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仲間探し

「黒字化は再来年当たりって感じか……」
「まあ、少人数、つまり俺と健一だけで始めれば来年黒字化で御の字かな」
トールがそうつぶやく。

「ただ、単純に食っていくだけなら今の会社を続ければいいだけだ。違うか?」
「違わねぇな」
俺は素直に言う。
「どうせならおもしれーことやってかないとな」

ふと思ってトールに聞く。
「トールのおもしれーことって何だ?」
「弱いヒトとともにあること」
即答しやがった。

「なんで?」
「そうだなぁ。俺自身が弱者だったからってことかもしれない」

トールが弱者?
にわかには信じられなかった。

「俺はトールが泣いてるとことか見たこと無いぞ」
「それこそ、俺が弱者である証明さ。弱者は弱いことをさらす勇気がない」

トールは続ける。
「そういう弱さをさらせないヒトは世の中に五万といるはずだ。俺が言うんだからまちがいない。俺は彼ら彼女らの力になりたい」

ニンマリと笑うトール。

「考えても見ろよ。弱い奴らが飛び立つ瞬間を」

想像してみる。
自分に価値がないと思っている奴らが自分の力を解き放つ姿を。

「おもしれーな」
「だろ?」
「つまりは、そういう弱者の弱音を聞いた上で、飛び立つ手伝いをする仕事ってわけか」

トム

カランコロン
いつものドアベルが鳴る。

トムが入ってきた。
「うぃーす。って最近良くつるんでるなお二人さん」
「なに、相思相愛なのさ」
冗談めかして俺は答える。
「何だ?なんかおっぱじめる悪巧みか?」

トムは自分の仕事のことは話さないくせに、他人の仕事には敏感だ。

「まあね。今、どうやったら俺たちが正義の味方になれるか作戦練ってるとこ」
冗談めかして言い返してやる。

「そいつは聞き捨てならねぇな」
ニヤリと笑った後に、急に真面目な表情になる。

「正義は力が必要なんだぜ。そして力ってのは誰かを傷つけるってことだ」

トムがこの手の話をするときの凄みは尋常じゃない。
修羅場をいくつも超えてきたことをそのオーラが証明している。

俺はただ答える。
「俺たちが救える範囲から始めるさ」

トール

続けてトールも答える。
「俺たちに何ができるのか。俺たちの力とは何なのか。
そして俺たちの力は誰かを傷つけるものなのか。
それを見極めようとしてます」

やっぱ、俺じゃなくトールがトップにいるべきだ。
それを確信させる言葉だと思った。

その言葉を聞いてトムが答える。

「風間さんにそう言われちゃぁ、なんも言い返せないわ」
そう言って破顔する。

トムも俺と同意見ってことかな。
トールのカリスマ性は群を抜いている。
まあ、だからこそ俺もこの話を切り出したわけだしな。

軽く問うてみる。

「トムもまざるか?」

トム

「いや、遠慮しとくよ。これでも公務員だからな」
まあ、そう返してくるとは思ってたから驚きはない。
「ヒトの救い方はそれぞれか」
俺はそう答える。

トールは一瞬戸惑った後で答えた。

「今の仕事は常に『手遅れ』の仕事ってことですか」
トムは少し驚いた表情で俺を見る。
自分が警察関係者だって見抜かれた驚きだと思った。
俺も直接はトムから聞いてはないんだが、そうは思ってた。

「田中さん、あんたのパートナー選びは大成功みたいだな」
俺はニヤリと返す。

「そんなのトムには分かってたことだろ?」
トムは苦笑いを浮かべた。

我が家

俺はトールの事業計画書を持ち帰って家で読み始めた。

良く出来ている。
それが率直な印象だった。
ただ、これを実現するにはヒトが必要なのは明確だった。

斎藤くんが協力してくれたとしても、実働するやつがもう一人は必要な感じだ。
渡辺か?
いや、やつはまだ伝えられた資料に対してプログラミングすることしか教えてない。即戦力になるためには今の環境で経験を積む必要がある。

……何度か一緒に仕事をした協力会社の巴さんか。
俺が知る限り、今回の計画に最適な人物ではある。
問題は優秀すぎて、今の会社が逃さないだろうということだな。

となると現実的には俺とトールの二人で始めることになる。
さてはて、どうやって仕事を取ってくればいいものやら。
今の俺の会社から仕事を取る。
トールの今の会社から仕事を取る。
仁義的に難しい感じがするな。

俺は眠れない夜を楽しんでいた。
こんなに楽しいことあるか?

#歌えないオッサンのバラッド


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