
ヒトを見る
翌日の20時。
カランコロンといういつものドアベルが鳴り響く。
「おおう、全員揃ってるな。ってかトムもガッキーもいるじゃん」
「なんだよ、俺は珍獣扱いか?」
「ケリがついたの?」
「まあな」
まあ、オモロイかもしらん。
「さて、今日およびだてした若者諸君。
一つ遊びをやってみようと思ったんだよ」
「遊び?」
真人が素っ頓狂な声を出す。
「そう遊び。今日はチーム分けをしてディベート合戦をしまーす」
若者とトムとガッキーにはてなマークが飛び交う。
ガッキーが聞く。
「どゆこと?」
「あるお題について、予想をチームごとにして、それを発表しあった上で、相手のチームの意見を踏まえて最終結論をチームごとに出すって遊び」
トムが言う。
「そんなん勝ち負け付けられんだろ」
「そう、だからこの遊びには勝敗はなし。単純に誰がどんな事を考えているか。その考えていることを知った時に自分の考えがどうなるかを体験する遊びってわけ」
「なるほど。思考の深化ってわけっすね」
斎藤くんが言った。
なんつーか言語化の天才だな。
ゲーム説明
「さて、まずはチーム分けだけれど、タカ、トム、三田さん、ガッキー、啓二、龍馬、真人、圭子、斎藤くんか。あ、あと俺か」
若者対大人って構図もオモロイかもしらんが、混ぜたほうがよりオモロイかもしらん。
「よ~し。まずはドラフト会議だ。監督はそうだなぁ。三田さんと斎藤くんで指名をし合ってじゃんけんでメンバーを決めるか」
「なんか本格的っすね」
斎藤くんが言う。
「本気のほうがオモロイだろ?」
「たしかに」
「まず指名者をそこにおいてあるメモに書いて、せーので出す。
かち合った場合はじゃんけんでどちらに行くか決める。
今日は10人いるから、片方が5人になった時点でドラフト会議終了だ」
「なんか、余り物になる気がする……」
真人が言った。
「なに、余り物にこそ、この遊びの本質があるのさ」
「どゆこと?」
「このメンバー選びにはヒトを見定める力ってのが出てくる。
それが正しいのかどうなのかは、チーム内でのディスカッションで明らかになる。
しかもお題によって、その思考の方向性が見える。
言い換えれば人間性が見えてくる。
思考の方向性って言ったほうが良いかな。
ファーストインプレッションと実際に言葉をかわした後のインプレッションの違いってのが、より深く相手のことを理解できる。
オモロイじゃん」
「なるほど。面白い」
斎藤くんが言った。
ドラフト会議
「さて俺を含めて、第一回指名選手投票と行こうか」
三田さんと斎藤くんがメモに名前を書く。
「書き終わったかな?では発表してください」
出てきたメモを見る。
両方とも「圭子」と書いてある。
おう、いきなりかち合った。
「え、私?」
三田さんが言う。
「たぶん、この中で一番柔軟性を持って考えられるのは圭子さんだと思ったからね」
斎藤くんが言う。
「完全に同じ理由。思考の柔軟性が群を抜いている」
トムが言う。
「柔軟性か。そりゃかなわんわ」
俺が言う。
「ではじゃんけんで」
結果、圭子は斎藤くんチームに行った。
三田さんは「いてーなぁ」とつぶやく。
こらこら、俺は置いてきぼりか。
ってか勝ち負け無い遊びだつってんだろ。
で、次の指名。
斎藤くんと三田さんがコリコリ書く。
斎藤くんがガッキー、三田さんは真人を指名した。
真人が少し狼狽する。
「え、俺?」
三田さんが応える。
「若者の声を聞けるのは俺たちには貴重なのさ」
そんな風にチーム分けをしていって、結果としてはこうなった。
チーム三田
・真人
・トム
・俺
・龍馬
・三田さん
チーム斎藤
・圭子
・タカ
・啓二
・ガッキー
・斎藤くん
いい感じにバラけたな。
「さて、チーム分けが終わったので、チーム内でのディスカッションに入るわけですが、公平を期すためにお題はママに決めてもらいます」
「ええ!?」
ママが素っ頓狂な声を出す。
「ん~……じゃあ、日本の未婚カップルの数」
めちゃくちゃ難易度高いやつが来た。
「最初のチームディスカッションは10分な」
そう言って俺は持ち込んできたストップウォッチを開始した。