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Johnny Cash – John R. Cash (1975)

 ほとんどがカバー曲で構成されていることに加えて、自伝において批判の対象となっている本作に、よりによってJohnny Cash自身の本名が冠されているのはなんとも皮肉な事実だ。バンドの演奏と別にボーカルを録音する制作スタイルやThe Tennessee Threeの不参加などに、Cashはかねてから不満を漏らしていた。
 本作のバックにはJames BurtonやLarry MuhoberacなどElvis Presley人脈のプレイヤーに加えて、Nick DeCaro、Joe Porcaro、David FosterといったAOR界の大御所となるミュージシャンたちが名を連ねた。「Lonesome To The Bone」は前年の『Ragged Old Flag』にも収録された曲で、両者のバージョンを比較すれば明らかなように、本作には70年代らしいアダルト・オリエンテッドな雰囲気が漂っている。しかしそれは決してあからさまではなく、鼻につくようなアレンジもない。『John R. Cash』には彼の音楽の新たな側面が表れており、そこに新鮮な印象を受けることも確かなのである。
 The Bandの名作「The Night They Drove Old Dixie Down」は、ピアノを主体にした演奏やゴスペル調のコーラスが特徴だが、これはJoan Baezのバージョンを強く意識したものだ。Randy Newmanによる「My Old Kentucky Home」は、原曲のカントリー的なサウンドとストリングスのアレンジが共存した素晴らしい仕上がりを見せており、Cashの義理の息子の筆による「Hard Times Comin'」はたくましく生きる人間の姿を歌った名曲だ。他にもシンガーソングライターのTim Hardinによる2曲など、聴きどころは多い。