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服を語りたい 1.

「アズディン・アライアのプレタポルテ」

ちょっと、服について語りたい。
天才たちの作った服。
有名無名に関わらず、それらの服を読み解いて、そこに込められた、美意識や、ユーモアや、知性や、意思や、解釈や、技巧を愉しみたい。
目は口程にものを言う。服は口以上にものを言う。
おしゃべりな奴も、無口な奴もいるけれども、それらとの会話を、折角なので記録していく。

小説にせよ、ゲームにせよ、新しいものは絶え間なく生まれ続けるのに、僕たちがそれを楽しむ時間は目減りの一途。
それらひとつひとつと向き合う時間が減り続け、咀嚼し切らないうちに飲み込んでは次が運ばれてきて、もうお腹いっぱい。
たまには1つとじっくり向き合ってみます。
そしてどうせ時間を割くのであれば、それは美味しい/面白い奴がいいもんね。

今回はアズディン・アライアのスカート。

ファッションスクールで1年生が最初に習うアイテム、セミタイトスカートです。
そう、一番初めに習うアイテムってスカートなんです。
構造と縫製がシンプルなので。
ウエストとヒップの基準値を覚えて、ウエストラインとヒップラインの距離を覚えて、「ダーツ」と言う概念を覚えて。懐かしく思う方も多いのかな。

こんなところで教室紛いのことをする気もできる技量も経験値も実力も無いけど、「ダーツ」というのは洋服のシェイプを司る、最も基礎的にして最も重要な技術。
これの応用で、「タック」があったり、ダーツをシームに忍び込ませたり。
洋服と名のつくものであれば、ほぼ全ての個体に使われてる概念。
初歩にして奥儀。(大袈裟か。)
これを誰よりも深い造詣で、誰よりも高い次元で扱っていたのが
「アズディン・アライア」です。

僕もファッションが好きなので、色んなデザイナーを知っています。
けれどこの人は別格。本当に別格。神。
先ず第一に、膝丈のセミタイトスカート(最初に習うやつ)って本当にデザインが難しいんですよ。何も知らない一年生時代に拙い学び方で覚えるからって言うのは勿論あるけど、それにしてもキャンバスが狭い。他アイテムに比べて自由度が低いんです。そして蛇足ながら補足すると、ここでの「デザインが難しい」と言うのは「良いデザインが」難しいんです。
それなのにこの人のスカートときたらもう。
各ダーツの位置、方向、効果、シームのラインデザイン、そしてそれらに潜ませるフィット&フレア。この全てが常人には辿り着けない程に斬新で、それでいて論理的なんですよね。それがデザインである以上、論理的であることはとても大切。
この人は彫刻も学んでいらしたそうです。納得。

僕は今スカートを3つ、レザーのジャケットを1つ持っているんですが、この中から、このグレーのスカートを例にあげます。
生地はW100%のウールフラノです。

フロント、左サイド、バックの順です。

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いかがでしょうか。
はい。
全く分かりませんよね。折角のシームが見づらいし、スカートなんかどの方向から見ても一緒やないかい。

見易くします。
オーラは見えづらくなっちゃうけど、構造はこっちの方が分かりやすいですね。

アートボード 1-100

アートボード 1

アートボード 1

これで一見では補足し切れない無数のロジカルシームが浮き彫りに。
こうして見るとやはり本当に秀逸なカットです。
この個体ではダーツを全てシームの中に隠し込んでいますね。
スカートに限った話では無いのですが、製図にはある程度簡単なセオリーが有ります。それらを破壊してるのに踏襲してる。意味分かんないけどそうとしか言いようが無い。

CBシーム&ヒップヨーク&ヒップシームでクセ取り。
サイドのジッパーはヒップシームに隠して、脇シームは排除。
フロントに入る、ダーツになるはずだったものを直角に曲げて側面経由でバックまで延長。(ここで排除した脇シームの代わりにクセ取り)
それを裾上数センチでタックに変化させて部分的にフレアー。
さて、こんなにコンパクトなルックスながらもマーメイドスカートの風格に。

これだけ布をラインで埋め尽くしているのにくどさは皆無。
それどころかミニマルにすら見える最高のデザイン。
永遠の名を冠するに相応しい服。
少なくとも人間の形状が変わるまでは色褪せることのない、人体そのものに対するアンサー。

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ボディコンシャスの生みの親と度々称される彼。
近代日本において最も裕福であったジャパニーズバブルを席巻するだけのクオリティです。
この後の景気の後退に伴って、退廃的で内向的なセンシティヴなデザイナーズシーンが一世を風靡していくのですが、それはまた別項で書きます。その時代はお好きな方多いんじゃないでしょうか。
そうしたパーソナルな部分を使わずに、偏に彫刻的にのみ仕立てられたこのテイストが僕は好きです。ミュグレーやモンタナ、ベレッタなどが好きなのも同じ理由。

今日はこんなところで。
アライアはまだあるのでまた書きます。
お読みくださりありがとうございました。

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