ペラグラ
ニコチン酸(前駆物質:トリプトファン)の欠乏
リスクファクター:アルコール乱用者、免疫抑制薬や抗結核薬など
3つのD:皮膚炎 Dermatitis、消化器症状Diarrhea、神経精神症状 Dementia
治療:ニコチン酸アミドの補充
検査に限らず、リスク・症状から疑ったら治療を!
適切な治療を受ければ、回復の予後は良好
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ペラグラは、ニコチン酸やその前駆物質であるトリプトファンの低下を主体とした栄養素欠乏症の、まれな病気です。
ナイアシンは、ニコチン酸とニコチン酸アミドの総称であり、ビタミン B3 とも呼ばれます。
ニコチン酸は直接食べ物より吸収する以外に、トリプトファンから合成されます。
トリプトファンが、ビタミン B1・B2・B6 の働きによりニコチン酸、ニコチン酸アミドに変換されます。
<原因>
歴史的な原因は、不適切な食事で、主にトウモロコシ製品の摂取でした。
トウモロコシは、トリプトファンが不足しており、さらに非消化性のナイアシンが含まれていました。
先進国では、低い有病率のため、正確な診断と治療がしばしば遅れます。
現在ペラグラは、アルコール乱用者や特定の薬剤群(免疫抑制薬および抗結核薬)の治療を受けている人々に発症しています。
1番目の原因は、アルコールです。
エタノールの過剰摂取は、ナイアシン代謝を深刻に損ないます — 不十分な栄養素およびB群ビタミンの摂取と吸収の障害だけでなく、エタノール分子によるキヌレニン経路酵素の直接的な変更も含まれます。
2番目の原因は、免疫抑制薬と抗結核薬です。
免疫抑制薬:アザチオプリン、6-メルカプトプリン、5-フルオロウラシル
抗結核薬:イソニアジド、ピラジナミド、エチオニアミド
またナイアシンおよびトリプトファンの摂取、吸収が損なわれる
炎症性腸疾患や腸炎、慢性下痢(HIV感染を含む)も原因になりえて、負のサイクルに陥ります。拒食症でも現れる可能性があります。
ほかカルチノイド腫瘍(トリプトファンの代謝異常)、ハートナップ症候群(トリプトファン吸収の遺伝子異常)など
<症状>
光線過敏性を伴う皮膚炎、消化器症状、神経精神症状です
医師国家試験では3D (Dermatitis、Diarrhea、Dementia)と習ったと思いますが、
適切な治療が行われない場合に多臓器不全で患者が死亡するため、死Deathを意味する4番目のDが追加されます
皮膚および神経系の症状が、消化器系の症状よりも前に現れます
・皮膚症状
Pellagraは、イタリア語の "pelle"(肌を意味する)と "agra"(粗いを示す)の意味で、「粗い皮膚」のことを指します。
光線過敏症群に分類されます。発疹は対称的で、紫外線にさらされた領域に現れます。
一般的な局在は、手の背面(95%以上のケース)、顔、首が含まれます。骨の突起部位、会陰および陰嚢の周囲で発生することもあるようです。
徐々に、紅斑は退色(マホガニー色またはシナモン色)になります。皮膚は非常に乾燥し、表皮の強い剥離により羊皮紙のような外観になります。
最終的には、過剰で異常な角質化(鱗の形成)と手と足の表面に亀裂が生じる苔蘚化が発生します。ペラグラの皮膚病変の形態を説明するために使用される別の用語は「シェラックのような外観」です。
部位によって色んなサインが言われています
手の背面と前腕の特徴的な変化の分布をゴーントレット(またはグローブ)サイン
下肢では、足の背面と脛の前面に(ブートサイン)、靴がほとんどの時間履かれる温暖な気候の国々ではサンダルサイン
顔では、三叉神経支配の解剖学的経路の領域に局在します。鼻と頬の表面の紅斑は時折、SLEの蝶形紅斑に似ます。まぶたと耳介の皮膚は通常影響を受けません
首の根本を取り囲む発疹は、カサールのネックレスサイン(ほとんどの場合、C3およびC4の皮膚神経節の領域で時折胸骨領域の皮膚にも広がるクラバットサイン)
ペラグラの最初の歴史的な著者であるドン・ガスパール・カサール(1735年)に敬意を表しています
ガスパール・カサールは1762年にスペイン北部のアストゥリアス地方でペラグラを記述しました。貧しい農民の、すべての患者が手や足の甲に典型的な赤みがかった光沢のある発疹を持っており、主にトウモロコシを摂取し、新鮮な肉をほとんど食べなかったことを観察しました。
・消化器症状
下痢は20%の患者で報告されています
早期の消化器症状には食欲不振、吐き気、嘔吐が含まれます。患者の1/3では唇の周りが腫れ、口腔粘膜に炎症を伴っています。
約60%が口唇炎、舌肥大および多発性のびらん(嚥下障害を引き起こす)を有し、別の一般的な症状には、無塩素酸の胃炎があります。
・神経精神症状
神経精神症状は、皮膚病変が始まってから数年後にも発生する可能性があります。
初期段階では非特異的なもので、注意力の低下、神経質および頭痛、疲労
その後、睡眠障害、気分障害(うつ症状)、不安障害が発生します。
最も重篤な症状では統合失調症、進行性の記憶喪失、幻覚、および錯乱があります。
神経精神症状がWernicke脳症の症状に類似する可能性があるため、注意が必要です(以前の投稿をご参照ください)
<診断>
ほぼ臨床判断だと思っています。
診断が難しい場合、全血および尿中のトリプトファン、NADおよびNADPの濃度を測定することが検討されるかもしれません。
24時間の尿採取でN1-メチルニコチンアミド(NNMT)の排泄が0.8 mg未満であれば、ペラグラの可能性が示唆されています。
ナイアシン代謝を評価するためには、「ナイアシン数」([NAD]/[NADP] × 100)を計算することができます。130未満の値はナイアシン欠乏を示唆します。
いずれの検査法も、確定診断のために使用されるには十分な感度と特異度を有していません。
鑑別診断
<治療>
ペラグラの標準治療は、経口のニコチン酸アミド(ナイアシン)の補充です。
一般的な投与スケジュールは、1日に3~4回に分割した合計300 mgです。
治療は3~4週間続ける必要があります。改善は通常数日で始まり、最初に皮膚病変から収束します。
ほかの文献では、
主要な急性症状が解消されるまで、またはすべての皮膚病変が癒合するまで、ニコチンアミド100 mgを経口で6時間ごとに投与し、その後、50 mgを8~12時間ごとに経口で投与すること。
原因に薬剤性が疑わしければ、薬剤の中止も検討されます。
(ただ治療にあたってのキードラッグだったりすると思われるので、補充追加でもいいのではないかと思いますが…)
<予後>
未治療のペラグラは徐々に進行し、最終的には4-5年以内に死に至ると言われています...
継続的な下痢による大量の栄養失調、併発する感染症による合併症、または神経症状によるものです
一方、ペラグラと診断され、適切な治療を受ければ、回復の予後は良好です
実臨床では
①アルコール+急性経過の意識障害
②アルコール+下痢
で来ることが多いのではないでしょうか
①とりあえずビタミンB1を入れると思いますが、それでも改善がなさそうなのであれば、ナイアシンを入れることは治療予後やコスパとしてもよいのではないでしょうか?
②アルコールによる腸管機能不良(自律神経障害)として評価されることが多いと思いますが、ひとまずナイアシンを入れてよくなるのか試す余地はあるのかもしれません(皮膚症状もあったら、尚更ですね)
Hołubiec P, Leończyk M, Staszewski F, Łazarczyk A, Jaworek AK, Wojas-Pelc A. Pathophysiology and clinical management of pellagra - a review. Folia Med Cracov. 2021 Sep 29;61(3):125-137. PMID: 34882669.
Hegyi J, Schwartz RA, Hegyi V. Pellagra: dermatitis, dementia, and diarrhea. Int J Dermatol. 2004 Jan;43(1):1-5. PMID: 14693013.
ペラグラの皮膚 BRAIN and NERVE 71巻4号 (2019年4月発行)
アルコール依存症患者に生じたペラグラの 1 例 臨床皮膚科 67巻13号 (2013年12月発行)