【すっぱいチェリーたち🍒】スピンオフ田中健一編#25
あんたも誰かの企画に乗っかって何か書くことってあるかい?
今回もこの企画に乗っかってみようかね。
企画ページ本体はこっち。
前回のはコレ。
スナック葵での息子と親父の友人たちのやり取りの話だ。
で俺の持ちキャラはこいつ。
CV:大塚明夫を想像しながら読むと腹がよじれると評判w
今回のは息子と友人を交えた親子の物語だ。
ちなみに真人はCV梶裕貴(進撃の巨人のエレン役)で想像してくれ。
葵での交流2
涙もろいのをごまかすように俺は真人に聞いた。
「で、来年就職したらどうすんだ?」
あえてオープンクエスチョンで聞いてみる。
「どうするって?」
案の定曖昧な質問には曖昧な回答が返ってくる。
そらそうだ。俺がそういう様に育ててきたんだから。
「彼女と同棲でも始めるのか?」
あえて局所的な話題に振ってみる。
「……正直迷ってる」
真人と俺の一番の違いはここだと思う。
真っ直ぐすぎる。
もちろん社会に揉まれれば多少曲がることはあるとは思う。
だけど、性根の部分で俺には無い「芯」みたいなものがある気がする。
母親の言葉なんて聞くこともなく育ったのにな。
親子ってのは似るもんだ。
「何に迷ってるんだ?」
若者の多くが迷うことについて問うてみる。
「俺があいつを幸せに出来るのか。
客観的に見て、今の俺にはその力はない。
就職しても当分はその力はもてないかもしれない」
自分を客観視しようとして自分にキャップをはめちまうか。
これは俺の責任だろうなぁ。
「ねぇ、力ってなに?」
ガッキーが割り込んでくる。
「経済力とか、包容力だとか、理解力だとか……
すみませんうまく言葉に出来ないです。ガッキー」
「ふぅん。それで相手の彼女はどう思っているの?」
ガッキーが核心をついてくる。
「それは……」
「わからないのね」
「……はい」
そこでタカが更に加える。
「で、真人はどうしたいんだ?」
はたとタカを見上げる真人。
ちと真人には厳しい質問かもしれんと思いながら真人を見る。
「お、俺は……」
数十秒の沈黙の時間が流れる。
実に長い数十秒が。
「俺は……彼女と一緒にいたい!」
絞り出すように真人が答える。
「なら話は簡単だ。なあ、田中さん」
まあ、そうだよな。
俺はスマホを取り出し操作を始める。
「今、200万お前の口座に振り込んだ。
明日付でお前が自由に使える金だ」
「な、なんで?」
まあ、説明はいるよな。
「その金をどう使うかはお前たちが考えろ。
彼女と一緒にいる。
その目的のためにどうするのか。
二人の住まいの一時金に使うか。
その残りを日々の二人の生活の補填に使うか。
いいか?
二人で考えろ」
真人が少しうなだれたようになる。
まあ、いきなり社会の重圧をのしかけられたらそうもなるわな。
「俺は……俺は……」
真人は必死に考えている。
ありえるのか?そんな未来がって感じだ。
「だから言ってるだろ『二人』で考えろって」
真人ははっと顔を上げる。
「父さん……先に帰ってるよ」
「わかった」
真人は席を立つとカランコロンという音と共に葵を後にした。
「ちっと厳しすぎたかね」
タカが言ってくる。
「いや、俺も思ってたことだ。叱り役引き受けてもらって悪かったな。
ガッキーも」
俺は二人に礼を言った。
「若いってのは良いねぇ。で、田中さんよ。
その『彼女』ってのはあったことあるのかい?」
「いや、ないな」
「かぁ~!とんだダメ親父だな」
「親父なんてのはそんなもんだろ」
言い訳がましく俺は言った。
「ねぇ。田中さん。
文化祭の演劇見たんでしょ?」
ガッキーが尋ねる。
「見たよ。さっきも話した通り良い演劇だったと思ったよ」
「こうありたかったんだよ」
なんだ?ああ、あの演劇の鎧兜のセリフか。
「真人くんがどうありたいか。田中さんがどうありたいか。
そしてその彼女さんがどうありたいか。
そういうことなんでしょうね。今という時間は」
なるほどなぁ。
そう思いながら、おれはオッサンの得意技を使う。
「ま、なんとかなるさ」
そうつぶやいた。
グラス越しに真人が座っていた空席にもうこの世にはいない「あいつ」の幻を見たような気がした。
幻に問いかけるようにぼそっとつぶやく。
「そう、にらむなよ。真人ももう大人なんだ」
そう言って残りのI.W.ハーパーを飲み干した。
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