KINZTOのDr.ファンクシッテルーだ。今回は「どこよりも詳しいVulfpeckまとめ」マガジンの、6回目の連載になる。では、講義をはじめよう。
※Cory Wong初来日に向けて、2023年6月19日、大幅に加筆修正を行いました。最新の情報に更新してあります。
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ミニマルファンクバンド、Vulfpeck(ヴォルフペック)のギターは、Cory Wong(コーリー・ウォン)というギタリストが担っている。
Vulfpeckの正式メンバーはJack、Theo、Joe、Woodyの4人であり、Cory WongはVulfpeckファミリーという立ち位置だが、ほとんどの曲でギターを弾き、ツアーにも必ず参加しているCory Wongは、Vulfpeckに無くてはならない存在だ。
※正式メンバーが4人のみで、他のサポートメンバーが正式メンバーにならないのはなぜか?に関してはこちら。👇
今回の記事ではまず彼のサウンドについて触れたあと、彼の経歴を追いかけ、どうやって現在のような素晴らしいギタリストになったか、などを紹介していきたい。
Cory Wongのプレイスタイル
ご存知の方はここは読み飛ばしていただいて構わないが――Coryについてそもそもよく知らない、という方は、是非ここから入っていただきたい。
Cory Wongはミネソタ州ミネアポリス出身のギタリストである。
現在、自らのバンドを率い、2023年のフジロックへの出演を決め、さらにVulfpeck、The Fearless Flyersなどでもギターを弾き、ラリー・カールトンや、ヴィクター・ウッテンなどとも共演する、世界的に知名度のあるプレイヤー。
そんなCory Wongは、「現代最高のリズム・ギタリスト」だ。
「リズム・ギタリスト」とは何か?
従来のギタースタイルは、「リード・ギター」と呼ばれる。ロックバンドのギタリストを思い浮かべてくれればいい。それに対して、ファンクバンドでひたすらカッティングでバンドを支えるギタリストが「リズム・ギタリスト」である。
「リード・ギター」は、和音によるハーモニーと、メロディ、与えられたソロスペースでのソロを弾くことでバンドの演奏に華を添える。しかしCoryを始めとした「リズム・ギタリスト」は、正確無比なリズムと、その中に潜む驚異的なメロディセンスによって、「和音カッテイングだけで耳に残るメロディが聴こえてくる」ようなプレイができる。
つまり、Coryはリード・ギターの要素(メロディ)と、リズム・ギターの要素を両方併せ持っているのだ。
このスタイルを、彼は自分で「リード・リズム」と呼んでいる。
「リード・リズム」のスタイルは、古くはChicのナイル・ロジャース、Earth, Wind & Fireのアル・マッケイがスタートさせ、そして1970年代末~1980年代に、マイケル・ジャクソンの「Off The Wall」「Thriller」「Bad」という名盤において活躍した二人のギタリスト――デヴィッド・ウィリアムス、ポール・ジャクソン・Jr.が推し進めた、ブラックミュージックに欠かすことが出来ないプレイスタイルだった。日本でも、山下達郎などがその路線のプレイヤーである。
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では、そんなCoryのリズム・ギタリストとしての魅力を非常によく表している音源を紹介しよう。The Fearless Flyersのミニマルファンクだ。
画面のいちばん左がCoryだが、彼の弾いている音は、常に耳から離れない。耳に残りやすいメロディ、そのフックの繰り返し。
しかし単純な「テーマ」ではなく、あくまでリズムギターとしてのカッティングの範囲でそれを行っている。単純なワンコードでのカッティングでも細かい工夫を施して、それが音に埋もれず、かつメロディとして耳に残るような演奏を、常に行っているのだ。
またこの動画で、彼は自分のサウンドの秘訣を紹介している。
ここで語られていることは、まず、長年アコースティックギターを弾き続けたことで得た、柔らかく正確な右手首の動きが非常に役立っているということ。
そして、16分音符で常に右手首を大きく、柔らかく上下に動かし続けることで生み出せる、「実音とシェイカーのようなパーカッシブな音の組み合わせ」が重要だということ。
また、高校生のときに在籍したマーチングバンドのドラムラインで、グルーヴが大幅に鍛えられたこと。複数のフレーズが動的に積み重なるように意識することで、いかにひとりひとりの単なるリズムセクションが、「一つのパート」に昇華するかを意識していること。などである。
さらにこちらの動画では、エフェクターのコンプレッサー(Wampler Pedals Ego Compressor)が彼のサウンドに欠かせないことが自ら解説されている。
コンプレッサー無しと有り、両方を弾いてくれているが、「有り」にした瞬間に、完全にいつものCoryのサウンドに変化するのが分かるだろう。
Coryのギターは70年代後半から、80年代にかけてのポスト・ディスコ的なグルーヴや、マイケル・ジャクソンの曲におけるリズムギターのフィーリングを兼ね備えており、まさに時代が彼のギターを必要としていると言える。
では、彼の経歴に入っていこう。
Cory Wongの活動初期(~2013年)
Cory Wong(コーリー・ウォン)は、ニューヨーク州ポキプシーで生まれ、ミネソタ州フリドリーで育った。(出典:Q&A: Cory Wong Is Here to Stay)
父の影響で音楽に興味を持ち、9歳でピアノのレッスンを始めたが、しだいにその興味はロックに移っていく。
次にベースを持ち、それもギターになり、パンクバンドを結成するようになった。当時は1990年代であり、オルタネイティブ・ロック全盛期。彼はレッチリ、プライマス、フー・ファイターズ、ウィーザー、グリーン・デイ、ブリンク182などに深く影響を受けた。そして高校生のころには、ギターの種類はフェンダーのストラトキャスターになり、以降はそれを自分の楽器として愛し続けている。
また同時に、多くのブラックミュージックに触れ、さらにミネアポリス出身のミュージシャンとして当然のように、深くプリンスに影響を受けた。
前述したように、ポール・ジャクソンJr.や、デヴィッド・ウィリアムズというギタリストにも強く影響を受けている。しかし彼が20代前半で演奏していたスタイルは、実は現代ジャズだった。
最初はミネソタ大学で科学を専攻していたが、ミュージシャンになるためにミネアポリスのマクナリー・スミス音楽大学に通い、パット・マルティーノ、クリストファー・パークニング、アンドレス・プラド、チャーリー・バナコスらの指導を受け、マスタークラスを受講した。
卒業後はミネアポリス・セントポールのジャズライブハウスに通いつめ、そこから複数の仕事を掴み、音楽のキャリアをスタートさせている。
また、地元のインディペンデントレーベルSecret Stash Recordsを共同設立。2008年には当時、ミネアポリスの有名ジャズライブハウス「The Artists' Quarter」の火曜レギュラーバンドだった「Cory Wong Quartet」で、アルバム「Even, Uneven」をリリース。2010年には「Becoming」をリリースした。このころは完璧に現代ジャズの演奏をしている。「コリー・ジャズ時代」である。
(参考:https://coryjwong.wordpress.com/ 売れる前の、Coryの初期自作HP。まだ残っているのが素晴らしい。ファンは一見の価値あり ※2020年10月追記 現在はサイトがクローズしてしまった)
2012年には『Quartet / Quintet』をリリース。また同時期(2013年)に、Peter Kogan(ds)のジャズ作品にも参加している。
また、2013年にはマクナリー・スミス音楽大学時代の友人たちと、Foreign Motionというバンドを結成。こちらも、現代ジャズのバンドだった。
「ミネアポリス・ファンク・スクール」へ(2013年)
しかしCoryはジャズ以外にも様々な仕事を受けていたため、彼の名前は徐々に他の世界にも広がっていた。そしてここから、彼は現在に通じる、R&B、ファンクプレイヤーとしての才能を花開かせていく。
まず、ゴスペルシンガーのRobert Robinsonに認められ、彼のクリスマスツアーに帯同。このツアー中、有名シンガーソングライターのLarry Longがゲストで登場したことで、Larryに認められ、今度はLarryのライブに参加することとなった。(参照:https://www.youtube.com/watch?v=qmNEhOKfZ9A)
そして、Larryのツアーにドラマーとして参加していたのが、プリンスのバックバンドでも活躍していた、マイケル・ブランド(Michael Bland)だったのである。
ここでマイケル・ブランドと接点を持ったCoryはピックアップされ、ソニー・T(b)など、急速にプリンスのバンドメンバーと親しくなっていく。これが2013年のことだ。
プリンスのバンドとは――つまり、かの有名な、NPG(ニュー・パワー・ジェネレーション)のことである。(👇マイケル・ブランド、ソニー・T参加曲)
そしてCoryはマイケル・ブランドと、ソニー・T、そしてNPGのホーンセクションの「ホーンヘッズ」に認められ、一緒に仕事をするようになる。
これが彼のキャリアのなかで、最初の大きな転換点となった。
ギター・マガジン2018年11月号のインタビューによれば、このBunker’s Jamのイベントには、生前のプリンスも見に来ていて、なんと演奏に参加していったこともあるという。
そもそもここはプリンスお抱えのミュージシャンのセッション箱として業界では有名な場所となっており、ツアーでミネアポリスに来たミュージシャンは、こぞってBunker'sにやってきた。John Mayer、Jimmy Vaughan、Victor Wooten、Roy Hargroveなど、錚々たる有名ミュージシャンを受け入れるセッションイベントだったのである。
Bunker’sの曲リストは250曲以上あったと言うが、必死でそれを覚え、Coryはプリンスのバンドメンバーからの信頼を勝ち得ていった。ここでの「曲を覚える」とは、もちろん、完璧な暗譜のことだ。
最初はサブ・ギタリストとしての仕事が与えられていたが、メインギタリストのBilly Franzeが肩に大けがを負ったことで、Coryがメインギタリストに昇格することになったのである。(参照:https://www.youtube.com/watch?v=qmNEhOKfZ9A)
こうして、彼は2013年にミネアポリスの音楽界隈、とくにプリンスの音楽「ミネアポリスファンク」を作り上げるミュージシャン達に認められたことで、まさに「ミネアポリス・ファンク・スクール」とでもいうべきものに入門し、そのグルーヴを鍛え上げていくことになった。
そして、この「Bunker’s Jam」のステージを見に、あの男たちもやってきたのである。
Vulfpeckとの出会い(2013年~)
このように、2013年のミネアポリスのBunker'sが、CoryとVulfpeckの最初の出会いとなった。同年末、彼らが一緒にジャムセッションを行っている動画が残されている。
ここからしばらくは、Coryは前述の大学時代の友人とのバンド、Foreign Motionで活動。
Foreign Motionは、Coryがプリンスのバックバンドミュージシャン達と交流を深めてファンクへ傾倒していったという変化を汲み取り、2013年の結成当時は現代ジャズだったが、2015年にはインスト・ファンクのバンドになっていた。
こちらのバンドはおそらく2015年で活動が停止。その翌年、2016年から、Coryは自らのバンドを立ち上げつつ、Vulfpeckに全面的に参加するようになっていく。
👆Coryが初参加したライブ。2016年6月22日。
Coryが初参加したアルバム「The Beautiful Game (2016)」👆では、自身の名を冠した「Cory Wong」という曲も特別に作られた。先ほども紹介した2013年のセッションを発展させた楽曲だ。
こちらについては、曲のリリースについて面白い話があるので、よかったら別記事もご覧いただきたい。👇
さて、Coryが全面参加したアルバム、「The Beautiful Game」はいきなりR&Bアルバムチャートで10位に入り、Vulfpeckのキャリアでトップセールスを叩き出した。
Vulfpeckは一躍、世界で人気のファンクバンドとなり、CoryはベースのJoe Dartと同じく、バンドを牽引するスーパー・プレイヤーとして認識されるようになる。この「The Beautiful Game」への参加が、彼のキャリアの二度目の大きな転換点だったと言えるだろう。
Coryはその後も、Vulfpeckのすべてのアルバム、またライブに参加。メインのギタリストとしての地位を確立し、Vulfpeckの成功に大きく貢献し続けている。
Vulfpeckは2019年にマディソン・スクエア・ガーデンで単独公演を行い、チケットをソールドアウトさせたが、そこにはCoryの功績があったことは間違いないだろう。
The Fearless Flyers(2018年~)
また、同時にCoryはVulpeckのサイドプロジェクト、The Fearless Flyers(フィアレス・フライヤーズ)にも参加している。
メンバーはVulfpeckからJoe Dart(bs)、スナーキー・パピーからMark Lettieri(gt)、そしてドラマーのNate Smith(ds)だ。
こちらのバンドも非常に人気の高いファンク・バンドであり、2022年には世界のジャズフェスの頂点でもあるNorth Sea Jazz、そしてNewport Jazzにヘッドライナー級の扱いで出演した。
これはサンダーキャット、ノラ・ジョーンズなどと同等の扱い。バンドが、そして何よりCory自身が世界的に高く評価されていることが分かる。
The Fearless Flyersに関しては、私の別記事で詳しく特集しているので、よかったらそちらをご覧いただきたい。
2023年来日バンドについて
そして、Cory Wongは2023年のフジロックで来日が決定している。
もともとは2020年のフジロックでCoryの来日が決まっていたのだが、コロナ禍によってそれがキャンセルになってしまったため、今回、ようやく初来日が叶うのだ。
こちらはCoryが現在活動している自己名義のバンドでの出演となる。メンバーは以下の通りだ。
このうち、Kevin Gastonguay、Petar Janjic、Yohannes Tonaの3名は、ここまで紹介してきたCoryの過去バンド、Foreign Motionのメンバーだ。彼らは大学の友人たちなのである。
そしてMichael Nelson、Kenni Holmenは、ホーンヘッズとして、プリンスと長年にわたって共演してきたミュージシャン。
つまり、今回の来日バンドは、大学からの長年の友人&プリンスのバックバンドメンバー、というCoryにとっては非常に理想的な内容になっているのである。
今回の来日バンドについては、別記事に詳細な解説を書かせていただいたので、よかったらそちらもご覧いただきたい。
では次回はこのまま引き続き、『Cory Wong解体新書』どこよりも詳しいCory Wong の2回目として、Coryのソロ活動にフォーカスした解説を行っていこう。
◆著者◆
Dr.ファンクシッテルー
宇宙からやってきたファンク研究家、音楽ライター。「ファンカロジー(Funkalogy)」を集めて宇宙船を直すため、ファンクバンド「KINZTO」で活動。
◇既刊情報◇
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