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Tad – God's Balls (1989)

 『God's Balls』にはグランジに必要なものがおよそすべて備わっている。プロト・グランジを体現したJack Endinoのプロデュースしたそのサウンドは、90年代を目前に沸騰寸前だったシアトルの持つすさまじい熱気に満ちていた。なによりもGary ThorstensenとTad Doyleの放つギターサウンドは、まだメタルと分離しきっていなかった時代の生々しさが感じられるし、Doyleのボーカルや歌詞もまたハードコアそのものだ。
 リズム隊も盤石で、特にSteve Wied(元Skin Yard)のドラムは、巨漢のDoyleがいくら喚き散らそうとびくともしない。Black Sabbath由来の伝統的なリフと、感情を爆発させるようなフィードバックノイズが同居した「Boiler Room」は、バンドのサウンド面でのスタンスがはっきりと示されている。歌の世界観も、アンダーグラウンドに生きる人間の心意気を感じさせるものだ。神話の怪物を大胆に現代に登場させたかと思えば、トチ狂った労働者の白昼夢のような展開さえ見せる歌詞は、陰鬱で同時に暴力的だが、それが生々しい魅力にもなっている。
 Tadはサブポップ・レーベルと契約した最初期のバンドの一つであり、本作の発表後もメンバーの変遷を経ながら首尾一貫したサウンドを追求したが、NirvanaやSoundgardenのような栄光をつかむことはなかった。しかし、グランジ・ムーブメントの誕生に立ち会っていた本作は、確実に尊敬に値するアルバムである。