Grant Green – Idle Moments (1965)
『Idle Moments』のレコーディング・メンバーであり、タイトル曲の作曲者であるDuke Pearsonは、ライナーノーツにて当時のセッションにまつわる興味深い回想をしている。「Idle Moments」のメロディはもともと16小節として設定されていたが、本番でGrant Greenが繰り返し演奏したことにより32小節となった。この引き延ばしが重ねて行われたことにより、16小節を2回弾くはずだったGreenのソロは結果として2倍の長さになった。Pearsonは土壇場で彼の意志を理解し、テイクの長さが大幅に伸びることを承知で自身も32小節のソロを弾き、サックスのJoe Hendersonにもそれを引き継ぐよう目配せをした。
録り直しが決まっていたようなテイク、つまり失敗同然だということは、演奏中のメンバー全員が確信していた。しかし、そんな中で生まれるゆったりとしたフィーリングは、普通のセッションでは出しえなかった不思議な空気に満ちていた。それにこそモダン・ジャズの神髄の一端が表れていることは、プロデューサーのAlfred Lionを含めたその場の誰にも明白だったという。無為に真理を見出したこの名演には「Idle Moments」という素晴らしいタイトルが付けられた。もっともLPを作るためには他の収録曲の尺を無理矢理に縮めざるを得なかったが。
「Jean De Fleur」は一転してテンポの速い曲で、気を引き締めたソロの応酬が繰り広げられる。MJQの「Django」は、原曲には無かったギターとホーンが加わり、独特の深みが生まれた。この曲ではややおとなしかったBobby Hutcherson(メンバーの中でもとりわけ若かった)のビブラフォンは、同様にテンポの速まる「Nomad」でここぞとばかりに光った。Hendersonのプレイはアルバムを通して安定している。そしてなにより、先述のようなドラマが生まれたのは、Bob CranshawとAl Harewoodによる盤石のリズム隊がいたからにほかならない。