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【調べてみた】 メカニズムに注目。 加工肉・発色剤・発がん物質②

記事の目的

健康を意識したことがある人であれば一度は聞いたことがあるであろう加工肉製品に使われている発色剤と発がん性に関して調べ、自身の食生活の中で加工肉製品の位置付けを決めることを目的とし情報を集めました。

私の結論

まず初めに、加工肉製品を食べることに関して現時点での私なりの結論は

「加工肉製品を避けることに害はない」です。

順を追って、私がこの結論に至った理由を説明します。

なぜ加工肉製品に発色剤が使われるのでしょうか

ハムやベーコン、ソーセージのパッケージの裏を見ると、たくさんの材料が表記されています。この中で、「亜硝酸ナトリウム」というものがいわゆる「発色剤」と呼ばれるものです。亜硝酸ナトリウムは微生物の増殖を抑え、保存性を高めると同時に肉を優しいピンク色に変化させ、加工肉に独特の塩漬けの風味も与えます。
つまり、亜硝酸ナトリウムは防腐剤兼発色剤ということになります。亜硝酸ナトリウムがなければ、ベーコンは灰色い平たい肉になってしまいます。

加工肉製品の発色剤→発がん性物質生成のメカニズム

「発色剤が使われている加工肉製品を食べると体内で発がん性物質が生成される」と聞いたことがある人も多いと思いますが、発色剤(亜硝酸ナトリウム)を摂取するとそもそも体内で何が起きるのでしょうか。

発色剤が使われている加工肉製品を食べると、発色剤はアミンやアミドと呼ばれる化合物と反応しN-ニトロソ化合物(NOC)が生成されます。
下の図のようにNOCは特定の化合物のことではなく、N=Oを含む有機化合物のグループのことです。

このNOCに属するニトロソアミンの中で、N-ニトロソジメチルアミン(NDMA)と言う物質は動物実験において非常に強力な発がん物質であることが分かっています。

NDMAが強力な発がん物質であるということから、この事実を難しくなく、注目を集めるにはどうすればと考えた時に「発色剤が使われた加工肉製品を食べると体内で発がん物質生成する」という説明になったのでしょう。

アミン、アミドについて

上に登場したアミンやアミドとはなんでしょうか。
ややこしい有機化学の話抜きに説明すると、アミンやアミドは有機化合物の分類の一つで両者ともにアミノ酸、タンパク質、ホルモン、神経伝達物質、DNAなど、私たちの生命維持に不可欠な分子に多く含まれており、生物学的に重要なものです。

亜硝酸 X  アミン/アミド = 何パターンもの異なるNOC

このセクションはややこしいかもしれん。もしややこしかったら次の「発がん性物質生成のメカニズムを知った上で出来る選択」までスキップしてください。

▶️アミン/アミドには多くの種類が存在します。そのアミン/アミドと亜硝酸をかけ算をして(かけ算をする状況やかけ算をするそれぞれの量に応じて)できるコンビネーション(=NOC)も多数になるということを表を使って説明しています。


表の説明

amine-1,2,3 、amide-1,2,3
アミンやアミドは同じ構造を有する化合物の大きなくくりなので、アミンと一言で言っても様々な化合物が存在します。そのため、それらを表す方法として表では簡易的にamine-1,2,3,…、amide-1,2,3….とています。

nitrate
亜硝酸ナトリウムは英語でsodium nitrate と言います。これはsodiumとnitrate がくっついたものです。sodium nitrateのnitrateつまり、亜硝酸が
アミンやアミドと反応する物質です。

NOC1,2,3,4,5,6,7…
A欄のnitriteとamine &amideが反応してできる化合物NOCにも、アミンやアミドの数だけ異なるNOCが生成されるのでNOC1,2,3,4…としています。

B欄の❌🟢
上に書いたようにNDMAという物質は強力な発がん性があると分かっていますが、何パターンも存在しうるNOC全てに関して発がん性があるか、どのくらい強い発がん性があるかは全て研究され解明されているわけではありません。なので❌🟢はあくまでも例です。


発がん性物質生成のメカニズムを知った上で出来る選択

亜硝酸とアミン/アミドが反応して生成するNOCですが、表から分かるようにに多種類のNOCが生成すると考えられますが、これらひとつひとつについてどの程度の発がん性をもつのかやどのくらいの量が危ないのかなど分かっていないことが多くあります。
ですが、まだ分かっていないことが多いNOCだからこそ、この反応が起こらないようにするにはどうすればいいのかと考えた時に、論理的にはどちらかを避けるという方法が考えられます。
上で説明したように、アミンやアミドはアミノ酸、タンパク質、ホルモン、神経伝達物質、DNAなど、私たちの生命維持に不可欠な分子に含まれているので、避けるどうこうの話ではありません。
そうすると、必然的にできるだけ亜硝酸の量を減らすことが現時点で出来ることではないでしょうか。
私たちがコントロールできるレベルの話でいうと、亜硝酸ナトリウムが使われている加工肉製品の摂取をできるだけ控えるということになると私は思います。

まだまだ解明されていないことが多い亜硝酸塩

亜硝酸塩は、野菜に含まれている硝酸塩が私たちの唾液中のバクテリアによって亜硝酸塩に変換されることでも体内に存在します。この唾液は飲み込まれるため、野菜を食べると腸内が高濃度の亜硝酸塩にさらされることになるのです。

ん?亜硝酸塩と硝酸塩?
ややこしいので一度整理します。

亜硝酸塩:この記事で何度も登場している発色剤として使われる亜硝酸ナトリウムの亜硝酸の部分です。

硝酸塩:ビーツやセロリ、キャベツなどの野菜に多く含まれていて、人工的に作られた物質ではありません。

野菜に多い硝酸塩 X  唾液中のバクテリア → 亜硝酸塩

ここまで、加工肉を控えることで摂取する亜硝酸ナトリウム(アミン/アミドと反応して発がん物質を生成に関与)低くすることが論理的なのではないかと書いてきましたが、ここで皆さまが「は?」「ん?」と思うことを書きます。

体内に存在する亜硝酸塩の大部分80%ほどは、「野菜の硝酸塩 x 唾液中のバクテリア」から生成されたもので、加工肉を食べることで摂取する亜硝酸の量は全体の5〜10%以下にすぎません。

これを読むと、当然

・加工肉を食べることで摂取する亜硝酸の量が割合としてこんなにも少ないのなら健康への害はあまりないのではないか?
・もし亜硝酸塩の摂取だけで直接的にがんを引き起こすのであれば、野菜を食べることでさえ私たちに害を与えてしまうのか?

などの疑問が湧いてきます。

そのため、野菜の硝酸塩由来の亜硝酸は発色剤の亜硝酸塩と同じように健康を害する可能性があるのかどうかに関して研究されています。

次回は

野菜に多く含まれる硝酸塩が体内で亜硝酸塩に変換されるとどうなるのかや、亜硝酸ナトリウムとがんリスクについて研究をした良質な論文(メタアナリシス)を紹介します。
今回はメカニズム的になぜ発色剤が使われているものを控えた方が良いと思う理由を紹介しましたが、次回は研究データに基づきなぜ私がそのように思うのかを紹介します。

NDMAについて(補足)

動物実験から強力な発がん物質と分かっているNMDAですが、明確に発がん物質であるとの証拠があるため、ヒトにおける発がん性があるかどうかの研究はほとんど行われていません。アボカドは健康に良いかもしれないという、何か良いことを証明したいときは、例えば1日1個アボカドを食べるグループと食べないグループに分けて観察をすることができます。ですが、すでにヒトで強い発がん性がある物質や発がん性が疑われている物質を投与するグループとそうでないグループに分けて観察をするというような研究は倫理的にできません。そのため、ヒトに関して発がん性が観察されるNMDAの量は分かっていません。

参考文献

Kobayashi J. Effect of diet and gut environment on the gastrointestinal formation of N-nitroso compounds: A review. Nitric Oxide. 2018 Feb 28;73:66-73. doi: 10.1016/j.niox.2017.06.001. Epub 2017 Jun 3. PMID: 28587887.

WHO (2002) N-Nitrosodimethylamine. Geneva, World Health Organization, International Programme on Chemical Safety

Zhang FX, Miao Y, Ruan JG, et al. Association Between Nitrite and Nitrate Intake and Risk of Gastric Cancer: A Systematic Review and Meta-Analysis. Med Sci Monit. 2019;25:1788-1799. Published 2019 Mar 9. doi:10.12659/MSM.914621

Sindelar, J. J., and A. L. Milkowski. 2012. Human safety controversies surrounding nitrate and nitrite in the diet. Nitric Oxide. 26:259-266.

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