見出し画像

信用から信頼への道

「お金ってのがヒトが唯一共有できた宗教だからさ」
「お金が宗教?石の貨幣の話?」
真人が問い返す。

「そうだなぁ。ニクソンショックって聞いたことあるか?」
斎藤くんが答える。
「金本位制をアメリカが辞めるって宣言でしたっけ」
博識だなぁ。
「御名答。
それによって、『貨幣』の意味が変わった。どう変わったのか。真人はどう思う?」

真人が首を傾げている間に圭子が答える。
「貨幣が無限に発行できる。つまりインフレが起きる」

ホント、真人の周りには良い仲間が集まってるよな。
「そう。ニクソンショックの時代には米ドルは既に基軸通貨になっていた。その基軸通貨が金本位制を辞めると宣言したわけだ」
真人が聞く。
「基軸通貨って?」
こういうことをまっすぐに聞けるのは真人の才能だな。
「真人の質問はもっともだ。
基軸通貨とはなにか。
シンプルに言えば、外国との金銭のやり取りをするときに使われる貨幣ってことだな」


貨幣という宗教

真人が言う。
「その基軸貨幣ってのが宗教とどう関わるのさ」
「金本位制が終わった瞬間、貨幣は純粋に『価値』だけの存在になった。
なにしろ金という限りある資源の上限に縛られなくなったわけだからな。
ならどうするか。
ヒトは貨幣を増やし続けた。
それを支えたものがなにか。
ヒトの『信用』だ。
つまり、貨幣に価値があるという宗教ってわけだ」

信頼

「つまり、ヒトがヒトを信用することで世界は回ってると」
真人がうまくまとめる。
「そういうことだな。で、そのからくりの中で仕事する。
これが意味することはなにか。
やっぱり『信用』がベースなんだが、仕事の場合はもう一つ段階を上がる必要がある。
『信頼』だ。
要するに『このヒトなら』って思うこと。思われること。
その思いに応えること。それが仕事だと俺は思うんだよ」

斎藤くんが言う。
「つまり、まず俺たちは『信頼』を勝ち取る必要がある。
そういうことですか」
「そう、社内外に関わらずにね」

「問題はその信頼をどうやって勝ち取るかか……」
「そうだね。こればっかりは俺も『実績を残す』くらいのことしか言えない」

圭子

「人脈……なのかな」
ボソリと圭子が言う。
ホント、地頭が良いな。この娘。
「そうかも知れないな。SNSだけのつながりじゃなくて、苦楽をともにしたような人脈。それは、そのヒトからの信頼だけじゃなくて、周りのヒトたちの信頼につながるってのは事実だ」

「つまり仕事を地道にやる……」
「まあ、そうなるな」

斎藤くんが言う。
「困ったな。今の自分には人脈なんて無い。PMOプロジェクトマネジメント支援の必要性を会社に説明するための言葉の重みが無い」

「無いわけじゃないだろ?」
斎藤くんが怪訝な表情を浮かべる。
「俺も真人も圭子もいるじゃないか。なんなら研究室の教授や同僚だっている。しかも、研究室のヒトたちは今も形式上は同じ所属だ」
斎藤くんは少し顔を上げる。

「今のうちに話せるヒトと話せるだけ話しておくんだな。斎藤くん。真人と圭子もだ」
「はい」
三人が声を合わせて言う。
「そこにも一人、話せるヒトがいるだろ?」
親指でママを指す。
「まあ、嬉しい。いつでもきてね」
「はい」
また、三人が声を合わせて言う。

「他にも今の仕事の仲間、学部時代の友人、今までお世話になった高校時代までの先生。思いつくだけのヒトと話すんだ。なんならSNSでつながったヒトと直接会って話すのも良い」

そして一つ付け加える。
「真人と圭子は話さないと出会わなかったんだから」
二人は目を合わせてはにかんだ。

「人脈は力だ。ヒトが協力によって生き延びてきた生き物な以上、これは事実といい切れる。
中には反りが合わないやつもいる。
それはいい。
お前らの『信頼』に値する仲間を増やすんだ」

そこで少し、俺はうなだれる。
「反りが合わない『信頼』出来るやつもいるけどな」

「そういうヒトと仕事するときはどうするんです?」
斎藤くんが聞いてきた。

「言い合いながら前に進むのさ」

#歌えないオッサンのバラッド



いいなと思ったら応援しよう!

この記事が参加している募集