Herbie Mann – Memphis Underground (1969)
60年代中期のラテン・アルバムではJoão Gilbertoのような本格派とコラボし、傑作を連発してきたフルート奏者Herbie Mannだが、彼の次なる志向はアメリカ南部の音楽をジャズと融合させることだった。テネシー州のアメリカン・サウンド・スタジオに乗り込んで録音された『Memphis Underground』には、Elvis Presleyとの仕事で知られるBobby EmmonsやReggie Youngを擁したThe Memphis Boysというバンドが参加しており、MannはそこへSonny Sharrockの破壊的ギターのエッセンスを加えた。結果としてこのアルバムは純粋なメンフィス・ソウルでもニューヨークの洒脱なジャズでもない、真に個性的なサウンドに仕上がった。
8ビート・ジャズの「Memphis Underground」を除けば、本作はすべてカバー曲で構成されている。Sam & DaveがヒットさせたR&Bナンバーの「Hold On, I'm Comin'」はMannのお気に入りで、本作以前にもA&Mレーベルで一度録音しており、ライブの常連曲(映画『サマー・オブ・ソウル』でも登場)にもなった。流麗でクールなフルートとRoy Ayersのヴァイブに、Larry Coryellが熱くドライブするギターで応え、後半はSharrockのソロへとなだれ込む。地域やジャンルといったあらゆるボーダーをなぎ倒す彼の演奏は、セッションに遠大なパワーと自由をもたらしている。
懐かしの「New Orleans」も印象的だが、「Battle Hymn Of The Republic」におけるMannの美しいプレイは特筆に値する。激しさとおだやかさを巧みにフィーチャーした『Memphis Underground』の商業的成功は、ディスコ、レゲエ、純邦楽にまで至るMannのクロスオーバー精神にますますの拍車をかけていった。