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スキになる 15

タクシーを降りた時にはもう意識は「打ち合わせ」に入っていたので、「掛川より西」のことはそのまま忘れていた。

二年後だったと思うのだが、高校野球のラジオ中継をまたタクシーの中で聴く機会があって、その時に突然憶い出したのだ。
「掛川より西」を。
時間をかけて熟成された(?)からなのか、そのフレーズはそれ以来私の顕在意識の中のどこかに刻まれてきた。

そして今、思う。
これもスキのひとつじゃないかな、と。

理由を問いただすことはできなかったが、とにかくあの運転手さんにとって、おそらくこの日本国は「掛川より西」と「掛川より東」で出来ている。

そして彼は「掛川より西」がスキ、なのだ。


Webサイト「掛川あったからLife」より

もっと深読みすると、彼のスキな空間は、最初はとある一箇所だった。
故郷(ふるさと)かもしれない。
そしておそらくそれは東京じゃない。

東京で運転手という仕事をしているが、もしかしたら別な土地土地でも同じ仕事をしていたかもしれない。
そんなジャーニーを続けていった中、どこかで決めたのではないだろうか。

「掛川」を自分のスキとスキじゃないの分岐点にしよう、と。

光のスペクトラムのように、彼がスキな一点は拡がりを帯びていった。
だけど、理由はわからないけど、彼のスキは掛川を越えることはなかった。
今なお彼にとってのスキは掛川より西。
そして、もしかしたらあらゆることの判断基準の中に入っているかもしれない。「掛川より西かどうか」が。

彼の頭の中にある日本国地図は、たぶん私の頭の中のそれとは違う。
それってつまり、日本国そのものの見方が違う、ということでもある。

掛川という土地が、その名前が、彼の中では特別な意味を持っているのだ。

続きは次回

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せいたもとつぐ
若い頃に希死念慮で苦しんでいた私は自殺未遂とうつを繰り返してきました。でも人生は苦しむためにあるのではない、という当たり前のことを心底感じられるようになった今、自分にできることをしたい。あなたのサポートがそれを後押ししてくれます。一緒にこの世界を輝かせていきませんか?