【医師解説】糖尿病と終末糖化産物 (AGEs)の関係
2021年時点では世界の成人の糖尿病患者数は5億3,700万人とされ、世界では年間に670万人、5秒に1人が糖尿病関連の病気で亡くなっています。
糖尿病は、血管が障害され、心筋梗塞、脳血管障害、下肢切断、腎不全、失明などのリスクが上昇するだけでなくアルツハイマー病、癌、肺炎、骨粗鬆症、変形性関節症などのリスクも高まります。
そして、これには終末糖化産物 (advanced glycation end products: AGEs) が関わっています。
加齢や高血糖状態、肥満、低酸素や慢性炎症の状態では、糖によるタンパク質、脂質、核酸の糖化反応が進み、循環血液中や組織でAGEsが蓄積されます。
AGEsは、血管の硬化や骨質の劣化、シワ、シミ、たるみなど外見上の老化も促進させます。
その他にも酸化ストレスや炎症反応を惹起して、心血管病やアルツハイマー病、癌、非アルコール性脂肪性肝炎、慢性腎臓病、歯周病など様々な疾患の進行を促進します。
さらに、喫煙や不健康な食事などによる外因性のAGEsの過剰摂取が老化を促進し、健康寿命を短縮させます。
研究によれば、1型糖尿病患者の初期 6.5年間の血糖コントロールが不良であると、その後血糖コントロールの改善が図られ、強化療法群と標準療法群との間でHbA1c値に差がなくなっても、標準療法群患者における大小血管合併症の進行や死亡のリスクを十分には抑えられないことが明らかになっています。
また、血糖コントロールが不十分であった通常療法群では、初期からの血糖コントロールが図られた強化療法群に比して糖尿病性腎症を含めた細小血管症の進展リスクが高く、11年後の心血管イベント、死亡のリスクも2倍以上となることが報告されています。
さらにその効果は27年間にも及び、標準療法群患者の死亡率は強化療法群患者の1.5倍になることが明らかにされています。
また、2型糖尿病患者を対象にした研究でも、初期からの厳格な血糖管理が長期にわたり大小血管合併症に対して抑制的に作用することが分かっています。
この研究結果から「高血糖の記憶 (metabolic memory)」 という現象が存在することが分かります。
ブドウ糖果糖、グリセルアルデヒドなどの単糖は、タンパク質や脂質、核酸のアミノ基と非酵素的に反応してシッフ塩基、アマドリ化合物を形成します。
その後、不可逆的な脱水や縮合反応を繰り返し、AGEsを形成します。AGEsは、血糖コントロールの程度とその持続期間により不可逆的に生体内で生成、蓄積され、一度形成されるとなかなか代謝されないため長期間にわたって生体内で影響を及ぼします。
さらに、AGEsは、酸化ストレスや炎症反応を惹起しますが、AGEs 受容体の発現が酸化ストレスを介してさらに亢進し、AGEsの形成も促進されることが報告されています。
つまり、ひとたび生体内でAGEs形成されるとなかなか代謝されず、組織に長く留まるAGEsと、AGEsにより持続的にAGEs 受容体の発現が誘導されるという悪循環が、metabolic memoryを形作っていると考えられます。
青山メディカルクリニック 院長 松澤 宗範
参考文献:
1) Yamagishi S, Imaizumi T. Diabetic vascular complications pathophysiology, biochemical basis and potential therapeutic strategy. Curr Pharm Des. 2005 : 11 : 2279-99.
2) Yamagishi S. Matsui T. Fukami K. Role of receptor for advanced glycation end products (RAGE) and its ligands in cancer risk. Rejuvenation Res. 2015: 18: 48-56.
3)アンチAGEsでアンチエイジング(総説)
山岸 昌一(昭和大学 医学部内科学講座糖尿病・代謝・内分泌内科学部門)アンチ・エイジング医学(1880-1579)18巻2号 Page116-120(2022.04)
・院長プロフィール
総合内科、形成外科、美容皮膚科、美容外科。
がん診療に関しては10代の頃に母親を末期癌で亡くした経験と形成外科で癌術後の再建で患者様と日々関わることで、早期発見、予防医療の重要性を痛感し、がん検査や治療も行っている。
疾患の種類を問わず、アンチエイジングまで幅広い患者様に対応し、体の内側・外側ともに健康に綺麗にをモットーにしている。
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