あまりに深すぎるJack Strattonの世界[1]「グルーヴ教育サイトFunklet」
KINZTOのDr.ファンクシッテルーだ。今回は「どこよりも詳しいVulfpeckまとめ」マガジンの、8回目の連載になる。では、講義をはじめよう。
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Vulfpeck(ヴォルフペック)のリーダー、Jack Stratton(ジャック・ストラットン)。
彼はもともとドラマーとしてスタートし、ギター、キーボードも弾きこなし、さらに動画の撮影、編集、そしてバンドやメンバーのプロデュースもこなしている。マルチプレイヤーという言葉では片付かない多才すぎる顔を持つジャック。ここから数回連続で、彼のサイドプロジェクトを紹介していくことにしたい。あまりにマニアックすぎて、もはや笑えてくるほどだ。
まず今回は、「Funklet」というグルーヴ教育サイトについてだ。
このサイトの機能をもしひとことで表すとすれば「オンラインリズムマシン」だ。だが、このサイトはただのリズムマシンではない。
プリセットとして、過去のファンクの名曲のドラムパターンがすでに何曲も用意されているのだ。
さらにそれのドラムパターンをハット、スネア、キックに分解し、それらが鳴るタイミングを極小単位で前後にずらすことでグルーヴの変化を体感することができる。
なにを言っているんだと思うだろうが…では、ものは試し、サイトにアクセスしてみよう。
Funkletにアクセスすると、おしゃれな初期Vulf文字で書かれたサイト名の下に、ドラマーと曲名が表示されていく。
The Metersのジガブー・モデリスト、The Rootsのクエストラブ、JBバンドのクライド・スタブルフィールド、さらにバーナード・パーティーなど…。ファンキーなグルーヴの名手、名曲が並んでいる。Jackが大好きなワーデル・ケゼルグの名前もある。
では有名曲ということで、スティービー・ワンダーの「Superstition」のドラムパターンを聴いてみることにしよう。
すると、このような画面になる。ここの下のほうにある、オレンジや赤、グリーンの四角が並んでいるのがオンラインリズムマシン、その名も「Funklet Machine」だ。(実際に試してみたい場合はこちらをクリック。iPhoneでもOK)
この「Funklet Machine」をどこでもいいのでクリックすると、「Funklet Machine」が起動して使えるようになる。
BPM表記が出てきたら、スタートする準備はOKだ。再生ボタンを押してみよう。すると、「Superstition」のリズムパターンが再生される。
上から三段あるうち、一番上がハット、二段目がスネア、三段目がキックになっている。
左右は時間を表し、右に行くと拍が進んでいることを意味する。色の濃い部分が現在地だ。
ここまでなら、「有名曲を再現したリズムマシンのプリセット」なのだが…。
Funklet Machineの右側には、このマシーンの最強の機能である、「オプション」が付いている。これは左から順に、音のオン/オフ、発音タイミングの移動、音の高低の変化、音色の変化、というオプションだ。
細かい機能は実際に試してもらいたいのだが、ここではFunklet Machineの全機能の中でも最重要な、発音タイミングの移動について説明したい。
発音タイミングの移動は、マイナスとプラスの記号のボタンだ。試しに音を鳴らしながら、プラスを押していくと、どうなるか。
ん?
んん?
おお!?
スネアのタイミングが遅れた!
つまりこうやって、「スティービー・ワンダーが叩いたSuperstitionのパターン、もしスネアがほんのちょっとレイドバックしたら(遅れたら)、どんなグルーヴになるのか」というのを、自分で検証して体感として学ぶことができるのである。
もちろん発音タイミングがでたらめになるとグルーヴとして成立しなくなってくるが、例えば初期値からスネアを2クリック遅らせたグルーヴなど、ぜんぜんレイドバックの範囲内である。クエストラブ的にむしろブラックでキモチイイ。
さらにスネアを遅らせるのではなく、逆に早めてみると、急に白人的なグルーヴになる。これらを視覚的にわかりやすく見ながら学べるサイト、それがFunkletなのだ。
実際、サイトの「About」に、Funkletは「教育用」である、と書かれている。
「一部の生徒は、ね。」と、Jackがさらっとブラックジョークをはさんでいるのも面白い。
他にも、世界でもっともサンプリングされたドラムパターンのひとつ、クライド・スタブルフィールドの「Funky Drummer」、
ジャボ・スタークスが叩いたJBの「Sex Machine」、
バーナード・パーディーが叩いたアレサ・フランクリンの「Rock Steady」、
トニー・アレンによるフェラ・クティの「Expensive Shit」なんてものもある(これはアフロビート)。
これらの全てのタイミングをずらして、グルーヴの変化を検証することができるのだ。夢のようである。
ちなみにこのプロジェクトは、「About」にも記載があるとおり、Jack Strattonと、Rob StensonとDevin Kerrが行っていた。現在は更新が止まってしまっている。公式ツイッターはこちら。
そして、なんと始まりはクラウドファウンディングだった。まだ2011年、Vulfpeckが結成される年の話である。
KickstarterにまだこのFunkletプロジェクトのページが残っている。今回は3200ドルがゴールのところ、8285ドルと実に二倍以上の金額を集めることに成功している。(当時のJackはKickstarterで何回も実験を繰り返し、時には失敗していることもある。これは当時にしては多くの金額が集まったほうだ)
クラウドファウンディングでFunkletについて語るJackが若くてサイコーだ。街に出て壁や柱を叩き、それを録音してグルーヴを作り上げていく様子が撮影されている。服装も全くイケてない。実に素晴らしい。もちろん誉め言葉だ。いかに当時の彼がグルーヴオタクであり、実直なドラマーであり、それがVulfの成功に繋がっていくか、が映像に滲み出ている。
Funkletを一緒に作り上げたRob Stenson、Devin Kerrは現在でもVulfpeckの制作の裏方としてよく名前を見かける。彼らはGoodhertzという音楽ソフトウェア会社を立ち上げており、Jackのミシガン大学時代からの友人である。Vulfpeckがレコーディングで使っている、Vulfcompressorも彼らとJackの作品だ。
Devin Kerrはマスタリングエンジニアで、Vulfpeckの曲の多くの録音に携わっているのでファンは名前をチェックしておきたい。
最後に、公式ツイッターに載っている、作成済みのFunklet Machineのグルーヴを紹介して終わりにしよう。こちらをクリックして実際に聴いていただきたい。
このグルーヴ、どこかで聴いたことがある。そうだ、「It Get Funkier」じゃないか!
細部は異なっているが、このグルーヴから立ち上がってくる曲はまさしく「It Get Funkier」である。Jackの作る全ての作品は、こうやって水面下で繋がっているのである。
次回も「あまりに深すぎるJack Strattonの世界」についての連載だ。Jackが強く影響を受けたアレンジャーを紹介する、「Holy Trinities」動画について解説をしてみよう。
◆著者◆
Dr.ファンクシッテルー
宇宙からやってきたファンク研究家、音楽ライター。「ファンカロジー(Funkalogy)」を集めて宇宙船を直すため、ファンクバンド「KINZTO」で活動。
◇既刊情報◇
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ファンク誕生以前から現在までの
約80年を解説した歴史書
「ファンクの歴史(上・中・下)」
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