
ヒ素/As:Killing me softly
原子番号33の元素。
ギリシャ語で黄色の顔料を意味するarsenikonに由来する。
毒物カレー事件で有名になったが、昔から広く世界で毒殺に使われてきた。
無味無臭なので、容易に飲食物に混入させやすかったらしい。
フランスでは、遺産相続の為の毒殺によく使われたことから「poudre de succession」(相続の粉薬)と呼ばれていたそうだ。
ナポレオンの毛髪からも高濃度のヒ素が検出されており、ヒ素を含む緑色の顔料で塗られた部屋に寝ていた為とも、毒殺されたとも言われている。
一方で、半導体の原料になったり、人の役にも立っている。
環境には、そもそも広く自然のヒ素が拡散している。
さらに、生物に対する毒性が強い為に、殺虫剤や除草剤、防カビ剤などとして世界中で多用され、環境中に放出さらに放出されてしまった。
その為、様々な食品にはヒ素が含まれており曝露を完全に避けることは不可能に近い。
微量の慢性的な曝露が、慢性中毒症状を引き起こす。
曝露の原因
海藻類
魚介類
井戸水
農作物・米(特に玄米)
日本人においては、ヒ素の含有量が高い海藻や米を通して、諸外国よりもヒ素を多く摂取している傾向があるとされている。
ひじきには比較的多く含まれるとされるが、調理の際の茹でこぼしで軽減する。
また、水道水はヒ素濃度が管理されているが、井戸水については高濃度含むものもあり注意が必要。
土壌にも水にもヒ素が含まれる為、農作物にヒ素をゼロにすることは不可能。
特に、玄米は、糠の部分に多くヒ素を含むが、バランスよく食べている限りは健康被害があるほどではないとされている。
特定の食品に偏らず、さまざまな食品をバランスよく食べることで過剰摂取を防ぐことが推奨されている。
中毒症状
生物は、ヒ素を無害化する機構を体に備えているが、解毒の機能力には個人差がある上に、ビタミン B12の不足によっても解毒機構の働きは低下する。
ヒ素の慢性中毒が怖いのは、ある閾値が来るまで全く気づかずに進行するということだ。
数ヶ月から数年の潜伏期間には、全く自覚症状がないままにヒ素を摂り続け、そのうちに、皮膚が黒くなり、手のひらや足の裏にイボ状の角化症が出現し始める。
慢性中毒症状
まさに、killing me softlyを歌いたくなるようなヒ素の慢性中毒。
無症状の潜伏期間を経て、以下のように進行する。
初期症状:炎症
皮膚・粘膜症状、鼻炎、結膜炎、上気道炎、気管支炎、胃腸炎
中間症状
皮膚:色素沈着・白斑・角化症
神経:末梢神経炎
肝障害・腎障害
貧血
レイノー現象
遅発性症状
全身の中小動脈硬化:脳梗塞・心筋梗塞・四肢の壊疽
ガン(皮膚・肺・尿路・肝臓など)