトという生き物として個人の尊厳という考え方を必要なくなる事になっちまう。
生まれたときから個人の尊厳ってやつを刷り込まれている俺たちにとって、それは耐え難いことかもしれないが、ヒト全体で考えるとごく自然な流れの様にも感じる。
何しろ、いま一番経済的に勢いのある国は中華人民共和国という個人の尊厳ってやつをないがしろにする一党独裁の中で統制されているって事実があるもんな。
なあ、あんたはどう思う?
俺たちは俺たちの尊厳を保つ理由を見つけることが出来るだろうか?