見出し画像

二人

真人と圭子はうまくやっていけるんだろうか。
まあ、大丈夫だろう。
根拠なくそう考える。

でも、なんとなくだけれど、性格はぜんぜん違う気がするんだよなぁ。
なんで、くっついたんだろう?
まあ、本人たちが納得してりゃそれで良いんだけれどさ。

そこまで親が立ち入って良いもんでもないだろうし。

そうして、改めて思う。
そうか、俺には娘が出来たんだな。

香。
俺に新しい家族が出来たよ。
もしかしたら、もっと家族が増えるかもしれない。
不思議なもんだよな。
俺は何もしてないのに幸せが向こうからやってくる。

香。
お前にも味あわせてやりたかった。

そう思いながら、家にあるI.W.ハーパーを飲む。
バーボンだから甘いはずなのに、何故かこう感じた。

「苦げぇなぁ」


呼び出し

おれは苦い酒を飲みながら真人にLINEした。

「明日20時に葵に来れるか?圭子も一緒に」
数分経ってスタンプが返ってくる。
「了解」
調整早いな。

なんとなくだけれど、葵のいつメンどもに圭子を紹介したかった。
俺には家族がふえたんだぜ。すげーだろ。
とかガキっぽくね。

翌日。

いつも通りの日常が流れる。
クレーム処理。事務処理。企画の立案。スケジュールの調整。上司への報告。
ホント、いつも通りだ。泣けてくるぜ。

そんな日常をやっつけながら葵に向かう。
真人と圭子がいた。
それ以外にもタカ、トム、風間さん、ママがいる。
おおう、想像以上のフルメンバーだ。

「ああ、父さん。タカさんとトムさん、風間さんとずっと話してたよ」
ぶっちゃけ、真人にこんなコミュニケーション能力があるとは思ってなかった。
「おお、そうか。みんなの印象はどうだ?」
あえてのオープンクエスチョン。
「なんか、すごいね」
「タカ、トム、風間さん。あんたらすごいらしいぞ」
「あたりめぇだろ」
トムが答える。
「圭子はどう思った?」
圭子は少し考えて答える。
「自分の経験していない世界を教えてもらいました」
ううむ、何を話してたんだろう。

「タカ、妙なこと吹き込んでねぇだろうな」
「失敬な!拙僧清廉潔白な一般市民でござる」
「そのゴテゴテの一般市民アピールが必要なくらいの一般人ってこったな」

ママが声をかける。
「いつもので?」
「ああ、I.W.ハーパーダブルロックで」
「はい」
少ししてグラスが届く。
「おまちどう」
そこにいる全員とグラスを傾ける。
チンと甲高い音が鳴り響く。

ガッキー

カランコロン。
聞き慣れたドアベルが鳴る。
「うぃー疲れた」
半眼の状態のガッキーだった。

「おつかれ、ガッキー」
俺は声を掛ける。

「あれ?垣野先生?」
圭子が思わず声を出す。
「うん?え?圭子ちゃん?」
ガッキーが変な声を出す。

「ご無沙汰してます」
圭子が頭を垂れる。
「紹介するよ。息子の真人と娘になった圭子だ」
俺はそうガッキーに紹介する。

「む、娘?どゆこと?」
「真人と結婚したんだよ」
「な、なにおう!!」

「ま、真人。あんたの素性を教えなさいよ!」
急に詰め寄るガッキー。
「す、素性っすか。田中健一の息子で、IT会社勤務。好きなものはメロンパン」
メロンパンで大爆笑が起きた。
「それなら、メロンパン用意しておくわね」
ママが言う。

「うん、メロンパンが好きなら良し。許す」
ガッキーおめぇはどう言う立場なんだ。

「二人の生活はどうなんだ?うまく行ってるか?」
真人と圭子に問う。
「大丈夫だよ」
真人が答える。
「圭子も大丈夫か?」
「大丈夫。幸せです」
「ならいい」

タカがツッコミでくる。
「親父風ふかせるねぇ」
「だって親父だもんよ」

トムもツッコミでくる。
「親父も大変だねぇ」
「あんたも親父だろうよ」

風間さんもツッコミでくる。
「真人くんうちで働く?」
「だからもう働いてるっつーの」

ママもツッコミ。
「次もI.W.ハーパーで良い?真人くん」
「もう何杯目なんだよ真人」

……ママのはツッコミじゃないか。

まあ、あれだ。
幸せってこういうことなんだろうな。

#歌えないオッサンのバラッド

いいなと思ったら応援しよう!

この記事が参加している募集