おニャン子ファンも必聴! 激レア! 山川恵津子『編曲の美学』ディスクユニオン先着特典CDRの楽曲解説を公開!
80年代アイドルソング制作の思い出とともに、現在も良質なアイドルソングを手がけるサウンドプロデューサー山川恵津子が、自身の音楽観やこれまでの歩みを綴った初の著書『編曲の美学 アレンジャー山川恵津子とアイドルソングの時代』(2024年5月17日発売)刊行記念して、ディスクユニオンの購入者特典CDRに収録されたDEMO音源の解説を、原曲とともに公開します。※特典は無くなり次第終了となります。
山川恵津子による楽曲解説
1 漕ぎ出せ♪ショコラティエ~これって恋ですか?~(DEMO)
作詞:新妻由佳子・高柳景多 作編曲:山川恵津子 トラックメイキング、ボーカル:山川恵津子 ※2021年SNSを中心に話題となり、2023年にEPリリースもされた名曲。貴重な 山川恵津子によるガイドボーカル(仮歌)デモ。
SAKUraのVocal Recordingに向けての仮歌(ガイドヴォーカル)を入れたデモ音源。
これを聴いて覚えてもらい本人の歌をレコーディングする。間奏のラップ箇所はこのデモの後に作って頂き、そのサイズも想定して作っている。作詞の新妻由佳子さんには寝耳に水のラップの提案。この段階では、インストとなっているのでバックグラウンドのトラックが聴きやすいだろう。
Aパートで音程を決めかねている箇所あり。「宇治で」の「う」と「じ」を同じ音にした方が簡単かも?と試行錯誤の道中で本番では音程を変えた。
間奏を抜けてハーフの「食べたいな」の部分、このデモ出しのタイミングで「たいな・たいな・たいな」の繰り返しを捻り出す。本人が三連を歌えるか懸念もありつつのトライだったが、結果この箇所が楽曲をワンランク アップさせたかもしれない。
原曲はこちら
2 永遠の楽園(DEMO)
作詞:恒石美幸 作曲:平井夏美 編曲:山川恵津子 トラックメイキング 、ボーカル:山川恵津子 ※ 平井夏美(川原伸司)とのコンビによる楽曲。明治大学の阿久悠作詞賞大賞の歌詞を曲にした合唱曲。初発音源化。
日頃のポップスとは異なりクラシカルな合唱の作品デモ。ピアノ一本の伴奏と混声四部合唱で全体を決めなくてはならないシンプルな編成の難しさがここにある。
歌い方は私が幼い頃より慣れ親しみ練習を積み重ねて来たクラシックの発声法にほぼ近いのでもう一人の山川を聴くこともできるかと思う。別キャラで歌っているわけだ。
4声だからそれぞれのパートを一回ずつ歌ってもデモになるといえばそうだが、聴く生徒さん(合唱団)にはより本物の合唱をイメージしていただきたいので各パートは2~3程度ダビングしている。一般のリズムがあり、いろいろなウワモノを鳴らせる編成とは異なり、声のハーモニーとピアノだけで変化を付けなくてはならず、難しさのポイントが日頃のポップスとは異なってくる。
ダイナミクスも ビートのあるものと違い、表情をより多く大袈裟につける方がメリハリが出るというものだ。一人淡々と合唱団員になりきり、至って真面目に歌を録っていくわけだが、どうしても「ヨルタモリ」の合唱コンクールのおかしさが心のうちに滲み出てきてしまう。なりきるのは大切だ!こういうデモ制作でも密かにユーモアを忘れない私。
3 アンブレラ・エンジェル(DEMO)作編曲:山川恵津子 トラックメイキング 、ボーカル:山川恵津子 ※ おニャン子クラブ『夢カタログ』収録の名曲。貴重な仮歌ヴァージョン。
マニピュレーターを務めた森達彦さん所有のカセットからのもので、フリューゲルホルンのダビング前にスタジオで仮歌を録音した音源。
従ってイントロや間奏はリードがない状態。おニャン子は複数のボーカルで楽曲ごとに歌い分けがなされ、誰がメインになるかはこの時点ではまだ明確ではなかったはずだが、ソロ曲とは違い複数人の歌い分けを考えた曲の作り方である。
作詞の秋元康さんがこのDEMOを聴いて歌詞を書くわけだが、聴いてすぐにここは別の人がリード、ここは追っかけ、ここは交互に、などわかりやすく、仮歌も複数のチャンネルを使って録音している。曲を作る段階で振り分けを考えて作るのがソロ曲との大きな違いだ。このように歌詞がまだない段階でも仮歌は必須で、作詞家への発注用でもあり、トラック を作っていく上でなくてはならない重要な道標である。
曲先のときはこのように「ラララ」で歌うことがほとんどで、アイドルものは殊更明るい雰囲気の仮歌を求められる。発声が明るい「ラ」は最適だ。しかし、この「ラララ」だけの言葉の中にも作曲家の意図はあり、そこにまだ意味のある言葉がなくても作詞家に伝えたい想いが必ずあるのだ。それを単調な「ラララ」でも表情をつけて歌うのが仮歌の役目でもある。
この当時はチャンネル数に限りがあり、おニャン子クラブのような団体戦ともなるとボーカルチャンネルの確保を余儀なく言い渡され、オケを録っていく上でも計画性が必要。ソロ曲ではない場合、歌入れ時には最低でも6~8トラック程度空けておく必要があり、その辺の苦労にも初めて遭遇したレコーディング プロジェクトがおニャン子クラブだ。ディレクターの渡辺博氏も毎回やりくりに苦労しており、アレンジャーとマニピュレーターとエンジニアとで綿密に計画を立てながらのトラックの纏め様は芸術的。
原曲はこちら
《書誌情報》
『編曲の美学 アレンジャー山川恵津子とアイドルソングの時代』
山川恵津子 著
四六・並製・272ページ
ISBN: 978-4-86647-217-1
本体2,500円+税
https://diskunion.net/portal/ct/detail/DUBK374
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