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寄り添って産後 産後ケア施設の価値

 日本で産後ケア施設が人口に膾炙するようになったのはいつ頃だろうか。コロナが流行する前から少しずつ認知されていたようだが、感染症の流行で集団生活が倦厭された時期も長く、最近になってようやく周知されてきた感がある。
 海外に目を移してみると、中国、台湾、韓国で行われる産後ケアの文化は「坐月子(ズオユエズ)」と呼ばれ、市井に広く普及している。遡れば宋の時代に「坐月子」の記述があり、「緊張したり憂鬱になったり泣いてはいけない」「重い物を持ったり力仕事をしてはいけない」などと産後の禁忌項目が記載されているようである。

 参考として台湾のコロナ流行前の統計を見てみると、2018年には出生数181,601人に対し、施設利用者は102,896人と、多胎児出産の人がいることを踏まえても、約半数の産婦が産後ケア施設を利用していることが分かる。伝統的な坐月子の期間はひと月であるが、施設は高額なこともあり、平均滞在日数は20日程度らしい。
 翻って、我が国では産後ケアの文化は確立されておらず、核家族が一般的となった現代において、産後ケアどころか多くの負担が母親にのしかかっている。生後1か月に満たない赤子を見ながら、掃除、洗濯、炊事まで強いられる母親も多い。

 今回、僕は鴛鴦の契りを結んだ妻に付き添い、葉山のマームガーデンという産後ケア施設で10日間過ごす機会を得て、そのありがたみを深く実感することができた。妻の体力回復に寄与することはもちろんのこと、助産師さんに助けを求めながら育児に慣れていくことができ、自宅へ帰った後の育児の助走として素晴らしい環境だったと思う。今後出産を控えるご家庭に是非ともに勧めたいという思いで、以下詳細を書いていきたいと思う。

 妊婦生活も半ばに差し掛かった頃、
「産後ケア施設に入るのどうかな、葉山にいいところがあるらしい」と妻から打診があった。産後ケア施設は東京周辺にいくつかあるが、施設によって必要な持ち物が違ったり、夜間の預かりの可否もある。また東京都在住の場合は区によって助成金を使えるなどの違いがあるのだが、僕は当時産後ケア施設について全くの無知だったので、とりあえず施設を見学することにした。
 部屋は個室でビジネスホテルの一部屋程度の大きさ、朝昼晩の食事提供付きで、アロマテント、岩盤浴、本が読めるラウンジもあった。好きな時間にベビールームで赤ちゃんの預かりが可能で、助産師さんと保育士さんが20から30人前後の新生児を見られる体制が整っていた。提供されたレストランの食事は美味しかったし、歩いているお母さんたちは皆明るく元気そうだった。大人用、子供用の服も完備されていて、ミルクやおむつが揃っているところも良かったので、その日に予約を決めた(割引もあったので)。
 費用はおよそ1泊6万円で、夫が一緒に滞在する場合は追加で1万円必要である。1日7万円程度の計算だが、滞在した身としては払う価値は十分にあると感じる。そもそも東京近郊で3食風呂付き、大人2人分のホテル代は3万円程度かかる。そしてベビーシッターを使うと1時間3000円程度なので、毎日12時間くらい助産師さんに預かってもらえるとすると、3-4万円程度の価値はあるだろう。また産後のホルモンバランスが崩れやすい時期に母親にかかる負担を軽くすることで、産後うつを回避できると思うとお金には代えられない価値も存在すると思う。

 生後5日目に無事施設についた僕たちは本当によく寝ていたと思う。朝は朝食の提供時間ぎりぎりの9時頃に起きて、眠たい眼を擦りながら朝食を摂り、その後でポンをベビールームに迎えにいった。昼食を摂るとまた眠くなってきて、部屋で昼寝。夕食後お風呂に入って、11時くらいにはまた深い眠りにつく生活だった。
 妻は出産という一大事を経ているので疲れていて当然だが、僕も気が張っていたり、慣れないことの連続で疲労はあったのだと思う。そして僕らがグウグウ寝ている間、ポンは3時間おきにミルクを飲ませてもらっていたので、体重も少しずつ増えてきて、出産直後の頼りない感じもなくなってきた。
 施設は小高い山の中腹にあって、昼は窓から相模湾の青い海が見えた。夕方は娘の顔が美しい晩眺に照らされ、穏やかな時間が流れていた。
 授乳後にミルクを吐き戻して服が汚れることもあったりして、慣れない僕はオロオロして助産師さんに助けを求め、服の変え方なども教えてもらったりした。沐浴の練習もしたし、妻は母乳のあげ方、抱っこの仕方も教えてもらった。何もしなくても提供されるバランスのとれた三度の食事もありがたかった。

 産後ケア施設は我が家にとって本当に価値のあるものだった。生後5日目にそのまま自宅に帰っていたら、まともな育児ができていた保証はないし、睡眠不足と疲労と不安で育児に対して負の感情を持っていたと思う。僕たちは10日間の滞在で英気を養い、育児の自信も少しずつつけて、自宅での生活に向けて準備を整えていった。産後ケア施設のおかげで、笑顔を絶やさずに育児をスタートすることができたと思っている。

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