新人ニューハーフの日常       とおくのまち16

   夜明け前。
深夜をとうに越して、もうすぐ夜明けが近い。そんな時間に、行動していて、朝日を見ることもなく寝床に帰っていく。まるで、妖怪か吸血鬼になったような気分でした。
そうか、私は、女になるのではなく、化け物になってしまったんだなぁと寂しく感じた。

 みんなと別れて、ママといっしょにマンションへ。
疲れていたけど、なかなか眠れず、今ごろになって家族の顔がちらつく。
ホームシックにでもなったのだろうか。
今回は、携帯電話も家に置いてきたので、連絡が入ってくることもない。
みんな、今ごろ、どうしているのだろうか。とても、さみしかった。
 
 

 銭湯って、行くの、はじめてかも。
ママのお家で、お風呂まで借りるわけにはいかない。
シャワーを借りるくらいではなくムダ毛の処理もしないといけないし。
朝方だったか、昼過ぎだったかよく覚えていないが店の近くの銭湯へ出向く。
石鹸やタオル、歯ブラシを買う。もう今までの生活ではないことを実感する。
この時間のこの場所にお風呂に来る人というのは、やはり、どこか怪しい雰囲気の人が多い気がした。気のせいかもしれない。まあ、ふつうの会社員じゃないのは確か。
手足のムダ毛を処理したけれど、ゆっくりと湯船につかる気にはなれなかった。
 
 買物も困ったなぁ。
どこに買物に行っていいかわからず、駅前のショッピングセンターへ行った。
私は、あまり派手な服を持っていなかったので、派手な服を買わないといけないと思い一生懸命探した。
今から思えばよくあんな服が着れたなぁと思うくらいの体にビタッとしたミニのスーツで色もピカピカしていた。とりあえず、お店で着る分はそれでいいとして、ふだんも女の格好で過ごすには、持ってきた服だけでは、ぜんぜん足りないので、もう一着、買うことにした。ショッピングセンターの一階に、私のすきなJAYROというお店が入っていた。
そこに見に行くと、きれいな透きとおったピンクのニットのボレロと、白いワンピースが見つかった。これは、お店で着れないかなぁと思ったけど買ってしまった。
今、思えば、不思議なことだけど、あれほど女装がしたくって出て行ったのに、いざ、いつでも、女の子の格好をしてもいいというか、したほうがよいようになると、なぜ、しなかったのだろうか。これからは、いつでも出来るという油断だったのか。

 いや、それだけではない。現実問題がある。
つまり、本当の女性でも、ニューハーフでもない私には、女の格好でいられる時間というかベストな状態で女装できる時間に限りがあるからだ。(まるで、ウルトラマンが地球上では、その姿で、3分間しか活動できないかのように・・・)

 一番の原因は、この濃いヒゲ。昼間、ヒゲをきれいにそって、女装すると、お店にいる時間にすごく伸びてくる。夕方に、もう一度、剃っておくことも出来るが、時間のたっていないときにヒゲをそるとすごくそりにくく、下手すると傷だらけになってしまう。
また、ママといっしょにどこかへ行く時も、ママは小柄だし美人だから、派手な格好じゃない時は、女の人としてパスできる。しかし、横に、女装の私がいては迷惑をかけてしまう。
 それらをはじめとする諸事情で、私には24時間ずっと女の格好で生活というのは無理な気がした。
 ずっと「女の子」で暮らすにはどうすればいいのかなぁ……。

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