心理カウンセラーになるきっかけ②
上司の異変
部署を異動して3年が経過し、仕事にも慣れ、人生がやっと上向きになってきたと思った矢先のことでした。前回お話しした、私にとってメンターとも呼ぶべき上司との出会い。その上司のおかげで、仕事にもやりがいを見出し、日々の業務が楽しく感じられるようになっていました。しかし、ある日その上司が職場に大きな絆創膏をあごに貼って出社してきたのです。
その絆創膏はかなり目立っていましたが、周囲も何となく触れにくい雰囲気で、私も「どうしたんですか?」と直接尋ねる勇気が持てませんでした。「階段でこけた」と自分で言っていたと思います。その日も普通に仕事が進み、特に変わったこともなく時間が過ぎていきました。しかし、その数日後、事態は大きく変わることになります。
上司の突然の休職
その日、いつもなら朝一番で出社しているはずの上司が姿を見せませんでした。不審に思いながらも、私はそのまま自分の業務を進めていました。ところが昼過ぎ、部長からチーム全員に向けて一言告げられたのです。「〇〇さん(上司)は、明日からしばらく休むことになりました。」
突然の知らせに、私は頭が真っ白になりました。仕事に関しては、その上司とほぼ二人三脚で進めていた状態でした。上司がいなくなることで、これからの業務をどう進めていけばいいのか全くわからなくなってしまいました。さらに、休む理由や経緯については何も説明されず、ただ「休むことになった」という事実だけが伝えられたのです。
その瞬間、私の中でさまざまな感情が渦巻きました。戸惑い、不安、怒り、悲しみ。その上司の突然の休職が、私の中でどれだけ大きな影響を与えるものか、想像もつきませんでした。メンターとして頼り切っていた分、その存在が一時的にでもいなくなるという事実が、私の心に大きな穴を空けたのです。しかもいつまで、休むかわからないという状況も私を苦しめました。
その日は何とか業務を続けようとしましたが、気持ちが全く落ち着かず、結局手につかないまま一日が終わってしまいました。家に帰ってからも上司のことが頭から離れませんでした。あの絆創膏といい、数日前から何か異変が起きていたのかもしれない。そう思うと、上司が抱えていたかもしれない問題に気づけなかった自分が無力に感じられました。
翌日から、職場の空気は一変しました。チームメンバーもどこか落ち着かない様子で、それぞれが手探りで仕事を進めているように見えました。私自身も、上司と共有していた仕事の進行状況をどうするべきか、誰に相談すればいいのかがわからず、ただ一つ一つ目の前のタスクをこなすことで精一杯でした。
またまた転機
今振り返ると、この出来事も私にとって大きな転機となりました。上司の存在にどれほど依存していたかを痛感すると同時に、誰かに頼るだけでなく、自分自身で考え、行動する力を鍛える必要性を強く感じたのです。けれども、当時はそんな冷静な思考など持てるはずもなく、ただ毎日を必死で乗り越えることしかできませんでした。
うつ病だった上司
かなり後になって知ったのですが、上司のあごのケガは飲み会の帰りにしてしまい、かなり出血したようでした。それが一つのきっかけになり、精神的に落ち込むようになり、うつ病と診断されたようでした。その事実を知ったとき、私はさらに強い衝撃を受けました。表面上は元気そうに振る舞っていた上司が、実際にはどれほどの苦しみを抱えていたのか、全く気づけていなかったのです。
うつ病についての持論
このことをきっかけにうつ病は誰でもなる可能性があることを知り、人はなぜうつ病になるのかと、真剣に考えるようになりました。
うつ病について、まだ「精神的に弱い」という偏見を持つ人がいるかもしれません。しかし、果たしてそれは本当でしょうか。私の持論ですが、うつ病になる人はむしろ真面目な人が多いと思います。
「うつ病は脳の風邪」という表現がありますが、私自身その考え方には納得しています。つまり、誰でもなり得る病気であり、真面目さゆえに自分を追い込みすぎて、脳の疲れを管理できなくなってしまうのです。それは決してネガティブに弱いわけではなく、ただ少し疲れてしまっただけのこと。休むことで回復できるものですが、普通の風邪よりも治っているかどうかの判断が難しい病気だと言えます。
無意識に「うつ病は弱さの象徴」とするのではなく、「誰もがなる可能性のある、一時的な脳の疲れ」として捉えられる世界になってほしいと思います。
さいごに
うつ病になった人が近くにいたという経験が、心理カウンセラーになるきっかけ②となります。
次回は、メンターと慕った上司がうつ病で休んでからの奮闘です。