
笑うという救い
カランコロン
また誰かが来たみたいだ。
「おう、なんか総揃いだな」
そう言いながらタカが入ってきた。
「ガッキーとかいないけどな」
俺はなんとなく答える。
「で、オッサンどもが雁首揃えて悪巧みってか」
まったく、探偵やら警察やらという輩は感が鋭くて厄介だな。
「まあ、リサがいるから悪巧みにちょっとスパイスが絡んでる感じかな」
ってか、リサも含めて先読みが尖すぎるんだよ。マジで。
マジでチェスで読み合いをしている気分になることもある。
だから楽しいんだけれどさ」
「あら、私は?」
ママが言ってくる。
「ママには頭が上がらないのは大前提さ」
俺はそう答えた。
事実、ママの時折発する言葉ってのは現実的なヒントになってるからな。
「はい、ご注文は?」
タカが答える。
「そうだなぁ。今日はワインもらうかな」
「ワインなんて味わかるのかよ?」
意地悪く俺が言う。
「俺にワイン語らせたら長いよ?」
俺は両手を上げて降参する。
「ワインでうんちく言われても全くなんも答えられないよ」
「なんつって、俺もよくわかんないんだけどさ」
タカが無邪気な表情を浮かべる。
ママが微笑みながら言う。
「ボルドーの2023年ものがあるからそれにしますね」
タカが言う。
「若いな」
「あら、2023年のボルドーは当たり年なのよ」
「おうおう、ならそれを」
何がワインを語らせたら長いんだ。
そう思いながらタカをジト目で見る。
タカはプイと目線をそらした。
リサ
「で、リサと風間さんが揃ってるってことは、仕事がらみの話をしてたんかな?」
タカそう訪ねてきた。
まあ流石は探偵。目端が利くもんだ。
「まあ、そんなところです」
リサが答えた。
すげぇな。話をいなすことも出来んのか。
まだ20代なかばってところだろ?
俺に出来たか?
デキッコナイスなわけだ。
タカはその辺りも感じたんだろう。
「大変だな」
そう応えた。
そのやり取りをトールは複雑な表情で眺めていた。
まあ、そうなるわな。
「まあ、そういう時はスコーンと日常を忘れて飲んじまうこったな」
タカらしくリサを慰める。たぶんトールにも同時にと思ってるんだろう。
タカにしてもトムにしてもトールにしても読みが早えんだよ。マジで。
「最近マンガとかアニメとか見てるか?」
タカがリサに問いかける。
「割と見てますよ。葬送のフリーレンとか」
「おお、王道を抑えているねぇ」
俺自身はよく分かってないが王道らしい。
「古いのだと?」
タカがズイと詰め寄る。
「ええと、プリキュアとか?」
俺は見たこと無いんだけれど、あれだよな。セーラームーンの類だよな。
女の子が殴る蹴るで悪者を退治する的な。
なに?違う?
しょうがないだろ。こちとらロードス島戦記のディードリットで感覚がとまってんだから。
「マンガ、アニメ以外なら?」
タカが踏み込む。
「ええと、踊る大捜査線とか……あ、最近366日見に行きましたね」
多分、踊る大捜査線は親に連れて行かれたパターンだな。
366日ってのはなんだ?知らねぇな。
俺は反応する。
「俺の世代だとスター・ウォーズだからなぁ」
トールが答える。
「自分の時は世界の中心で、愛をさけぶだったかなぁ」
リサは言う。
「あ、セカチュウは名前は聞いたことあります」
時代は流れてるねぇ。
今や、長澤まさみは大女優だもんな。
「田中さん、追いつけてないだろ?」
「失敬な。セカチュウくらいはわかるわ」
「366日はわからんでしょ」
「ぐぬぬ」
まあ、わからんのは事実だ。
「はい、わかりません」
「素直でよろしい」
何だこのやり取り。
ってかタカよ。お前は分かってんのか?
「おめぇはわかるのかよ?」
タカに言う。
「俺?分かるわけねぇじゃん」
それで大笑いした。
つられてトールもリサも笑う。
笑うってのは良いもんだ。
いろんなものを洗い流してくれる。
泣くこともそうだけれど、どうせなら笑って洗い流したいもんだよな。
大笑いしながら、その日は終えた。