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あるがままを受け入れ、楽しむということ (徳島宿プロジェクト)

猛暑日が続く中、改装の細部打合せや、役所への申請などの用事をこなすため、昨日までエアコンも無い鳴門の倉庫に滞在していました。

奥さんも誕生日と言うことで鳴門で美味しいものでも食べようと同行することに。暑さで音を上げるかなと思いきや、まんざらでも無い様子。どちらかというとバテていたのは私の方でした。普段から彼女は「あるがままを受け入れ、楽しむ。」のがモットーと公言しているだけあって、この無謀とも言える状況の中でも、それを面白がる姿は、ほんと素晴らしいなあと感服しました。

宿予定地の倉庫

せっかく海にいるのだから波があろうが無かろうが、暑いときは海に飛び込むのが一番。まさに天然の水風呂でもあり、何よりただ波に身を任せて揺られていると、海と一体になった気がして最高に心地いい。いつもはサーフィンを楽しむことが目的の海だけど、ただ浸かり「何もしない」というのも贅沢なものですね。宿プロジェクトを進める上での大きなヒントにもなりました。

暑いときは海に浸かるに限る

確かに倉庫にいると暑いんだけれど、海に面しているせいか、通り抜けていく風だけは涼を感じさせてくれる。倉庫には大きな屋根がついた吹き抜けの作業場があり、この大きな日陰にラクチンなソファーを持ち出すことで、快適とまではいかないが、耐えられないこともない。いよいよ耐えられなくなると裸になって作業場のホースで水を浴びれば、気分は爽快。毎日、何回水浴びをしたことか・・・。
そんな暑さのやり過ごし方も悪くはないなと思えるようになりました。

あらゆるところを開けて、風を取り入れ暑さを凌ぐ

ここまで倉庫での滞在に拘るのは、ここにいることでしか見えてこない宿の有り様がいっぱいあるような気がするから。いろんな季節や天候、1日の時間の中で、ここを訪ねる旅人たちが何を感じ、どう思うのか、その感覚を身をもって体験しておくことは、宿づくりを進める上でとても大切なことなんじゃないかと思っています


猛暑の中、同行してくれた奥さんに誕生日に何が食べたい?と聞くと、お肉を食べたいというので、県外客にも人気が高いと噂の老舗ステーキハウスを予約することに。電話を入れるとオーナーらしきお父さんが応対してくれたのだが、耳が遠いせいか復唱する度に違う電話番号を言ってくる。老夫婦で営む店とは聞いていたが、この店、ほんとに大丈夫なんだろうかと心配になった。

鳴門という場所は、昭和の中頃まで塩業で栄華を極めた場所。花街として栄えた撫養には料亭や置屋が建ち並び、大勢の芸者さんもいたという。そんな土地柄のせいか、一見寂れたように見える街中に有名人がお忍びで通うという、老舗の寿司屋やステーキハウスといったお店がチラホラと隠れているようだ。

撫養芸者総見(戦前の写真)

私たちが訪ねたステーキハウスもそんな1軒なのだが、着いてみてその外観に少し腰が引ける思いがした。建物は随分年季が入っており、本当に営業しているの?といった感じ。恐る恐る階段を上ると、鉄板が張り巡らされた長いカウンターにすでに2組のお客さん。肉の焼ける心地よい音が聞こえてきて、とても美味しそうな匂いが漂ってくる。こちらへどうぞと指差された場所には、すでに2人分のお箸やお皿がセットされており、これはもう身を任せるしか無いと腹をくくることにした。

老夫婦が営む「ステーキハウス さち」

まずは、少し腰の曲がった年配のお母さんがおしぼりとメニューを持って登場。「ほんと暑かったな〜今日は・・・」と居酒屋の女将のようなトーク。渡されたメニューを開くと、ひれステーキコース1択のみ、6500円〜とだけ表記されている。飲み物はどうしますと聞かれ、とりあえずビールを注文する。

入れ替わりで、エプロン姿のこれまた初老の従業員がやってきて、無言で野菜を炒め始める。キャベツに人参・タマネギ、2人分とはいえ結構な量の野菜・・・。

そこにいよいよ電話対応してくれたオーナーのお父さんが肉の塊を手に登場。
「うちはA5ランクの最高級ヒレのみ、間違いないで、見てみコレ、最高や!」
と肉の塊を差し出す。確かに最高に美味そうだ。
「今日の肉は7000円、それでええか? 200gやし女性でもペロッといけるわ。
 こんなん神戸で食べたら、倍ぐらいの値段するで〜。」

ステーキを焼くお父さん

この半ば強引なトークに引く人もいるかもしれないが、ご夫婦ともに妙な気取りもまったく無いし、見る限り肉は確かに一級品、もうこれは奥さんのモットーじゃないが「あるがままを受け入れ、楽しむしかない」そんな気持ちになっていた。

実際、いただいてみると想像を越える旨さ、焼きすぎないよう食パンの上に焼いた肉を置いてくれるのだが、肉を食べ終わると小さな器にカレーが登場。肉汁を吸って程よくトーストされたパンをカレーにくぐらせて頂く。これもなかなか美味しかったな。

カッコばかりで気分を味わうという今時の風潮の中で、本物とは何か、何が大切で本質なのかを教えてもらったような気がした。しかし、鳴門のポテンシャルは恐るべしです。

お父さんのお店のような長く人々に愛される、知る人ぞ知る名店・・・。
私が作っている宿も、そんな場所になれたらいいな〜。

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