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Kinky Friedman – Sold American (1973)

 Kinky Friedmanはテキサス大学の学生だった頃からKing Arthur & The Carrotsというバンドを率いていたが、当時歌っていたのはカントリーではなくホットロッドだった。1973年に発表されたFriedmanのファースト・アルバムは、文学に造詣の深い彼らしく風刺に満ちた内容で、カントリー・ミュージックの世界に大きな風穴を開けることとなる。
 ユダヤ系という出自は、The Texas Jewboysという彼のツアー・バンドの名前だけでなく、ホロコーストへ思いをはせた名曲「Ride 'Em Jewboy」の中に最も強く表れている。悪名高いテキサスの銃乱射事件を克明に描いた「The Ballad Of Charles Whitman」は、冒涜とも取れるほどに明るい曲調で抑圧的な社会を逆説的に憂いている。生粋のテキサス人からは生まれない屈折した曲のライティングは、凝り固まった歌に退屈していたロック世代の精神性を反映していた。
 演奏やコーラスはクラシックそのもので、「Sold American」にはどん底に落ちぶれていく人生の悲哀が溢れており、繊細なギターの音色がまるで慰めるかのようにそれを包み込んでいく。こうしたバラードの美しさが、Friedmanのミュージシャンとしての才能をこれ以上なく証明している。
 本作の時点でFriedmanの音楽性が完成を見ていたのは明らかだが、彼が本格的に注目されるきっかけとなったのはBob Dylanのコンサート・ツアーに参加したことだった。後のアルバム『Lasso From El Paso』の録音にはT-Bone BurnettやDr. John、さらにThe Bandのメンバーといった豪華な面々がそろっており、同作はカントリー・ロックの名盤として永遠の存在となった。