VulfpeckのPVを撮影するには?機材、アプリ、編集方法まとめ
KINZTOのDr.ファンクシッテルーだ。今回は「どこよりも詳しいVulfpeckまとめ」マガジンの、18回目の連載になる。では、講義をはじめよう。
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前回は『Joe Dart解体新書』で非常に長い記事になったので、今回は軽めに。
今回は「VulfpeckのPV撮影・編集術」。
具体的に、このあたりの映像の作り方だ。まだこれについて日本語でまとめられた記事はないので、貴重な情報になるのではないかと思う。
まず、ミシガン大学に入学した優秀なミュージシャンを数人用意しよう…。
無理だ!
異世界転生してもたぶん無理なので、今世で用意するのはiPhoneのみでOKである。
VulfpeckはリーダーのJack Strattonがビデオの編集を行っている。そして彼のツイートで、iphoneのカメラで撮影していること、2ドルの「8ミリフィルムアプリ」を使っていることがわかった。
では、それはどのアプリなのだろう。
『Jackの使用している8mmアプリ』
探してみたところ、「これではないか?」というアプリが見つかった。「Vulfpeck 8mm app」で上位に出てくるので、見つけるのはとても簡単だ。
値段は日本円で370円(2020年8月現在)。アメリカでは1.99ドル。値段的にも、2ドルだと書かれたJackのツイートに合致する。
さらにこのアプリのレビューを見ると、これは2010年から販売されていたことが分かる。Vulfpeckの結成よりも前なので、時系列的にもOKだ。
👆同アプリで撮影された映像。かなりVulfpeckのPVの雰囲気に近い色合い、ボケ具合になっているのがわかる。
このアプリは、撮影する動画に8mmビデオのようなフィルターをかけることができる。このフィルターが数種類あり、どれをかけるかでかなり印象の異なった映像になる。
「Xpro」「60’s」「1920」「Indigo」「3-X」などのフィルターがある中で、「70's」というフィルターを使ってみて驚いた。
「70’s」のフィルターでは8mmビデオフィルム特有の白い縦線、黒いシミのようなものが常に現れており、これの現れ方がVulfpeckのPVとほとんど同じだったのだ。
👆私が撮影した映像(70’sフィルター使用)
これが、Jackがこのアプリを使っているだろうと判断したもっとも大きな理由である。
さらに映像のフチに、映写機で上映した時に出る「かすれ」のようなものや、フィルムの黒いワクを追加するモードもあるのだが、これは一切使わない。やることはiPhoneでアプリを買って、フィルターを「70’s」に設定する。ただこれだけだ。※2020年8月現在、同アプリはiPhoneにのみ対応。
その状態で、私は自分のバンドの動画を撮影してみた。すると驚くべきことに、いろんな謎が一気に解けたのである!というわけでまずは、こちら👇を再生してご覧いただきたい。
ご覧いただけただろうか。本編の動画の左右に黒い余白が入っているのが分かるだろう。これは、件の8mmアプリを使うと、出力される動画のアスペクト比(タテヨコの比率)がデフォルトの16:9ではなく、強制的に本物の8mmフィルム同様4:3になってしまうからだ。
…そういえば、Dean Townの動画も4:3だった。
もちろん、Vulfpeckには16:9の動画もある。しかし、それはまた別の方法で撮影されているか、もしくは逆に上下を切り取って16:9にしているのかもしれない。いずれにしても、これで「なぜDean Townは縦横比が違うのか?」という疑問にかなり近づいたように思う。そもそも8mmアプリ自体にあまり種類がないため、やはり、この8mmアプリを使っていると考えるのが妥当な気がする。
『謎ズームの作り方』
次に…Jackお得意の、謎ズームだ。
Vulfpeckの動画には極端に画質が粗くなる謎のズームがお約束のように挿入され、ファンの間ではそれを見るのが一つの楽しみになっている。
もちろん、私もこのズームの虜だ。Vulfpeckを知った頃、よくJoe Dartの手元を極限までズームしたひどく粗い画質の映像で爆笑していた。
これはVulfpeckの作品に欠かせない要素になっているため、私はこのズームの仕組みを解明したかった。「この画質のめちゃくちゃな粗さ、さらに何か特別なフィルターを使っているのか?」という疑問がずっとあったのだ。
というわけで今回、謎ズームに関しても自分で編集して真似をしてみた。これもやはり、自分で実際に試したことで真相に近づいたように思う。
結論から言うと、いともあっさりと再現に成功した。
8mmアプリを通したことで劣化してボケていた動画を、さらに無理やりズームさせただけで簡単に再現できたのである。追加のフィルターなど不要だったのだ!
また、8mmアプリの「70’s」フィルターで撮影したことで生じている白い縦線、黒いシミも一緒にズームされ、さらに画像が粗く見えるというボーナスが付いてくる。
👆比較画像。左側が私が撮影してズームさせた映像。正直、こちらもVulfpeckのPVだと言われたら信じてしまうような気がする。
ズーム比が違うから粗さに差はあれど、8mmで撮影した後に単純にズームするだけでこの効果が得られることが分かった。
さきほども紹介したこの動画で、数回にわたって謎ズームを取り入れているので、よかったらご確認いただきたい。(ちなみに、フォントはVulfpeckオリジナルの「Vulf Mono」を購入して使用している。購入方法はこちら👇)
ズームの編集は簡単で、動画をズームしたい箇所だけ「分割(スプリット)」して切り離し、そこだけズームさせる。これだけだ。すると突然ズームして、また突然ズームから戻る映像ができあがる。
以前はiPhone付属の「iMovie」でも4:3のアスペクト映像も扱えたが、現在は勝手に16:9で処理されてしまうため、「iMovie」で謎ズームを作ることはできない。ズームの箇所だけアスペクト比が16:9になってしまう。よって、今回は私はPCの動画編集ソフトで編集を行った。
👆使用ソフトはFilmora9。処理自体は単純なので、ほとんどの動画編集ソフトで行えるはず。スマホでも、iMovie以外の4:3に対応した編集ソフトを使用すれば大丈夫だろう。
👆ズームの始点と終点を決め、そこを分割する。
👆ズーム箇所を選び、ズーム処理を選択。
👆ズーム範囲を選択。今回はこれくらいズームしている!やりすぎなくらいでちょうどいい。
これだけだ!これで完成である。完成品がこちら。👇
以上、Vulfpeckの謎ズームの作り方だ。
Vulfpeck動画は意外と簡単に作られていることがわかったが、やはりこれらのアイデアをバンドのアイコンになるまで昇華させたJackのセンスが素晴らしかったと言える。この動画編集に関しては、大事だったのは技術ではなく、アイデアとセンスだった。
バンドPVの画質が向上していく流れに逆らい、あえて雑に作ることでファンを増やし、費用や時間面でのバンド運営の負担も軽減している。まさに一石二鳥、これも彼らが目指している「持続可能性(sustainability)」の維持とイコールになっていると言えるだろう。
今回もDr.ファンクシッテルーの講義にお付き合いいただき、ありがとう。
◆著者◆
Dr.ファンクシッテルー
宇宙からやってきたファンク研究家、音楽ライター。「ファンカロジー(Funkalogy)」を集めて宇宙船を直すため、ファンクバンド「KINZTO」で活動。
◇既刊情報◇
バンド公認のVulfpeck解説書籍
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ファンク誕生以前から現在までの
約80年を解説した歴史書
「ファンクの歴史(上・中・下)」