安眠チョコレート
「ここは、誰もいない国」
淡い光だけが、他の星から旅行でやって来て
電灯だった所にとまる。
遠い昔、まだ僕が生きていたころに
めいっこがベッドの、僕の枕元に
チョコレートを置いてくれた事がある。
チョコレートを食べないで、香りだけを
ゆっくり嗅いだことは無かったから知らなかったけど
チョコレートは、とても香りが良い。
バニラとはちがう、仄かで控えめな甘い香り。
安眠できる気がして、
それからずっと、枕元には
チョコレートを置いて眠るようになった。
悪い夢を見ても、それは甘い夢になる。
悪魔が来ても、僕の心臓の代わりに
きっとチョコレートを食べるだろうという安心感。
めいっこも、既に居なくなって
数世紀。
ここは誰もいない国。
記憶する僕も、居なくなった国。
チョコレートだけが、存在する世界。
悪魔は好きなものを
最後に食べる主義らしい。
甘い残り香が漂う、悪夢の夕べ。
2020年1月2日 ppp
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