心不全 定義・診断編
心不全は、「心臓が、全身の末梢組織の需要に見合う、十分な血液を送り出せない状態」「心臓の構造または機能の異常により、全身の末梢組織の需要に見合う、十分な酸素を送り出せない状態」と定義されていますが、
それって実臨床ではどういうこと?と、難しく、非実用的でした。
2021年にESCの心不全のガイドラインがPublishされました。
ESCはかなりきれいな図が多くて、英語が読めなくても図だけで大体やることがわかるのでおすすめです。
https://academic.oup.com/eurheartj/article/43/5/367/6491391
2021年に新しく再定義された、心不全のUniversal definitionです。
https://onlinejcf.com/article/S1071-9164(21)00050-6/fulltext
日米欧の3団体合同で作った最新のものです。
要点をまとめると
①EFの基準がしっかり統一されました
HF reduced EF (HFrEF): EF of <40%
HF with mildly reduced EF (HFmrEF): EF of 41% to 49%
HF with preserved EF (HFpEF): HF with anLVEF of50%
HF with improved EF (HFimpEF): HF with a baseline LVEF of40%, a10-pointincrease from baseline LVEF, and a second measurement of LVEF of>40
この変更の大事な点として
「一度でもEFが下がって心不全となった患者は、OMT:Optimal Medical Therapyを無くしてはならない」
「治ったとは言わずに寛解と考えるべし」
という所です。
②AHAのステージングがより強調されるようになりました
Pre HF(HF at risk)~Advanced HFになっています。
これにて患者さんへの情報共有がわかりやすくなりました。
HF at riskは要するに高血圧や糖尿病などで、あまり実臨床で心不全を意識する事はないと思います。現実的にはStage Cから相手にすることが多いと思います。
③BNPの立ち位置が上がりました
心不全の診断には、「心臓の構造的異常」+「らしい症状」+「らしい所見」の3つの要素から構成されますが、さらにBNPの上昇は、Framingham基準よりも重視されて、表現されるようになりました。
しかし肥満で修飾されること、心嚢液や収縮性心外膜炎のような外側から押される病態だとほぼ正常値の事もありうること等が書いてあります。
(今までの心不全の定義がわかりにくいところだったので、BNPでわかりやすくするというのは一部賛成で、一部反対なところもあります)
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「心不全らしさを上げる症状・所見について」
教科書的には、Framingham基準ですが、実際の尤度比はこんな感じです。
JAMAのDoes This Patient シリーズです
Does This Dyspneic Patient in the Emergency Department Have Congestive Heart Failure?
https://internal.medicine.ufl.edu/files/2012/06/5.16.21.-Does-this-patient-have-CHF-review.pdf
各カテゴリーで最も可能性のある要素は次の通り
(1) 過去に心不全の経歴があること (陽性LR = 5.8; 95%信頼区間 [CI]、4.1-8.0)
(2) 夜間発作性呼吸困難の症状があること (陽性LR = 2.6; 95% CI、1.5-4.5)
(3) 三音(S3)の所見があること (陽性LR = 11; 95% CI、4.9-25.0)
(4) 胸部X線で肺静脈うっ滞が見られること (陽性LR = 12.0; 95% CI、6.8-21.0)
(5) 心電図で心房細動が見られること (陽性LR = 3.8; 95% CI、1.7-8.8)
心不全の確率を低下させる要素は
(1) 過去に心不全の経歴がないこと (陰性LR = 0.45; 95% CI、0.38-0.53)
(2) 労作時呼吸困難の症状がないこと (陰性LR = 0.48; 95% CI、0.35-0.67)
(3) 吸気性ラ音の所見がないこと (陰性LR = 0.51; 95% CI、0.37-0.70)
(4) 胸部X線で心拡大が見られないこと (陰性LR = 0.33; 95% CI、0.23-0.48)
(5) どんな心電図異常もないこと (陰性LR = 0.64; 95% CI、0.47-0.88)
血清BNP(B型ナトリウム尿素ペプチド)の低値が最も有用な検査であること(血清BNP <100 pg/mL; 陰性LR = 0.11; 95% CI、0.07-0.16)
病歴とphysicalは大事であることは書かれている上で、BNP、NT-proBNPへの信頼がどんどん強くなっています。
次は
・心不全の原因・病態編
・慢性心不全の治療編
をお送りしていきたいと思います。